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    VOL.37 「ライダーの役割とスキル」



                                                 

 2013年5月号


 今月号は、先月の「馬の姿勢とモーション」のテーマで解説したが、このことを踏まえてライダーは、どんな役割を持っているのか、そしてどんなスキルやどんな意図を以て、馬のコントロールをしなければならないかを解説してみたいと思う。

 少し先月のテーマについて振り返って見ると、物体の移動とは重心の移動であり、その重心の移動は、これを支持する支点の力と重力との関係性において、支持力が重力を上回っていれば物体は停止状態になり、重力が上回れば物体は動くということになる。
 そして、支持力は、重心と支持点の水平距離に反比例し、支持点が重心に近付けば支持力は小さくなり、遠ざかれば支持力は大きくなる。

 ここまでを踏まえた上で、ライダーは馬をコントロールするために、どんな役割果たしているのか、そしてそのためにどんなスキルが必要なのかを考察してみたい。

 馬の姿勢(Posture)は、重心と4肢との位置関係を形成することで、馬の運動をコントロールするとは、馬を動かすことであり停止させることであり、そのためには、重心と支持点との距離を、長くしたり短くしたりし、重心か支持点か、その両方を動かしていることなのである。

 ライダーは、ビットと自らの体重と脚を駆使して、馬の姿勢を形成して、重力と支持力との関係性を作っている。

 馬とライダーの合計する質量の中間点に合成重心が位置して、その合成重心は、馬の頭や肢などの位置やライダーの前傾や後傾などや鐙に体重を負重したりしなかったりすることによって、位置が変化するのである。

 馬の姿勢という観点で云えば、収縮すると馬の4肢は重心へ近付き、支持力を軽減する。そして屈撓することによって重心はより後方へ移動する。

 馬術的には、馬の前進気勢を盛んにすることが第一義と云われているが、つまり馬を推進することが重要だと云われており、その推進力をライダーの脚のプレッシャーによって直接的に盛んにすることはできないのである。何故なら、ライダーが馬の背中に乗ってしまって、脚でプッシュしたりバンプしたりして推進をしようとしても、何処かでこれと同量でしかも全く逆方向の力で支えてしまっていて、そのプレッシャーを加えるところと支えているところが同じ物体上(馬体)に位置しているので、これらの力は相殺されて物体が動くということにはならないのである。




 そこでライダーは、馬の姿勢(Posture)を収縮させ、4肢の位置を重心近くに引き寄せて、支持力を最小限化して、一方ライダー自身の重心を前寄りに位置させることによって、支持力を越える重力を作り出して、馬動かしており、つまり推進しているのである。

 ところが支持力を最小限化するために収縮させ、重心を前倒しにするようにライダーが前傾すると、確かに馬を動きやすくするが、これをメカニカルムーブメントといって、惰性的に連続動作をするには良いのだが、前後左右に逐一運動方向を変化させるようなコントロールをするには困難になる。
 そして、細かなコントロールを可能にするには、筋肉運動であるテクニカルムーブメントにする必要がある。

 そこで馬術的には、細かいコントロールを可能にするために、馬の筋肉運動を求め、敢えて重心を後方へ位置させ後駆の筋肉運動を促すのである。

 後駆の筋肉運動による推進を作り出すには、先ず重心を後駆へ乗せるようにライダーは、鐙に負重する割合を小さくして後方へ重心をおくようにポジショニングすると共に、馬の後肢を踏み込ませて、にステップする後肢が重心より前に着地するように、収縮姿勢を取るようにするのである。

 ここまでのことを踏まえると、ライダーは、自らと馬の姿勢を形成すること以て、重心の位置とこれを支える4肢の位置をコントロールしているといえる。

 包括的にいえば、全ては重心のコントロールを、馬の姿勢や自らの姿勢を以て成しているのである。

 従って、求められるライダーの最も重要なスキルとは、馬の運動をコントロールするために重心の位置を感知して、これをコントロールするために、馬と自らの姿勢を形成する技術なのである。

 つまり、収縮や屈撓や内方姿勢などの馬のフレームを作るスキルを身につけることが、ライダーに求められる最も優先される重要なスキルなのである。そしてまた、自らの重心をコントロールできるスキルも馬の姿勢を作るとスキルと一体的なものなのだ。

 馬の前進気勢を盛んにすることは、脚による推進力を高めることによって可能になると考えるのは間違いで、馬とライダーの姿勢を形成するスキルによって可能になると考えなければならない。

 馬の運動をコントロールするには、運動力学によって解明されるメカニズムをベースにした馬とのコミュニケーションが必要なのである。

 コミュニケーションは、緊張と緩和の循環によって一定の方向性を定めて行われなければならないが、その方向性は、運動力学をベースにしたものであるべきで、そしてそのベースを感知したり形成したりするスキルが、ライダーに求められるスキルなのだ。





           2013年 4月 30日

           著者 土岐田 勘次郎


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