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    VOL.124「新説ステップの法則」


 2020年8月号

 今月のテーマは、これまで唱えてきたステップの法則に誤りがあったので、これを訂正するための論理を展開したいと思うものである。

 私が、これまでイメージしてきた馬のステップの法則は、思慮が浅く間違っていた。

 本題に入る前に、本稿に関する論理展開をするために使用する名称や定義について、これまで運動方向や回転方向を基準とした運動力学的表現を、解剖学的に使用されているものがあるので、これらを紹介し以後はこれに統一したいと思う。

 馬の頭頂(ポール)から尾骨(テールボーン)までを結ぶ線を正中線といい、サークル運動などの運動方向に関わらず、正中線に対して近づくステップをインサイドステップ(内転)、遠ざかるステップをアウトサイドステップ(外転)というのである。
 そして、これまで運動力学的に、サークル運動などの回転運動において、発生する遠心力のベクトルと逆方向をインサイド、同方向をアウトサイドといってきたが、解剖学的には、飽くまでも馬体の正中線に対して、上記のようにインとアウトを使い分けしているので、この点間違いやすいので注意されたいものである。

 更には、サークル運動において、これまでは求心性ステップをインサイド、遠心性ステップをアウトサイドといってきたのであるが、サークルの中心へ向かうステップを求心性ステップ、中心から遠ざかるステップを遠心性ステップというのである。

 さて定義や名称を統一したところで本題に入ることにして、これまでイメージしてきたステップの法則は、サークル走行であれば、サークルの回転方向に対して。前後肢共に求心性ステップをしているというものであり、求心的ステップとは回転運動における遠心力と闘って推進し、馬体の傾倒を防ぎ、運動エネルギーが外方後肢から重心を通って内方前肢へと向かう運動エネルギーの効率化を図っているというものであった。
 従って、内方の前後肢は馬の正中線に対して、アウトサイドステップ(外転)し、外方の前後肢はインサイドステップ(内転)しているというものであった。
 また、直進走行であれば、リードつまり右リードであれば右側へ、左リードであれば左側へ前後肢共にステップしているというもので、リード側の前後肢は正中線に対しアウトサイドステップし、外方の前後肢はインサイドステップしているというものであった。

 しかし、サークル走行では前後肢共に求心的ステップし、直進走行はリード側へリード側の前後肢は正中線に対してアウトサイドステップし、反リード側の前後肢はインサイドステップしている。
 つまり、サークル運動でも直進運動でも内方(リード側)の前後肢はアウトサイドステップして、外方の前後肢(反リード側)はインサイドステップしているといっていたのであるが、その一方で前肢も後肢も、内方肢(リード側)に対して外方肢(反リード側)がクロスオーヴァー(交差)してステップしているという矛盾を平気でいってきたのは誠に愚かしいことであった。

 これまでイメージしてきたステップの法則は、前後肢の4肢のステップの示すラインが互いに平行であるというものだったのである。しかし、左右の肢が前後肢共にクロスしながら進行しているので厳密に平行ではないが、進行方向に沿ったステップのラインを示すものとイメージしてきたのである。つまり、全肢が進行方向が右であれば右、左であれば左方向へステップしているものとしてきたのである。

 内方(リード側)の前後肢と外方(反リード側)の前後肢のステップ角に差があって、内方肢(リード側)に対して外方肢(反リード側)のステップ角が大きいので、全肢が求心的ステップしたり、内方(リード側)の前後肢がアウトサイドステップしたり、外方の前後肢がインサイドステップしたりしていても、内方肢(リード側)と外方肢(反リード側)がクロスすることはあり得るのであるが、果たしてその通りなのだろうかと疑問を持ったのである。
 ※注 ステップ角とは、正中線と全肢のステップラインとで作る角度のことをいう。

 そして、この考えが間違いだという論旨は、直線運動では、リード側の前肢は正中線に対してアウトサイドステップし、反リード側の前肢はインサイドステップし、リード側の後肢はインサイドステップし、反リード側の後肢はインサイドステップしているのであって、サークル走行では、全肢が求心性ステップをしているのではなく、内方後肢以外の肢は求心性ステップをしているものの、内方後肢だけは遠心性ステップをしているということなのである。

 これまで、内方後肢が遠心性ステップをしているのではないかとは、とても考えにくいことだった。何故なら、サークル走行においては、遠心力と闘いながら推進しているということが、私の中では半ば常識化していることだったからである。

 つまり、外方後肢(反リード側の後肢)は、正中線に対し近づくようにステップ(インサイドステップ)し、サークルの回転方向に対して求心性ステップをしているのは、サークル走行における遠心力に対して、遠心力のベクトルと逆方向のステップを遠心力と闘いながら推進していて、運動エネルギーが外方後肢から重心を通過して内方前肢へと向かうことで、運動エネルギーの効率可がはかられ合理的方法であるため、内方後肢が正中線に対して近づくようにステップ(インサイドステップ)し、サークルの回転方向に対して遠心性ステップをしているとはとても想定しにくいことであったである。

 そして、外方前肢は、外方後肢と同様にインサイドステップし、サークルの回転方向に対して求心性ステップし、内方前肢は、正中線に対して遠ざかるようにアウトサイドステップし、サークルの回転方向に対して外方の前後肢と同様に求心性ステップしているのである。

 サークル走行において、外方前肢がインサイドステップすることで、運動の方向性をリードしいているといえるのである。

 つまり、前肢は左右共に、サークルの回転方向やリード側に対して求心性ステップしていて、外方前肢(反リード側)は正中線に対して近づくようにインサイドステップし、内方前肢(リード側)は正中線に対して遠ざかるようにアウトサイドステップしている。そしてその両前肢は、サークルの回転方向に対しては、求心性的ステップしているものの、正中線に対しては逆向きで、内方前肢(リード側)はアウトサイドステップで、外方前肢(反リード側)はインサイドステップなのである。

 外方後肢(反リード側)は、両前肢と同様にサークルの回転方向に対して求心性ステップし、正中線に対して近づくようにインサイドステップしているのである。
 更に内方後肢(リード側)は、サークルの中心線に対して遠ざかるように遠心性ステップし、正中線に対してインサイドステップしているのである。

 この法則は、直進走行の場合でも同様で、両前肢と反リード側後肢はリード側へステップし、正中線に対して反リード側の前後肢は近づくようにインサイドステップし、リード側の前肢は遠ざかるようにアウトサイドステップしているのであり、リード側の後肢だけは反リード側にステップし、正中線に対して近づくようにインサイドステップしているのである。

 サークル運動においては、馬の正中線中心線に対して近づくようにインサイドステップしているのは、外方前肢と両後肢で求心性ステップをしているのである。そして、内方後肢だけが遠心性ステップをしていて、馬の正中線に対して近づくようにステップしてインサイドステップしているのである。

 運動力学的視点で考察すれば、サークル運動において両前肢と外方後肢は求心性ステップをして、内方後肢だけが遠心性ステップをしているのである。そして、直線運動では、両前肢と反リード側の後肢はリード側へステップし、リード側の後肢だけが反リード側へステップしているのである。

 そして解剖学的視点で考察すれば、サークル運動においては両後肢と外方前肢は正中線に対して近づくようにインサイドステップし、内方前肢だけは正中線に対して遠ざかるようにアウトサイドステップしているのである。
 直線運動においては両後肢と反リード側前肢は、正中線に対して近づくようにインサイドステップし、リード側前肢だけは正中線に対して遠ざかるようにアウトサイドステップしているのである。

  例えば、レイニングホースのスピンターンは、内方後肢は回転の軸となり、馬の重心の真下近くでピボットターンしており、両前肢と外方後肢は、回転方向に対して求心性ステップしており、内方後肢は遠心性ステップをしているのである。
 馬の正中線に対しては、外方の前肢と両後肢は近づくようにインサイドステップし、内方前肢は正中線に対して遠ざかるようにアウトサイドステップしているのである。

 私のトレーニングのプログラムでは、スピンにおいて前肢のクロス(交差)がスムースでなかったり、外方前肢が内方前肢の外側を回り込めずにバッティングしたり内方前肢の後方を回り込んだりしてしまう馬を矯正するときに、内方後肢をより大きく遠心性ステップをするようにトレーニングすることによって(馬の正中線により近づくようにインサイドステップさせる。)、改善を図ることができているのは、このステップの法則に則したトレーニング法といえるのではないだろうか。

 また、サークル走行のときに、推進力の乏しい馬やショルダーの傾倒がある馬にも同じように、内方後肢を遠心性ステップ(正中線に対してインサイドステップ)させて、内方後肢に対する充分な体重の負重を促すことによって改善を図ることができるのも、このステップの法則に則った合理的方法といえるのではないだろうか。

 トレーニングによって、左右の前肢でも後肢でもパラレルにステップさせるようにできるであろうが、このような特殊な歩法ではなく、通常のサークル走行や直進走行やロールバックなどの様な急激な方向変換もまたこのステップの法則で馬は走行していると考えるものであり、これまでの誤りを訂正するものである。

2020年6月30日
著者 土岐田 勘次郎

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