Horseman's Column title

    VOL.56 「ライダーのできること」



                                                 

 2014年12月号


 光陰矢の如しで、コラムも2014年の最後の号になってしまいました。

 ご愛読頂いた皆様に対し心より感謝申し上げます。

 原稿を書いていて何よりも励みになることは、愛読者の存在です。毎月書くことはそんなにハードなことではないが、続けるモチベーションを維持することに緩みがでると、日々の研鑽を怠ることになり新鮮味もなくなるし、革新の志が薄れてしまい、結局のところ筆が進まなくなってしまう。

 書き続けることに、楽しみや義務感や段階的達成感を感じながら続けられることは、私にとって大きな喜びです。

 今後ともよろしくお願いします。

 さて今年最後のテーマは、乗馬においてライダーができることとは何だ、できないこととは何だ、一体ライダーは、馬の背中で何をやっているのかについて解明してみたいと思う。

 「乗馬は、馬の頭に乗れ」は、私の乗馬始まって以来のテーマで、「乗馬は、馬の背中に乗れ」は、数ヶ月前に言い始めたことである。

 これからもマクロとして、「乗馬は、馬の頭に乗れ」であることには変わりないし、ライダーが馬をコントロールするには、馬のメンタルをコントロールするしか方法がないことは普遍的ことである。
 しかし、ライダーは物理的力を以て、その馬をコントロールするために、馬が運動を起こしやすくしたり、そのムーブメントのベクトルを左右する要因を構築したりできるので、「馬の背中に乗れ」ということに繋がるのである。

 ライダーは、物理的パワーによって馬を駆動することはできない。この事実が、乗馬がとても他のスポーツと違う特殊性なのであり、他のスポーツはプレイヤーが直接物理的パワーを以て駆動できるのである。

 乗馬にとって最大のテーマは、如何に馬を推進するかで、推進することで馬の集中も従順性も運動のコントロール性能も高めることができるので、最大のテーマは推進なのである。

 ところが馬に乗ってライダーが、馬を推進することはできないのである。脚やシートや鞭によってプレッシャーを掛けようとも、馬が物理的パワーを以て運動するということには繋がらないのである。

 しかし、馬が運動しやすい態勢を、ライダーが物理的パワーを以て形成することはでき、つまりそれは収縮である。
 収縮(Collection)は、ライダーが物理的パワーを以て作ることができ、馬の体位や姿勢(Frame Posture)を、ライダーが物理的パワーを以て、馬のメンタルがどうあろうと馬にとらせることができるのである。

 馬の推進にとって、ライダーが持つ最大のファクターは、ライダー自身の体重で、この体重の中心である重心をコントロールすることによって、ライダーと馬とで作る合成重心をコントロールすることができるというメカニズムで、ライダー自身の重心を操作することによって、推進に大きな影響力を与えることができるのである。







 ライダーは、シートポジションを支点にし、ハミで繋がる口を作用点にして、馬の頭を脇腹まで引き寄せることができるように、屈撓させたり収縮をさせたりすることができる。

 収縮は、馬の重心の真下近くへ4本の肢を限りなく近づけることであり、馬とライダーの体重を支持しているのが4肢で、この4肢が重心より遠ざかっていれば支持力が大きくなって、安定性が増し運動しにくくなり、この逆に、4肢が重心の真下に近くなればなるほど、安定性を欠き運動しやすくなる。

 この収縮したとき、ライダーが重心を前方へ傾ければ、馬の安定性が一番小さくなっているときなので、馬は前方へ重心移動がし易くなるということであり、ライダーが重心を後方へ傾ければ、馬は後方へ重心移動がし易くなるという仕組みだ。

 しかし、収縮をしてライダーが重心操作をして前進や後退をし易くなったとしても、直接前進や後退の運動を起こすことはできず、馬自身が運動を起こそうとしない限り運動そのものを起こすことができないので、馬のメンタルの働きなしに運動を始めることはできない。

 つまり、ライダーのできることは、レイン操作によって馬が運動を起こしやすくするための体勢や姿勢を作り、且つ運動が起きやすいように自らのポジショニングによって、重心を操作することができるが、運動そのものを始めるには、馬のメンタルが作用しない限りライダーのパワーを以て成すことはできないのということである。

 従って、運動の最中であるとき、ライダーのポジショニングによって、加速させたり抑制させたり、方向を変えたり停止させたりする場合においても、やりやすくすることはできるが、馬のメンタルの作用なくしてできないということだ。

 以上の事由から、ライダーが馬に対しイニシアティブをとることは、乗馬において必須条件なのであり、その上で馬の体勢(Posture 体位、姿勢)をライダーが物理的パワーを以て形成したとしても、馬自身のメンタルをコントロールできなければ、馬の運動をコントロールすることはできないのである。

 しかし、馬の体勢を作り重心を操作することができれば、馬のメンタルを左右する影響力が増すことができるので、限りなく馬の運動をコントロールできることに近づくことができるのである。

 ここに上級ライダーの勘違いが発生する原因があって、馬の体勢を形成することができるから、馬の運動もコントロールしていると思い違いして、馬とのコミュニケーションを怠ったり、乗馬におけるテクニックに馬のメンタルをコントロールするためのメカニズムが入ってこなかったりする原因なのである。

 極論すれば、ライダーは、馬の体勢や重心の位置をコントロールすることはできるが、馬の運動そのものを起こすことはできないのである。

 馬のメンタルをコントロールするには、プレッシャーとリリースを、一貫性を以て駆使することによってできるのであり、マクロとして「乗馬は、馬の頭に乗れ」は普遍的事実で、ミクロとして「乗馬は、馬の背中に乗れ」によって、そのメンタルにもフィジカルにも大きな影響力を持つことができるである。






                 2014年11月18日

                 著者 土岐田 勘次郎


HOME

ホームへ戻るボタン

Eldorado Ranchへのメール reining@eldorado-ranch.com
TEL 043-445-1007  FAX 043-445-2115

(c)1999-2010. Eldorado Ranch. copyright all rights reserved.
このサイトの
記事、読み物、写真等の無断使用は禁止とさせていただきます。