Horseman's Column title

VOL.163「運動の科学」


2023年11月号

 スポーツやアスリートの運動は、運動器官の技術力の向上によって高度化するものではなく、脳の能力の向上によって成し得ていることなのである。脳の能力が向上することで、運動器官の運動の精度が高度化できるのである。

 一般的概念として、スポーツの得意な人を運動神経が良いといわれる。

 運動神経が良いという概念の元に、人々は運動器官の訓練に努めるのである。極論すれば、運動器官である手足を訓練することで、オリンピックの選手になれたり名人といわれる職人になれたりすると思われているのである。

 そして、イメージトレーニングということが喧伝されるようになって久しいが、このイメージトレーニングは、運動器官の訓練に効果があると思われているだけのとらわれ方なのである。

 また俗っぽい話だが、頭脳労働に行き詰まったときに、身体を使って運動すると、リフレッシュして頭脳の働きが良くなるということもよくいわれるのである。実際は、身体を動かすための頭脳労働が伴って、結果としてリフレッシュされるのである。つまり、脳を使ったから頭がリフレッシュしたのである。そして、身体を動かすことは、頭を使うことなのだという証明になっていることなのである。

 運動器官の動きは、感覚統合のシステムによってのものと大脳が運動器官の動きに直接働きかけてのものとがある。

 大脳が運動器官に直接働きかけるとは、腕の筋肉に力を入れるとか肢を上げるとかのように、大脳が運動器官を、運動神経を通して指令し起こす運動のことである。これは、大脳が運動器官を動かそうと思うこととは違って、実際に筋肉に力を入れるよう指令して運動することが、大脳が直接運動器官に関与するということなのである。

 一方感覚統合とは、感覚細胞が、熱や音や硬さや触感などを感知して、この感覚情報を、感覚神経を通して脳へ送信し、それを小脳が受信して、その情報を運動神経と連結し、運動器官を動かすことである。

 運動器官の動きは、通常感覚統合によって行われていて、大脳が直接運動器官に関与して動く運動は、特別なときだけなのである。
 感覚統合による運動は、基本的に大脳を通さずに機能しているものであるので、無意識に身体が動いているということになるのである。

 自律神経による内臓の運動である心臓や腱の動きは、感覚統合にも大脳の関与による運動にも属さない運動なのであるので、そしてこの運動は、意図的に制御することはできないのである。しかし、精神状態が高揚すれば鼓動が速くなることもあるし、緊張することで、手足の動きが鈍くなったりしてしまうこともあるのである。
 また、肺は、心臓とは違って、意図的に肺の動きを止めることができるのである。

 さて、アスリートや職人のパフォーマンスは、感覚統合による運動に属するものなのである。

 大脳が、感覚統合による運動を認識するものもあれば認識しないものもあるのである。大脳が認識するものは、小脳と感覚情報を共有している感覚統合の運動で、共有していない感覚情報による感覚統合の運動は、大脳は認識しないのである。つまり、この運動は、無意識運動となるのである。

 アスリートや職人の運動は、大脳が小脳と感覚情報を共有している感覚統合によるもので、直接大脳が運動器官を動かしているわけではないのである。また、大脳による運動器官の動きへの直接関与は、小脳による感覚情報の運動神経との連結を遮断するのである。
 多くの指導者やインストラクターやコーチの間違いは、指導することで、受講者の大脳が直接運動器官の動きに関与して、感覚統合を遮断してしまっていることを知らないことなのである。
 従って、受講者は、感覚統合を遮断するので、これまで持っていた能力を結果として奪われるので、決して運動が改善することはないのである。

 大脳と小脳が感覚情報を共有している感覚統合による運動は、大脳が認識できるので、大脳の構想に沿っているかどうかの正否を判断することができるのである。
 感覚統合の運動でも、大脳が認識すれば、大脳の構想に沿うものであるかを判断し、その正否を思うだけで、感覚統合の運動は、徐々に大脳の構想に沿うように改善されていくものなのである。
 しかし、感覚統合の運動を大脳が認識しなければ、その正否を判断することはできないので、当然その運動の修正は不可能なのである。

 この運動の改善は、大脳が小脳と感覚情報を共有して、その感覚統合の運動を認識して正否を判断しても、運動の修正を大脳が運動器官の動きを直接関与して行うのではないのである。大脳は、認識した運動の正否を判断して、運動器官の動きに直接関与せずに、その運動を目的の沿ったものとしてイメージするだけに止めることで、その運動は徐々に大脳の構想に沿ったものに変わっていくのである。

 運動の高度化に関する主要問題は、大脳が小脳と感覚情報を共有することなのである。

 大脳が、感覚情報を認識するには、意識が大きな役割を持っているのである。
 何故なら、意識は、レーダーの役割を果たす機能そのものだからである。つまり、意識の傾注による感覚情報の認識、意識の向かない方の感覚情報を無視、という機能があり、意識の有り様で、感覚情報を認識するかどうかが決まっているということなのである。
 従って、意識をコントロールは、感覚情報の取捨選択を左右するのであり、そしてそれが、できるのは大脳なのである。

 つまり、大脳は、マクロを構想して、意識をコントロールし、構想の範疇の運動器官へ意識を傾けて、その運動によって起きる感覚情報を認識して、その認識によって、感覚統合による運動を把握するのである。そして、把握した運動を構想と検証してその正否を判断するのである。
 正否の判断は、感覚情報を以て行えば、徐々に運動によって発生する感覚が是正されるように運動が改善し、結果的に運動器官の動きが高度化されるのである。

 大脳が、運動器官の動きをああしようこうしようと思うことと、運動器官を直接コントロールすることは違うことなのである。
 例えば、腕を、脇を締めるように振ろうと思うことと、実際に腕を振るように大脳が直接腕の筋肉に力を入れるようにすることとは違うのである。腕を振ろうと思っても、小脳の感覚情報と運動神経の連結を遮断することはないが、実際に腕の筋肉に力を入れようとすれば、途端に感覚情報と運動神経に連結は遮断することになるのである。

 大脳による意識のコントロールは、運動を意図的に行ったとき、その運動に意識を向けることでできるのである。人間は、慣れたり習慣になったりしてしまうことで、大脳は、余計なエネルギーを使いたくないので、省略化する傾向にあるので、意識を傾注しなくなるので、この省略化に逆らって、自らの行動に意識を傾けるように努めれば、意識を傾注することで、そのときの感覚情報を認識することを続ければ、運動することで得られる感覚情報を、必ず認識できるようになるのである。
 また、意識をコントロールすることで、有効な感覚情報を認識するようになっていくと、至極当然に感覚情報を認識することができるようになり、これに伴って、運動すれば、これに伴う感覚情報を捉えるので、運動が思うようにできるようになるのである。

 これらの推論によって解ることは、運動は脳を訓練するのであって、脳を訓練するために運動するのであるということが解るのである。意識をコントロールすることで、そのときに発生している感覚情報を捉え、その情報によって、運動の有り様に把握でき、把握できれば当然運動を改善することとなるのである。
 運動器官の精密で速く合理的な動きは、脳がそれを生み出すための能力なくしてできることではないのである。熟練したスリートや職人の運動器官は、巧みな動きができる能力を持っているのである。運動器官の能力は、脳がこれを生み出せる能力なくしてできることではないのである。
 従って、スキルアップしたいのであれば、運動器官を動かしながら、それは脳を訓練するためだと思うことが必要で、その脳の訓練とは、意識をコントロールすることで、意識をコントロールすることで、脳は運動に伴う感覚情報を認識することになり、感覚情報によって運動の有り様を把握できて、自然に運動の有り様を高度化しようとするのである。
 以上のような営みを繰り返すことで、脳は能力を高めることとなって、同時に運動能力を高めることとなるのである。

 これらに伴い、脳は自らの構想やイメージを熟達するために、感覚情報を解明するために、情報を集めて知識や見聞を広めることも必要に応じて行うのである。
 ここで重要なことの一つは、ものを感じてから考えるという手順である。考えてから感じるという順序では、考えたことによる先入観が生まれてしまうので、感じることが正確さを失う危険性が生じるのである。
 感じてから考えることで、先入観を最小限にすることができるのであり、ものごとを極力客観的に知ることができるのである。

 脳を鍛えるために身体を動かすという概念が、これまでの概念をひっくり返すこととなるが、人間のアスリートや職人のスキルを飛躍的にアップすることとなり、落ち溢れを無くすこともできることとなるのである。

2022年11月22日
著者 土岐田 勘次郎

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