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    VOL.64「レイニングホースにおけるコマンド」


 2015年8月号

 今月は、解りきったことのように思えるかも知れないが、基本に立ち返ってレイニングホースにおけるコマンドについて解説したいと思う。

 コマンド(Command)とは、命令という意味だが、どのようなキューイングを発してその命令を指示しているかである。

レイン操作とビットの構造

 レイニングでは、様々なキューイングを行う。

 例えば、チェンジリード、リードディパーチャー、スピンのスタート、スピードコントロールのキューイング、ロールバックのスタート、ランダウンにおけるスピードアップ、サークルにおけるスピードアップ、サークルの大きさの切り替え、ワンハンドのレイン操作、両手におけるレイン操作などがあげられるが、これらの指示命令の仕方は、ライダーによって異なる場合もあるが、その指示命令の求めるものは同じである。

 先ず、両手によるレイン操作は、運動の方向を示唆するために、左右のレインで作るスペースに馬の頭を置くというのが基本であろう。

 左右のレインを均等な長さに保ってビットを操作し、運動方向をガイドするようにしていると、左右のレインで形成するスペースに馬の頭が位置するようになるので、そのスペースを左右どちらかへ操作すれば、馬はその左右のレインのスペースの移動に合わせてガイドされる。従って、ライダーは、左右のレインで形成するスペースを操作して、馬をガイドしようという意識が必要なのである。

 ワンハンドによるレイン操作は、基本原則として両手によるものと変わりがあるわけではないが、シャンクビット(Shank Bit カーブビットともいうCurb Bit)のメカニズムとワンハンドのレイン操作は密接な関係を持つので、その分だけ両手の操作とは違うところがある。

 シャンクビットは、シャンクの向きとマウスピースの向きは逆になるので、例えば左側へレインを引けばマウスピースは右へ向くようになり、マウスピースの向きに馬は誘導されるので、馬を左方向へと誘導したい場合は、ビットのマウスピースを左へ向くようにシャンクを左方向へ引くように、左右のレインを右上方へピックアップするようにするのである。
 更にまた、シャンクビットは上にピックアップすると馬を屈撓させるように働くので、馬の運動方向をコントロールする場合に横方向へ操作するだけでなく同時に上方向へピックアップすることによって、ビットの構造を的確に使うことになるのである。

ディパーチャー

 リードディパーチャーは、駈歩発進においてリードと運動方向をコントロールしなければならないので、正しいリードで直進することを原則と考える必要がある。
 例えば、ライトサークルのディパーチャーをするときに、多くの人が間違うのは、右方向へ発進しようと考えてしまうことで、ディパーチャーはライトサークルでもレフトサークルでも原則的に直進すると考えなくてはならない。そしてそれは、「正しいリードで直進する」ようにすることがディパーチャーなのである。

 そこで、ディパーチャーで求められることは、正しいリードをピックアップして直進することだから、馬の頭や首は直進する方向へ向き、発進するためのプレッシャーがかかってもその位置や向きを維持する必要がある。
 そして、発進するときリードをピックアップするためには、外方後肢が内方前肢へ向かって推進される必要がある。
 外方脚のプレッシャーで外方後肢が内方前肢へ向かうようにするためにも、馬の頭や首が直進方向を維持して左右へぶれることのないようにすることが重要だ。

 重ねていうが、多くの人がディパーチャーで行っていることは、外方脚で外方後肢が内方前肢へ向かって推進されるようにプレッシャーを掛けている。
 外方脚でプレッシャーをかけたからといって必ずしも外方後肢が内方前肢へ向かうとは限らないので、このとき馬の頭やショルダー(前駆)が左右へ移動せずに、直進方向を維持することが重要で、馬の前駆が直進を維持することによって、外方脚のプレッシャーが、外方後肢のインサイドステップを決定付けるのである。

 もし外方脚でプレッシャーを掛けたとき、前駆が直進性を維持しなかったら前肢がインサイドステップしてしまって、外方後肢のインサイドステップが生まれず、正しいリードをピックアップすることができない。

 従って、リードディパーチャーは、前駆の直進性を保ちつつ外方後肢のインサイドステップを促すようにしなければならないということである。

サークルのスピードコントロール

 サークルのスピードコントロールは、メンタルの働きも重要だが、最も重要なことは、スローダウンする時にバランスフォーワードからバランスバックするように切り替えることが容易にできる馬になっていることである。

 スピードコントロールは、ライダーがスローダウンを指示するときにシートバックして、馬がバランスバックするようにすることで、バランスバックすると原則的に馬の前進気勢が損なわれるので、スローダウンするというメカニズムなのである。
 しかし、唯単に馬の前進気勢が損なわれればムーブメントが怠惰なものとなって、コントロールしにくくなるばかりでなく、パフォーマンスの精度が著しく劣るものとなるので、バランスバックは、前進気勢を抑制させて且つコントロール精度もパフォーマンス精度も損なわれることなく、スローな運動を可能にするのである。

 サークルのスピードコントロールは、馬のバランスを切り替えることにあると認識することが重要である。

スピン(ターンアラウンド)

 さて次は、スピンで、スピンは基本的にサークル運動の最小だということができターンアラウンドともいう。
 スピンのときのステップは、前後肢共に、内方肢の外側をクロスする。このことにおいて、サークル運動と同じなのである。
 スピンのキューは、推進を与えその推進力に対してある角度を以て、外方からブレーキを掛けることによって、行き場のなくなった推進力が内方へ向かいスピンとなるメカニズムであるが、完成されたレイニングホースは、外方からレインをタッチすることで、スピンをスタートさせるように調教されているのが一般的だ。

 従って、推進とレインタッチ(ネックレイン)で、スピンをスタートするように、必ずスピンをスタートするとき外方からレインをタッチする。そのときスピンをスタートしなかった場合に、内方に向かってレインを引いたり外方脚でプレッシャーを掛けたりして、スピンを強要する。このようにすることによって、馬は外方からのレインタッチをスピンのスタートだと理解する。
 しかし、外方からのレインタッチでスピンのスタートを待たずに脚やレインで強要していれば、レインタッチというシンプルなキューを馬は理解できなくなってしまうのである。

 そしてまたスピンは、リスキーなパフォーマンスでもあり、指定された場所でピタッと止まらなければ忽ちペナルティが科せられる。従って、スタートもストップも重要だ。
 そのスピンのストップを私は、レインタッチを止めてレインコンタクトをフリーにしてルーズにすることによってスピンをストップするようにしている。
 このために、レインタッチを止めることを馬にスピンをストップさせるキューとする。
 このときスピンが停止しなかった場合、レインコンタクトして強制的に停止させて2〜3ステップバックアップさせる。
 このようにすれば、直ぐに馬はレインをフリーにすることによってピタッとストップするようになる。

 また、何故レインをフリーにすることでスピンを停止するようにしているかといえば、プレッシャーかけて停止するようにもできるが、ショーイングにおいて、余計なプレッシャーを少なくしたいということと、次のマヌーバーへ移行するためにも、何らかのプレッシャー与えてストップした場合、馬が勘違いして違う動きをしてしまうリスクを避けることができるからなのである。

ロールバック

 次は、ロールバックで、ロールバックのキューは外方レインのタッチで馬がステップを始めたところで前傾したり脚で外方から駈歩を発進するように推進したりするようにする。

 私の場合、レインを外方からタッチするようにしてビットプレッシャーかけないようにしているのは、バックアップと馬が勘違いしないようにしたいと考えているからで、もしビットを当ててしまうと馬がバックアップとターンとの区別がし難いからだ。

スライディングストップ

 スライディングストップはランダウンが全てだといっても過言ではない。ランダウンにおいて重要なことは、直進性とムーブメントの維持とストライドのエクステンドである。

 ムーブメントを維持して推進を増幅させれば、ストライドはエクステンドできるから、直進性とムーブメントを維持して推進すれば、スライディングストップは粗成功する。

 ムーブメントの維持は、ランダウンのディパーチャーにおいて形成しなければならないことで、ランダウンの途中でテクニカルムーブメントへ切り替えることはとても困難で、メカニカルムーブメントに切り替わることはとても簡単なのである。 ランダウンのディパーチャーにおいて、後肢からステップを始めるようにすることで、テクニカルムーブメントで発進することとなり、このバランスを維持するようにすることが、ムーブメントの維持なのである。

 このことは、収縮も屈撓もテクニカルムーブメントをつくりだすためにあるといえる高いベルの技術だが、とても根幹的なことなのでライダーはこのことに最大の関心を持つべきなのである。


 以上のことは、馬とライダーの約束事で、ここまでのことを反応できるよう充分に馬をトレーニングすることによって可能になることだが、完成したレインイングホースといいコミュニケーションするには、ものごとをシンプルにして一つ一つのマヌーバーについて明確なキューイングとすべきことを認識することが重要なのである。

2015年7月20日
著者 土岐田 勘次郎

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