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VOL.130「第2章 脳の訓練」


2021年2月号

 脳の訓練とは、究極のところ意識のコントロールなのである。

 脳がどんなに発達している人間であっても、運動器官と脳との関係性は、人間ほど脳が発達していない動物とも変わりはなく、脳が何を想起すれば、運動器官は、脳の想起したことを感覚器官がもたらす感覚情報を羅針盤として、その目的を達成しようとするのである。

 人間が行動するとき、容易にできることは、とても単純だと認識していて、困難なことは、複雑だと認識しているものだ。ここで注意しなければならないことは、認識が問題だということで、客観的に単純か複雑かではないということなのである。

 つまり、ものごとをこなすことは、客観的に単純か複雑かではなくて、主観的に単純か複雑かで、ものごとをこなすことができることは単純で、できそうにないことは複雑だと認識するということなのである。

 我々は、運動器官を動かし様々な訓練をした結果ものごとができるようになるという概念を持っている。つまり、それは運動器官を訓練することでできるようになると思い込んでいて、プロアマを問わずスポーツのコーチ達は、生徒達に手足の動きに注文つけて、これを矯正することで上達をさせようと試みているのである。

 しかし、指導を受ける側は、コーチの指示を受け取り、本人の大脳が自分の運動器官に直接命令をすることになり、その結果感覚情報を遮断するので、羅針盤を失い運動器官が失明してしまうので、その殆どにおいて結果が改善されることはないのである。

 右利きで長い間生活してきた人が、左手で箸を使えるように訓練するとき、多くの人は左手を訓練しようとする。
 この訓練は、コーチが生徒を指導するのと同じで、今度は自分が自分自身のコーチとなって、左手の動きに本人の大脳が直接命令をして、左手で箸を使う練習をするのである。
 やがて、長い時間を要して左手で箸を使えるようになることでしょうが、これは左手の訓練が上手くいったからではなく、左手で箸が使えるように脳が訓練されたからなのである。
 しかしながら、一般的常識として、左手を訓練することによってできるようになったと信じているので、イメージトレーニングという言葉が使われるようになって長い時間が経っているにも関わらず、誰も脳を訓練しようとは考えないのである。

 イメージトレーニングの有効性を理解している人でも、運動器官が上達するようにイメージトレーニングが有効だとしていると思い込んでいるのである。それは、全く逆でイメージトレーニングは脳の訓練なのである。

 脳を訓練するとは、左利きの人が左手で箸を使う映像を見てイメージ作りに精を出すことであったり、箸を使う運動を容易に思えるように要約したりすることである。そして、脳がイメージできたり容易に思えたりするサポートとして、左手を動かすのである。
 この左手で箸を使う動きをするとき、決して左手を訓練すると思ってはいけない。飽くまでも脳を訓練するためであり、それは、より鮮明にイメージできたり容易に思えたりするためだと思わなくてはならないのである。

 運動器官である左手を訓練しようと思っての練習よりも、脳を訓練する方が短時間で自在に箸を使えるようになるのである。左手を訓練する場合でも、その人の脳が左手で箸を使えるイメージができあがることによってできているのである。

 それは、ものごとをできるように訓練しているとき、身体を動かしながら、我々の脳が単純だと認識できるように訓練しているのであって、手足などの運動器官ができるように訓練しているわけではないということなのである。

 この考え方が、正当な概念だということは、イメージトレーニングの成果からその正当性を証明できるのである。

 イメージトレーニングは、映像を思い浮かべながら飽くまでも脳内で訓練することで、その結果、今までできなかったことができるようになるというものである。
 このことは、脳を訓練した結果できるようになったのであり、できるようになったからこそ単純だと認識できるようになったという概念は間違いで、身体を動かして訓練しているのは手足ではなく、飽くまでも脳の訓練であって、脳がそのことを単純だと認識できるように訓練して、その結果脳が単純だと認識できるようになったので、手足ができるようになったという概念が正しいのである。

 我々は、できるからこそものごとを単純に認識できるということではなく、その全く逆で、単純に認識するからものごとができるという概念が正しいといえるのである。

 この新しい概念に則ることで、これまでの練習方法とは全く変わることとなるのである。

 訓練するとき身体を動かしながら、脳を訓練しているという意識を持つ必要があって、それは脳がそのことを単純に認識できるために、補助作用として身体を動かすということなのである。

 つまり、イメージトレーニングもまた、脳の訓練のために必要なことであって、運動器官の能力向上のためではないのである。

 これまで我々が持っている概念は、運動器官の能力向上のために運動器官の訓練をすることが必要であり、イメージトレーニングはこのために有効であるというものなので、左手で箸を使えるようになっても、他のことが左手でできるようにはならないのである。しかし、左手で箸を使えるように脳を訓練すれば、左手で上手に箸を使えるようになったとき、他のことでも左手でできるようになっているのである。

 それは、一芸に秀でるものは万事に秀でるという言葉があるように、脳を訓練しているからであって、色々な業種の達人がおりますが、万事において秀でている人とそうではなく、そのことだけに秀でているという人がいる。そのことだけの人は、運動器官を訓練していると思い込んでいる人で、万事に秀でている人は、脳を訓練している人なのである。

2020年12月14日
著者 土岐田 勘次郎

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