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Vol.28 「バランシング」
バランスを取るための工夫

 乗馬における3大スキルは、バランス・フィール・ドライブで、バランスはその中の一つであるだけでなく、フィール・ドライブのスキルを身に付けるためには、ある程度身に付けていなくてはならないファウンデーションスキルだといえる。


 バランスを取るために工夫を考える前に、バランスの実態を知る必要がある。


 ここでいうことのバランスとは、日本語で平衡感覚ということだ。
 バランスは、反射神経によって司られている機能で、大脳ではコントロールすることができない。大脳は、生命を守るために緊張してプロテクトしようという機能を持ち、この緊張がバランス感覚を阻害してしまう恐れを持っている。


 バランスを養成するには、工夫することであって、意識的に直接バランスを取ろうとしてはならない。稚拙でやりがちな悪い方法は、意識してバランスを取るようにしたり、インストラクターがそれを指示したりすることだ。このことがバランスの養成を、只ただ遅らせる効果しかないことを我々は知らなければならない。


 それでは本題のバランスを、養成することにしましょう。

 個人差はあるものの誰でも、多少のバランスを取れる能力を持っている。バランスを養成するということは、元々持っている能力を増幅することで、ないものを作るということは違う。
 バランスの大敵は、大脳の働きだ。不安や緊張が反射神経の働きを阻害する。インストラクターが、バランスを一生懸命必死になって取ろうとしているライダーに、もっと力を抜くようにと注意を与えたり、大きな声を出してライダーを緊張させたりしているのを見かけるが、これは不安や緊張を煽ってしまってバランス機能を阻害する全く逆効果なことなのだ。


 バランスを養成する第一歩は、バランスを取る練習をするとき、大脳を極力使わないことだ。大脳を使わないということは、意識してバランスを取ろうとしないということで、その第一は馬をコントロールしようとしないことだ。馬をコントロールしようとすれば、大脳が働き反射神経の機能を阻害してしまう。
つまり馬をコントロールしなくて良い環境を作って、バランスの練習をするということだ。それはラウンドペン(円馬場)や調馬索を使って騎乗して、ライダーはひたすら馬に乗ることに専念することだ。

 そして、駈歩の歩様でバランスの練習をすることがもう一つの大切なことだ。
 何故なら、馬の歩様で一番安定したリズムがウォーク(4拍子)で、次ぎにロープ(3拍子)で、最後がトロット(2拍子)だからだ。特にトロットの2拍子は、往復運動で往復の折り返し地点において一番負荷がかかる。この負荷かがかかることによって、ライダーはバランスを取るのに、180度進行のベクトルが転化するので一番難しいといえるのだ。ただスピードがロープと比べると遅いので、誰でもがバランスの養成時点で、トロットでしたがる傾向にあるのだが、これはメカニズム的にいえば間違いなのだ。

 ロープは3拍子のリズムなので、2拍子の往復運動に比べて楕円運動に近く、進行ベクトルが徐々に折り返しているので、トロットに比べてバランスを取りやすい。


 一概にバランスを養成するのに、ロープが相応しくトロットは良くないというわけにはいかない部分がある。それはスピード感だ。スピード感がロープにはあって、トロットは遅いのでそれがない。
 スピード感は、ライダーの精神に極めて大きな影響力を持っていて、速いだけで不安を煽ってしまうので、ライダーが不安に陥れば直ちにバランスを取りにくくなってしまうということだ。


 バランスを養成するためには、向いた馬がいるということも大事な要素なのだ。それは精神が安定していて、一定のスピードでコンスタントなリズムを刻みロープを続ける馬だ。


 バランスの養成をする初期段階では、如何にライダーの大脳をリラックスさせて馬をコントロールしなくて良い環境下で、ロープを重点的に乗る練習に徹することが必要だ。


 馬は、ロープの発進が極めてスムースで、特に速いトロットがロープ発進の前に入らないことが重要だ。そしてロープのスピードが適度な速度でしかもコンスタントなリズムを刻むこと。


 そしてまたライダーは、リラックスして騎乗することが大切で、特に緊張しやすい恐がりの人には、インストラクターが話しかけたり馬以外の話題を持ちかけたりして、兎に角ライダーの緊張を和らげるようにすることが大切だ。


 バランスの養成は、リラックスして騎乗することに尽きるが、ライダーにとっては永遠のテーマで、これで良いということはない。そこでライダー自身がする工夫として、騎乗中の視線をなるべく遠望するようにすることと、踵を少し下げて鐙を履くようにすることだ。こうすることによって、馬の動きの影響を受けて前のめりになることを防ぐことができるので、ライダーの安定を崩さないようにする効果がある。


 またライダーの不安は、目線や頭の上下動によって、大きく影響を受けるという特徴を持っている。その為に首や肩や腰や足首の力みを極力小さくして、下半身の上下動があっても頭や目線の上下動を小さくするようにでき、不安を最小限におさえてバランスを取るのに貢献することができる。


 上級者になれば、このバランスが馬を如何にドライブするかという馬術上大切なスキルを左右するのである。ライダーが一点でサドルに座ることができ、ライダーの体重がトロットやロープで沈むタイミングで、その一点に負荷をかけることができれば、馬の後肢の踏み込みを伸長できる。


 バランスを養成するには、バランスを取ろうとしないことが肝心で、リラックスして身体の力を抜くようにすることができれば、可成りバランスを取れるようになるし、バランスを直接取ることなく間接的に効果のある工夫をするようにすることが大切だ。


       2009年5月14日
      著者 土岐田 勘次郎


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