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VOL.157「支点と作用点」


2023年5月号

 今月のテーマは、「支点と作用点」である。

 ライダーが馬上でできることは、馬体を曲げることで、馬を駆動することは、不可能なのである。馬が動くのは、飽くまでも馬の肢とグランドとの間で、作用と反作用の力が働いたときなのである。

 ものが動くということは、そのものの重心が移動することで、ものの重心が移動するためには、そのものを支える支持力が増減するか、重量が増減するかして、支持力を重量が上回ったときと、重量より支持力が下回ったときと、外部の力の作用または筋力などの力が支持力を越えたときなのである。

 ライダーが、馬上でできることは、支持力の増減で、重量の増減はできないと考えて良いのである。乗馬中の重量とは、ライダーと馬との合計した重量のことであり、基本的にこれを増減することはできないのである。

 馬術用語として、コレクション(収縮 Collection)があるが、これは馬の4肢が重心の真下に位置することを云うのである。つまり、4肢が重心の真下に位置することは、支持力が最小値になるということで、収縮した状態で馬が静止しているときは、重量と支持力が同量となっているときで、重心の少しの偏りによって、容易に支持力を重量が上回っているときで、つまり、重心移動が容易に起きるということなのである。

 話は変わり、ライダーが中級以上になると、ある程度馬に対する影響力を持つようになり、馬を推進できるようになるのである。

 ライダーが、馬に対して物理的力を以て強制力を発揮できることは、馬体を曲げることであることは既に述べた通りである。その馬体を曲げるためには、馬体上に支点と作用点の2点間の相関関係を作り出してしていることなのである。

 ライダーのレインハンドと脚やシートとの2点間を連動させ、つまり、支点と作用点との相関関係を作り出すことでできるのである。

 例えば、馬の首を左へ曲げて、頭を左へ引きつけるためには、左脚を支点にしてレインを左に引くことでできる。収縮させる場合は、レインを真上にピックアップし、そのピックアップすることでシートが支点になり、作用点のレインをピックアップする力と同量の力がシートを真下へ押す力となり、馬体を左側から俯瞰すれば、馬の頭頂は真上に向かい、背中は真下へ向かう力が働き、右回転モーメントが働いて、収縮が生まれるのである。

 以上のように、馬体上に支点を設けて、その支点を支えにしてビットで作用させることで、馬体を強制的に、曲げることができるのである。

 しかし、誤解なきように云っておくと、馬体をどんなに曲げたとして、馬が動くことにはならないのである。 但し、馬体を曲げることで、支持力の増減をすることができるので、支持力を最小限にすれば馬が動きやすくなり、最大限にすれば、馬は動き難くなるのである。

 馬の重心が一定のところに位置しているとすれば、馬体フレームをコントロールすることで、馬の肢の位置を変えることができるのである。重心の位置が定位置にあるとすれば、4肢の位置をコントロールするとは、支持力を増減していることとなるのである。

 従って、レインハンドを一定に保ち、4肢の位置を動かすこととなるのだから、レインハンドは定点であるので支点と見なし、4肢の位置は動点となるので作用点と見なすことができるのである。

 ライダーは、馬体上に支点と作用点を置いた場合、意図することで作動するので作用点は1ヶ所となりやすく、作用点が作動すると同時に必然的に生まれる支点は、無意識になりやすいのである。

 人は作用点には意図的行為として生まれるポイントなので意識が向きやすく、作用点に支障が起きたとき初めて支点に意識を向けることが多く、作用点で支障が起きても、最初は作用点を工夫して、それでも改善できない場合、支点に意識を向けて改善を図ろうとするのである。

 このメカニズムは、作用点は1ヶ所で、支点は無意識なので何処に置いているかを認識していなし、1ヶ所に止まらずに分散してしまいがちなのである。

 これらの特性を考慮して、シートや脚を作用点と見なし、つまり馬の4肢を作用点とし、ビットコンタクトを支点と見なすことで、作用点は意図的行為によるところなので、無意識化することもなければ、ポイントが分散されることなくなり、ビットコンタクトのポイントを支点と考えても分散する畏れはなく、万が一無意識になったとしても、ライダーの手によるところなので、直ぐに意識を取り戻すことができるのである。

 例えば、バックアップするとき、ライダーはレインをピックアップして脚を使う。このとき、ライダーは、ビットコンタクト以て、馬をバックアップさせていると認識するのであるが、本当にその通りだろうかという疑問が湧くのである。つまり、ビットコンタクトすることは、馬体を曲げることはできても、馬を駆動することはできないわけだから、レインを引くことで、馬をバックアップさせているという認識は間違いなのである。
 ビットコンタクトを真上に向ければ、馬は収縮して支持力を最小値化していて、ライダーの少しの重心移動によって、馬は前進でも後退でもするのである。
また、レインをライダー自らの重心に向かって引いた場合、馬の重心を後方へ移動することとなって、馬は後方へステップすることで転倒を防いでいるのである。
 以上のことで、ビットコンタクトのポイントを支点と見なし、シートや脚を作用点と見なして、馬の肢の位置をコントロールしていると考えることは、とても合理的なのである。

 これまで、ライダーのシートが支点と見なしがちだったために、支点に対する意識が漠然としてしまっていること考えると、シートや脚を作用点と見なすことで、作用点のポイントが漠然としたり分散してしまったりすることを改善できるのである。

 ビットコンタクトとシートや脚との2点間の連携は、支点と作用点の関係性を以て理解して、馬体フレームのコントロールを以て、馬の4肢と重心との位置関係をコントロールして、支持力の増減を図っていると云うことなのである。

2022年9月17日
著者 土岐田 勘次郎

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