Horseman's Column title

    VOL.123「馬の柔軟性」


 2020年7月号

 今月は、馬の柔軟性について考察してみたいと思う。

 ライダーが感覚的に捉える馬の柔軟性は、フィジカルの可動性、バランス、そしてメンタルの3要素において構成されるもので、主にビットやレッグコンタクトの馬体との接触点において、馬の反応である動きの硬軟を感覚的に感じ取ることができるものである。

 フィジカルの可動性とは、ネック(首)・ショルダー(肩)・フロントレッグ(前肢)・リブケージ(胸郭)・フランク(脾腹)・ヒップジョイント(股関節)・ハインドレッグ(後肢)などの可動性のことである。

 馬体の各パーツの可動性が高いことは、パーツそれぞれの筋肉や腱の伸縮性が良好であることが必要で、可動性が高いことでライダーの要求に柔軟に反応できるのであり、もし可動性が低ければライダーの要求に反応することが困難になるので、これを無理矢理ライダーが要求を続ければ、故障したりやがて馬は抵抗や拒否をしたりするようになり、馬のメンタルがライダーに対して反抗的になるのである。

 バランスとは、馬の自然体における重心は、第4肋骨付近にあるといわれ、前肢に60%強、後肢に40%弱の体重配分で立っているところから、馬のバランスは前よりにあるのでバランスフォーワードともいわれるのであるが、馬術では重心をより後駆へ移行させる。つまり、バランスバックをして、前肢の負重軽減をはかり運動方向の変換を軽快にできるようにするのである。
 バランスとは、重心の位置のことであり、表現を変えれば体重を主に何処に負重しているかということです。
 従って、馬がバランスフォーワードにあるとき、体重の前肢への負重割合が高くなるので、前肢やショルダーやネックの筋肉や腱が体重を支えるために緊張状態にあるので、ビットコンタクトに柔軟に反応することが困難になるのであり、一方バランスバックで状態であれば、後肢への体重配分が大きくなりその分前肢への負重が軽減されているので、ビットコンタクトに柔軟に反応しやすくなり、その分後肢が軽快に動き難くなるということなのである。
 そこで、収縮状態は、馬の4肢が重心に対して一番近くに位置している状態で、最小の力で馬体を支えることができる態勢なのであり、体重の負重に対する馬の運動器官の力を最小限にしている状態ともいえるので、ビットやレッグコンタクトに対して馬は柔軟に反応しやすいのである。

 そしてメンタルとは、馬の従順性のことで、ライダーのプレッシャーに対する馬の反応は、馬の精神状態が従順であれば抵抗せずに反応し、従順でなく反抗的であれば、抵抗や拒否を示すのである。従って、馬の反応が柔軟であるときは、馬のメンタルが従順であるということができるのである。

 ライダーが、馬の柔軟性を感じるときは、これらの3要素が全て具備したときであり、この3要素の内一つでも欠ければ柔軟性を欠くことになるのである。

 これらの3要素の内フィジカルの可動性とバランスの2要素は、馬の柔軟性の可能性という要素で、もう一つの要素のメンタルの従順性は、馬の意思に関わることで、馬が柔軟に反応するかしないかという要素なのである。

 以上のことから馬の柔軟性を養成するには、ライダーの要求に従うことが前提で、一つの要求に対して馬が従う反応を示したときに与えているプレッシャーをリリースして、馬の精神的リラックスを促すことを以て成す以外にはないのである。
 もっと俗っぽく表現すれば、プレッシャーをかけることは叱ることで、リリースすることは褒めることで、プレッシャーをかければ馬のメンタルは緊張し、リリースすれば緩和することになるのである。

 馬がライダーのプレッシャーに対して柔軟に反応するには、フィジカル・バランス・メンタルの3要素が整った状態であることが必須条件で、この内どれ一つでも欠けることがあれば、馬は柔軟に反応することはないのである。

 最も重要なことは、馬のトレーニングにおいてフィジカルの可動性を高める訓練であっても、馬の反応一つ一つにおいて、ライダーは絶えずその良否を判断し一貫したフィードバックとして、リリースするのか更にプレッシャーをかけるのかを判断して、馬に対してその意思表示を怠ってはならないのである。
 つまり、フィジカルの可動性を高めるトレーニングは、同時平行的にメンタルの従順性の養成を施さなければならないのである。

 ライダーと馬のコミュニケーションの原理原則として、「プレッシャーアンドリリース」というのがある。
 これは、ライダーが馬に何らかの要求する場合において必ずプレッシャーをかけ馬に緊張を与え、馬がライダーの要求に応えたとき与えていたプレッシャーをリリースして馬に緩和を与える。
 もし、このとき馬が要求に応えなかった場合は、更に、プレッシャーを加えて馬の緊張を高めて、要求に従ったときにこのプレッシャーをリリースし馬に緩和を与えるのである。 このことが、ライダーと馬とのコミュニケーションの原理原則なのである。

 その上で、「プレッシャーアンドリリース」におけるプレッシャーの最小値として「タッチアンドリリース」がある。

 タッチとはプレッシャーの最小限のことで、馬にプレッシャーをかけたときに、馬が制止していても動いていても幾ばくかのアンバランスが生まれるが、タッチはアンバランスが起きない範囲のプレッシャーと定義するものである。

 ライダーが馬にプレッシャーをかけたとき、馬にアンバランスが起きれば、馬はバランスを取ろうとするので、結果としてメンタル的に反抗するわけではないが抵抗が生まれるのである。この抵抗に負けずライダーが反応するまで要求を続けられれば、与えているプレッシャーをリリースして馬に緩和を与えることができる。しかし、ライダーが要求に馬が応えるまでプレッシャーを続けることができなければ、馬は抵抗することによってリリースが与えられることを学んで、抵抗を学習してしまうことになるのである。
 つまり、プレッシャーをかけたときに馬にアンバランスが生まれれば、馬の抵抗や反抗を生んでしまう隙間が生じる可能性を否定できないのである。
 そこで、「タッチアンドプレッシャー」が存在する理由があるのである。

 ライダーの馬に与えるプレッシャーが、馬のアンバランスを生じさせない程度のタッチであれば、最初から馬に抵抗は生まれないのである。そして、タッチしたことに馬が反応を示すまでこれを待ち、馬がやがて反応したときタッチをリリースすれば、馬はライダーの要求に抵抗や反抗の要素を微塵も生じさせることなく、従順に従うことを学習することになるのである。

 この論理は、新馬におけるトレーニングにおいて、必要もない抵抗や反抗を生じさせることなく従順なメンタル養成しつつファウンデーション作りをすることができる考え方なのである。

 馬をトレーニングする目的は、フィジカル的パフォーマンスの構築であるが、そのために、フィジカルの可動性やバランスのコントロールやメンタルの従順性の養成なくして到底出来ない話なので、フィジカルワークやバランスワークをする際に同時平行的にメンタルの従順性を養成することを施すことを忘れてはならないのである。

2020年6月15日
著者 土岐田 勘次郎

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