Horseman's Column title

    VOL.65「バックアップ 後退」


 2015年9月号

 今月は、バックアップについて解説したいと思う。

 バックアップというと、今日のウエスタンライダーにとって、懲罰として捉えている人が多いのではないだろうか。
 しかし、25年ぐらい前のウエスタンライディング界に、そもそも懲罰という意識があったのかどうか甚だ疑問である。

 バックアップが懲罰であるという考えは間違いである。

 懲罰は、馬がミステイクしたときの馬の行動の反対のことを強いるのが懲罰で、馬が前進してしまえばバックアップさせるのは懲罰で、バックアップしてしまえば前進させるのが懲罰で、右へ行けば左に、左へ行けば右に行かせるのが懲罰に該当する。
 また、馬のとった行動と同じ方向の運動でもよりスピーディであったり旺盛であったりする行動を、つまりより大きなプレッシャーをかけて要求することもまた懲罰に該当する。

 さて、バックアップは、馬体のストレッチや可動能力の向上や、バランスバックを容易にするために大いに役立つもので、フォーワードモーションと同様、前肢やショルダーやネックやリブケージや後駆や後肢のストレッチやバランスバックなどのトレーニング法として捉えるべきものである。

 バックアップにも大きく分けると2つのムーブメントがあって、それはメカニカルムーブメンとテクニカルムーブメントで、後肢のステップが馬の臀部より後方へステップしてバックアップするのがメカニカルムーブメントで、馬の頭を後方へ引くことによって重心が後方へ移動して後に、バランシングするために後肢がステップするムーブメントである。
 また、後肢が馬体の下へグランドを押し出すようにステップして、バックアップするのがテクニカルムーブメントで、ステップした後に重心の移動が始まるムーブメントである。

 馬は特別にテクニカルムーブメントを要求しなければ、フォーワードモーションでもバックワードモーションでもメカニカルムーブメントをしようとするもので、重心移動して後にステップするのである。

 さて、バックアップのエクササイズとして、前駆やショルダーやネックの柔軟性を求めるために行うのは、バックアップさせながら左右へネックをベンドさせる方法や、ショルダーを左右へベンドさせながらバックアップする方法だ。
 これと同様に、後駆や後肢のステップに柔軟性や可動域を拡張するために、左右に後駆をベンドさせながらバックアップさせることも大いに効果のあるトレーニング法である。



 更にまた、こうしたストレッチを十分した後に、仕上げとしてバランスバックさせながらテクニカルムーブメントとしてバックアップすることは、後にスピンやスライディングストップやサークルのスピードコントロールと大いに関連性があり、これらのパフォーマンスを向上させるためには欠かせないトレーニング法である。

 このために、ライダーは鐙に極力負重せずにシートへ垂直に座して、レインハンドは馬によって角度は多少違ってくるが上方へピックアップしてバックアップさせる。
 この作用は、ショルダーを上方へ後駆を下方へと2つの反対方向の力が馬体にかかり、馬の頭が左にあるように横から俯瞰すると右回転のモーメントが働き、後駆はより前方へ、前駆はより後方へ向かうような運動が起こり、馬は収縮してバックアップするのである。

 馬は、後駆の柔軟性が向上することによって、バランスバックや収縮の要求に応じて、容易に反応できるようになるのである。

 これらのエクササイズによって馬は、ランダウンではテクニカルムーブメントで走行でき、このことによって急激なスピードアップもなくなり、ライダーの要求に応じてスピードのアップもストライドのエクステンドもできるのであり、スライディングの際の前肢の負担を軽減してスライディングの精度を向上させるのである。

 また、サークルのスピードコントロールにおいては、ライダーのシートバックに応じて、バランスフォーワードのハイスピードから容易にバランスバックへと切り替えられ、バランスバックは前進気勢を抑制するのでスローダウンするというメカニズムが働くのである。

 更にまた、スピンでは、後肢の位置が馬体の下で体重を支えることによって、前肢の負担を軽減して回転速度を上げるのができ、且つ軸肢のポジショニングの精度も向上するのである。

 後肢や後駆の柔軟性や可動域の拡大は、馬のパフォーマンスへ大きな影響力を持つだけでなく、運動器の故障などのリスクを回避させるためにも重要な要素なので、レイニングホースに限らず全ての乗用馬には重要で必要なエクササイズだということができる。

 特に後駆の柔軟性は、フォーワードモーションとバックワードモーションとを、同等の精度を求めるようにトレーニングすることは、パフォーマンスの向上だけでなく馬のメンタルにも大きく影響し、従順性やコンセントレーションや許容量を飛躍させるのに大いに役立ち、ライダーを選ばず初心者でも気軽に扱える馬として成長させることができるのである。


2015年8月13日
著者 土岐田 勘次郎


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