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    VOL.101「扶助 (エイドAid)」

 2018年9月号

  今月のテーマは、扶助です。先月キューイングについて考察しましたので、今月は、ライダーの強制力による馬の姿勢や体勢を形成するメカニズムについて考察を試みたいと思います。



 さて、「扶助」の定義は、馬の動きを助ける働きをするライダーの馬に対する圧力ということになります。
 ライダーは、如何にしても馬の動きに強制的影響力を与えることはできません。強制力が多少あるとすれば、ライダー自身の重力であり、その重量をコントロールすることで、馬のバランスに影響を与えることができる点であります。
 そして、ライダーは、馬の姿勢を形成するために強制力を駆使できて、姿勢を形成することによって重心と駆動点との位置関係をコントロールして、馬のムーヴメントに対して、間接的に影響を与えることができるのです。

 先ず、重心と駆動点との位置との関係性について解説したいと思います。

 馬体の重心は、第4肋骨付近にあり、駆動肢は後肢で、特に駈歩のときは主に外方後肢となります。そして駆動肢の着地位置が駆動点となります。

 重心より後ろに駆動点があるとき、つまり後肢の着地点が重心より後ろに位置するとき、馬の自然体での運動はこの状態でのムーヴメントになり、メカニカルムーヴメントとなり、馬体を左側面から俯瞰すると左回転モーメントとなります。
 メカニカルムーヴメントは、重心の移動が起きた後に肢が動くという順序でのムーヴメントです。このムーヴメントは、エネルギー消費という観点で見ると、省エネで筋力をあまり使うことのないムーヴメントということができ、体力の消耗を軽減できます。
 つまり、馬は自然体として走行するとき、体力の消耗をできるだけ軽減する合理的運動を進化の過程で獲得したといえるのです。そして、ステップより前に重心移動を起こすため、首を振り子のように前後に動かして重心の移動を促しているのです。



 重心より前に駆動点があるとき、つまり後肢の着地点が重心より前に位置するとき、テクニカルムーヴメントになり、馬体を左側面から俯瞰すると右回転モーメントとなります。
  このムーヴメントは、駆動肢がステップした後に筋力でグランドを引き寄せ重心を移動させる運動で、肢が動いた後に重心の移動が起きるムーヴメントとなし、メカニカルムーヴメントに比べると筋力を大きく駆使するので体力の消耗が大きくなります。その代わりに筋力のコントロールによって、運動の精度を精密にすることができます。
 屈撓によって馬の首の動きを制御することによって、重心の移動を拘束し駆動肢のステップを促進するのは、テクニカルムーヴメントを起こしてパフォーマンスの精度の高めているのです。


 さて、ライダーの強制力は、馬体の姿勢を形成することにおいて発揮することができ、ヘッドやショルダーやハインドクォーターなど互いの位置関係をハミとシートや脚によって、支点と作用点の関係性を以て変えることができるのです。

 支点と作用点の2点間の力がパラレルになることによって回転モーメントが生まれます。つまり、作用と反作用の二つの力をパラレルにして、ライダーは強制的に回転モーメントを作ることができ、これによって馬の姿勢を形成することができるのです。
 例えば、内方姿勢や屈撓や収縮です。

 水平の回転モーメントによって内方姿勢を形成し、垂直の回転モーメントによって屈撓や収縮を形成します。

 姿勢を形成するとは、重心と駆動肢との位置関係もコントロールすることができるので、体勢を形成することができることになります。体勢とは、どのようなムーヴメントで運動するのかを決定付ける姿勢のことです。

 水平の回転モーメントを作る場合は、作用点としてレインを引く力と支点としてのシートや脚の力、この二つの力を水平としてパラレルになるようにすれば、水平の回転モーメントが生まれます。
 例えば、作用点としてレインを引く力が右方向で、支点としてシートや脚の力が左方向で、この二つの力がパラレルになるようにすれば、右回転モーメントとなります。この逆に、作用点としてレインを引く力が左方向で、支点としてシートや脚の力が右方向で、この二つの力がパラレルになるようにすれば、左回転モーメントになります。
 垂直の回転モーメントを作る場合は、作用点としてレインを引く力と支点としてシートや脚の力、この二つの力を垂直としてパラレルになるようにすれば、垂直の回転モーメントがうまれます。
 例えば、作用点としてレインを引く力を上方向で、支点としてシートや脚の力を下方向で、この二つの力をパラレルになるようにすれば、馬体を左側面から俯瞰すれば右回転モーメントを作ることができるのです。

 水平の回転モーメントを作ることによって、左右の内方姿勢を作ることができ、垂直の回転モーメントを作ることによって、屈撓や収縮を作ることができるのです。更に、垂直の回転モーメントによって、バランスバックをすることができます。

 馬の姿勢や体勢を形成するために、今日まで多くの馬術家は、レインハンドに頼り過ぎずに脚での推進力を多用しなければならないといってきましたが、これは大きな間違いで、回転モーメントを形成することで、姿勢や体勢を形成することができ、重心の位置さえもコントロールできるのです。そして、支点と作用点の力はイーブンで全く同じ力になる必然があるのです。
 つまり、作用点のレインハンドと支点のシートや脚との二つの力は、全くその大きさは同じとなるので違うようにはできないのです。レインハンドを多用するとか脚の力を軽視するとかは不可能なのです。

 ただ、作用点と支点の力を同一線上に位置させれば、回転モーメントは生まれないので、馬の姿勢や体勢を作ることは理論上できないのです。理論上とは、作用点と支点の力が同一線上に位置したとしても、馬体が曲がってしまえばこの二つの力はパラレルになるので回転モーメントが生まれてしまうことがあるからです。

 ライダーの扶助とは、必要に応じて水平と垂直の回転モーメントを同時に作ることであり、そして重心の位置をコントロールすることなのです。

2018年8月16日
著者 土岐田 勘次郎

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