Horseman's Column title

    VOL.113「山のあなた」

 2019年9月号

 今月のテーマは、ステップファーストにおける前肢の横の動きであります。

 馬のムーヴメントは、二通りあってノーズファーストとステップファーストであります。
 ノーズファーストとは、メカニカルムーヴメントといって、動くとは重心の移動であって、その重心の移動を促すときに、初動として馬が頭や首を使って行うノーズファーストで、もう一つはテクニカルムーヴメントといって、重心の移動を初動として4肢の筋力を以て行うステップファーストであります。



 馬の自然な動きは、メカニカルムーヴメントで、馬が動いているときに頭を振りながら動くのはそのためなのです。しかしながら方向の転換やスピードの変換をするためには、メカニカルムーヴメントでは重心が前肢寄りに位置するので少し不自由で、馬術となると重心を後方へ移行させて(バランスバック)、方向やスピードの変換を自在に行う必要があって、テクニカルムーヴメントつまりステップファーストのトレーニングが必要になるのです。

 これまでに以上のことは、折に触れて記述してきましたが、今回は、横の動きに限定して書きたいと思っています。
 何故なら、これまでこのテーマは主に前後の動きについてで、横の動きについて触れてこなかったからです。
 そこで、表題の「山のあなた」と記した理由は、馬の胸の中心から外側に頭を位置させたまま前肢に横のステップを求めるので、胸の中心を山の頂上と見立てて、運動方向の外側を貴方、内側を此方と称して、貴方に馬の頭を位置させたまま(固定)前肢に横方向へステップさせることから名付けました。
 つまり、前肢の横のステップにおいて、ステップファーストのムーヴメントをさせるということなのです。

 この運動を馬ができるようにすることで、方向やスピードの変換が容易になり、そしてビットコンタクトに対しての抵抗を軽減する効用が考えられるのです。何故なら、ノーズファーストの場合は、馬の頭の動きが重心移動を誘導するために先行するので、ライダーのガイドのためのビットコンタクトに対して無抵抗になりにくいのです。そして、スピードコントロールにおいても、ノーズファーストのムーヴメントは惰性が働くので、自在に緩急するというわけにはいかないのです。


 これに対し、ステップファーストは、運動のために馬の頭は重心移動を誘導しないので、ライダーによるビットコンタクトに対して物理的抵抗の必要性が少なくなります。またスピードの緩急についても、筋力運動になるので、惰性が少なくライダーの要求に応えやすくなるのです。

 以上のような理由から、前後の動きは勿論のこと前肢の横の動きにおいても、ステップファーストのムーヴメントができるようにトレーニングする必要があって、そのためには、ショルダーや肩胛骨などの柔軟性が必要なのです。

 そのトレーニング法は、馬の頭やショルダーの動きを、左右のレインや脚によって固定して、前肢のステップのみを求めるようにします。
 例えば、屈撓させたり馬の首を左右にベンドさせたりして、馬の頭を内方や外方に位置させたとしても、ショルダーの動きを固定して、前肢のステップを求める必要があるのです。
 このときライダーは、ショルダーの動きを固定して前肢のステップを求めることを強く意識する必要があります。特に、左右に首をベンドさせているとき、ショルダーの動きをさせないようにして、前肢のサイドステップを促すようにしなければなりません。

 ストレッチ運動において、ネックやショルダーやリブケージやフランクの柔軟性を求めるとき、馬がスティッフな時はノーズファーストのムーヴメントで行い、その後に柔軟性がある程度養成された段階で、ステップファーストのムーヴメントに切り替えて行う必要があるのです。



 ステップファーストのムーヴメントを作り出すためには、ノーズファーストをさせないようにすることで行うものと考えることができます。
 つまり、馬は自然に動けばノーズファーストになってしまうから、その頭や首の動きを固定して、動きを促すことで行うのがステップファーストだからです。

 前後の動きでは、重心の移動と馬の運動とをリンクして考えますが、横の動きとなると意識することが少ないので、これを意識することで馬の動きが思っているより大きく変化するのです。

2019年8月15日
著者 土岐田 勘次郎

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