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    VOL.26 乗馬におけるライダーのフィール(感覚)の養成

                                                 

 2012年6月号


 今月のテーマは、ライダーのフィール(感覚)の養成です。

 ライダーと馬とのコミュニケーションは、ビットにしろ、脚にしろ、シートにしろ、その接点において、馬が何らかのプレッシャーを感じて反応し、その反応に対してラーダーが更に、何らかのプレッシャーの強弱の加減をしながら馬に対してフィードバックすることを繰り返して行うことによって、成り立っている。

 つまり、ライダーと馬とのコミュニケーションは、互いの接触点において起きているプレッシャーの強弱やトーンが伝わり、それぞれが互いに対して反応したり、プレッシャーを与えたりして、その繰り返しによって、互いの意図するところを汲み取ったり、自分の意図するところを伝えたりして、様々なコミュニケーションが行われている。

 少なくても馬はライダーから受けるプレッシャーを、何らかの意味あるものとして解釈をして反応を示している。
 もしこのとき、ライダーがどんな接触感を得ているのか意に介していなかったら、自分の意志を馬へどんな風に伝えているかを気にしていないことになり、また馬の意思をライダーが汲み取ることはできない。
 馬が従順であったり反抗であったりする意志を、ライダーが汲み取れなければ、ライダーは馬をコントロールすることはできないし、ライダーにとっても馬にとってもフラストレーションを引き起こす元となってしまうのだ。

 従って、ライダーのフィールは、乗馬の出発点であると同時に、馬とのコミュニケーションの起点であり、ライダーが馬をコントロールする上で必要不可欠な要素なのだ。

 しかし、日本における乗馬環境は、ライダーを養成することにおいて、ライダーのフィールを養成することを、一切考慮されてなくて、騎乗姿勢やレインハンドのポジショニングばかりを示唆するだけで、ライダーのフィールが、乗馬においてライダーが身につけなければならない主要要素だと考えられていないのである。

 ライダーがやるべき正しい姿勢や動作を強要して訓練することを主体的に考えられていて、養成される側のライダーもまたこのことに異論を唱えず、従順に従う姿勢を見せているのである。

 日本の現状がどうあれ、ライダーのフィールの養成は欠かすことができない重要な要素であることには変わりはなく、フィールを養成する為に何をすることが重要なのかを解説したい。

 ライダーと馬の接触点は、ライダーにとっては、自分の意志を馬に伝える接点であり、その時の馬の態度を知る接点でもある。そして、馬にとっては、ライダーからの指示を受ける接点であり、馬自身の能力や精神状態が現れる接点なのだ。

 ライダーは何らかの目的があって、脚にせよビットやシートにせよその接点に於いてプレッシャーを馬に与えて指示を送るが、ライダーは指示する駈歩や曲がることを意識するあまり、接点に於いてどんな感触を得ているのかを無視して、指示の意図することばかりを追いかけてしまいがちになるのだ。

 しかし、動物が運動するシステムは、マクロとして駈歩をするとかそこで左に曲がるとかのように意識するが、接点に於いて重いと感じれば更に力を加えようとするし、軽いと思えば力を加減しようとするように、接点に於いてどんな感触を得ているかさえ把握すれば、自動的に力を加減してマクロとして意識している目的を達成しようとするものなのである。






 従って、マクロとして駈歩をしようと意識しながら、更に脚を使ってとか姿勢を正してとかのように、体の細部に至るまでを意識してやろうとすれば、接点で得ている感触を無視してしまうので、適当なプレッシャーの加減やかけるべき場所を違えていても気付かずに、不首尾のまま同じ動作を繰り返してしまうようになるのである。

 従って、ライダーは求める馬の反応を意識することは勿論のこと、同時にどんなトーンでの反応を求めるかもまた同等程度に意識して、プレッシャーをかけるように心がけることによって、ライダーがスキルアップするに伴って、馬の感情や精神状態を読み取れるようになり、従順性や忠誠心を育むことができるようになるのです。

 そこで、最も重要で必要不可欠なライダーのフィール(感覚)を養成するために、指示の目的をマクロとして意識するに止めて、それ以上は意識的に腕や脚やシートなどを作動させようとしないで、馬との接点に於いてどんな感触になっているかを意識的に追いかけるようにすれば、フィールを養成できるし、接点に於いてどんな感触を得ているかを認識できれば、自動的に運動神経や反射神経が作動して、加減したり場所を変えたりして、適宜対応することができるのである。

 つまり、フィールを養成するということは、ライダー自身の手や脚やシートの接点で、リアルタイムに訪れる感触に心を砕くだけなのだ。

 正しくやろうとか上手くやろうと思わずに、マクロとして馬のフレームやステップを、自らが指示しようとするイメージを意識下に置いて、後は脚やレインハンドを作動したときの指先や脹ら脛やスパの先端で得る感触に意識を傾注して、その感触が好ましいかそうでないか、または好ましい感触を得るまで模索を続ければ、やがてそう時間をかけずとも、イメージさえすれば勝手に手足が必要な動きをするようになると同時に、馬の反応状況を即時に判断できて、プレッシャーを適宜加減することができるようになるのである。

 運動神経が鈍いと思い込んでいる人や、何ごとも手っ取り早くできる器用なタイプではないと思っている人や、失敗を続ける人などは、特に正しく上手に理に叶ったやり方を身につけたいという思いを、先ず捨ててしまうことが重要だ。

 プレッシャーをかけるときは、心の中で力を1・2・3と数をカウントしながら、力を徐々に加えていくように心がけて腕や脚を使うようにすれば、その都度その接点に於いて感触を得ることができるのであり、感触を得ることができるということがフィールなのである。

 感触を得ることは、訓練が必要なのだと考えずに、100ある能力の大半を、上手にやろうとか失敗したくないという思いが強ければ強いほど使ってしまうので、接点に於いて得ている感触に気を回す余裕を失ってしまうのであり、なるべく運動の全体をイメージすることに止めて、接点に於いて得ている感触の方へ意識を傾けるようにすれば、自ずと感覚の方へより多くの能力を使うことになるので、感覚は養成されるし、自らのフィジカルを合理的にコントロールすることができて、更に感覚が養成されれば、逐一馬のフィジカルとメンタルの現状を把握できるので、結果的に馬を意のままにコントロールすることができるのである。







             2012年5月23日

             著者 土岐田 勘次郎


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