Horseman's Column title

VOL.126「ステップファーストとノーズファースト」


 2020年10月号

 今月のテーマは、メカニカルムーヴメントとテクニカルムーヴメントである。

 物体が動くということは、物体の重心が動くということで、その重心が動く場合には二通りあって、その物体の重心が動くことによって物体が動く場合と、物体と接する他の物体との作用反作用が起きることによって、その物体の重心が動いて物体が動く場合とがある。
 つまり、重心移動が先行して物体が動く場合と、他の物体との間で作用反作用が起きた後に重心移動する場合の二つのケースがあるのである。

 人も馬もこの二通りのムーヴメントによって動いているのである。

 そして、人は腕を振り、馬は頭を振ってその反動を以て重心を動かすことを先行させて、身体を動かせている。これをメカニカルムーヴメントいい、この運動は筋肉運動を最小限にする省エネ運動なのである。ウエスタンの世界ではこのムーヴメントをノーズファーストというのである。

 そしてもう一つは、接している床や壁やグランドに対して筋肉力を作用させ、その反作用を以て重心を動かして身体を動かせている。これをテクニカルムーヴメントというのであり、筋肉運動を活発にして比較的体力を消耗する運動なのである。このムーヴメントをステップファーストというのである。

 この二つの運動では、ノーズファーストは坂道を下るような運動で、省エネである代わりに惰性が働くので制動性があまり良くないという特徴があり、ステップファーストは坂道を登るような運動で、筋肉を活発に使うので体力の消耗が比較的多く、そして筋肉を活発に使うのでそのコンディションに大きく作用されるのであり、筋肉を意図的にコントロールすることで運動をコントロールできる点から制動性の高い運動だといえるのである。

 馬の場合は、頭を振るのを強制的に止めたりしなければ、ノーズファーストの運動をするように進化している動物で、常態がメカニカルムーメントをするようにできているのである。
 一方、ライダーがビットを使って頭の動きを制止させながら運動を促進することによって、馬は肢の筋肉力を以て運動することとなり、ステップファーストの運動になり、この筋肉力を以て重心動かし運動することをテクニカルムーヴメントというのである。

 以上のような観点により、ステップファースの運動は、馬を訓練する必要性が高いということができるのである。

 停止状態から駈歩発進するとき、馬が頭を持ち上げてスタートすることを見受けるが、これはノーズファーストの運動を馬がしようとするので見受けられる症状なのである。
 これをヘッドセットさせたまま駈歩発進させようとするには、頭の上下動を制止させながら駈歩発進する必要があり、ビットで頭の上下動をさせないように頭頚部を固定しなければならないのである。
 常歩や速歩でハーフパスをさせるときに、ステップファースとしているという意図もって、頭頚部を固定させてトレーニングすることで、ルーズレインでもステップファーストの運動をできるようにすることができるのである。
 やがて、ルーズレインでもヘッドセットさせたまま駈歩発進することができるのである。

 レイニングにおけるステップファーストの運動の必要性は、サークル運動のスピードコントロールやスライディングストップのためのランダウンやスピンのときの前肢のストライドを大きくするための矯正方などが挙げられる。

 サークル運動におけるスピードコントロールは、ハイスピードからスローダウンするために、ノーズファーストからステップファーストに切り替えるのである。
 ノーズファーストのムーヴメントのままスローダウンすることは、惰性が強く働くのでフィジカル的に困難であり、メンタルの作用としてスローダウンすることになり、馬のメンタルの状態に大きく左右されることとなるのである。

 スライディングストップのアプローチとしてのランダウンは、サークル走行のスピードアップと違ってステップファーストのムーヴメントで走行する必要がある。
 何故なら、重心移動に先行してステップが起きているステップファーストのムーヴメントであることで、ストップのときに後肢でグランドコンタクトをし続けられるのである。もし、ノーズファーストでランダウンすれば、ステップに先行して重心移動が起きているムーヴメントだから、直ぐに停止できないので前肢により大きな負担のかかるストップとなって、故障や躓きなどを起こしかねないのである。

 スピンでは、前肢に配分されている体重が左右の前肢に交互の負重している運動なので、着地している方の前肢に充分に負重していることが重要で、内方前肢がサイドステップするときに外方前肢に負重し、外方前肢がステップするときは内方前肢に負重しているのである。
 従って、内方前肢の求心性のサイドステップのストライドを大きくするためには、外方前肢への負重が充分であることが重要で、もし内方前肢に負重が大きければ、内方前肢のストライドが小さくなったり、頭を振って重心移動を促進しなければならなくなり、前肢がジャンプアップしたりして、スムースなスピンができにくくなってしまうのである。

 馬は、ノーズファーストとステップファーストのムーヴメントを必要に応じて切り替える必要があり、特に馬術においては、この切り替えを馬が熟練されていることはそのパフォーマンスのクォリティを左右する要因であることは間違いなので、このトレーニングの重要性を認識する必要があるのである。

2020年9月25日
著者 土岐田 勘次郎

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