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    VOL.79「乗馬における原理原則」


 2016年11月号

 今月のテーマは、とても当たり前で誰もが当然の如く行っていながら、あまりに当たり前すぎて意識せずにやり過ごしていることで、これを意識的にトレーニングすることで馬が飛躍的変化をすることについて考察したい。

 乗馬における原理原則とは、ガイドとムーブメントのコントロールで、馬術的には、ムーブメントが優先でその次にガイドと考えるのが一般的だが、ライダーの意識としてはガイドが優先でその次にムーブメントという順番になるのではないだろうか。

 何故なら、サドルブレーキングを考えると明確である。
 一般的にラウンドペンでブレーキングするが、ラウンドペンの壁でガイドされている環境で騎乗するわけだから、ガイドがキープされている中で馬をドライブするからである。

 従って、ライダーはガイドを優先して乗馬をしているといえるのである。

 しかし、馬術的には、馬をドライブしてこそのガイドであって、停止状態では馬をガイドすることはできないし、収縮や屈撓などにおいても馬をドライブしその推進力をビットで抑制することで作られるからである。

 さて、そこで、ライダーは、馬のガイドをどのようにしているのであろうか。

 私の仮説であるが、後肢のインサイドステップの角度が一定に保たれていれば、前肢のステップ角を調節すれば、軌道がコントロールされると考えられる。つまり、後肢が一定のステップ角を示している前提では、前肢のステップ角度との差が大きくなれば軌道半径をより小さくなり、小さくなればより直線運動に近づくわけである。

 馬の運動効率の観点やサークル運動における遠心力との関係性において、後肢のステップインは必要で、後肢がステップインしていなければ、運動エネルギーが馬の重心を通過しないので運動効率が悪くなり馬はより消耗するし、遠心力に抵抗できないので肩が倒れライダーは乗りづらいし人馬転の危険性すら出てしまうのである。

 そこで、後肢のステップインの角度が一定に保たれている前提では、前肢のステップの角度を調節すればガイドができるので、ライダーは前肢及びショルダーをコントロールすることによってガイドをすることが合理的なのである。

 従って、初心者の誰もが馬を思った方向へ誘導しようとするとき、粗100%レインを引いて馬の頭を行きたい方へ向けようとするのである。
 しかし、行きたい方のレインを引いて馬の頭をそちらへ向けても、ショルダー及び前肢のコントロールをしようとする意識がないので、思うようにガイドできないというシーンをよく見かけるわけである。

 つまり、ショルダーや前肢をコントロールできればガイドできるのに、馬の頭を誘導しようとして却って前肢やショルダーのコントロールがままならないということになるのである。

 レインに繋がっているのはビットであり、ビットは馬の口についているので、レインを引いても馬の頭は誘導できるが、ショルダーや前肢をコントロールすることができないということだ。
 それは、先ずライダーの意識を変えて、前肢でありショルダーのコントロールしようと思うことが必要で、ショルダーのコントロールによって馬の運動ベクトルを思うようにできるという認識を持つことによって、容易に運動ベクトルをコントロールできるようになるのである。

 馬のガイドの原理原則とは、直接的に接触している馬の頭を操作する目的は、間接的に馬の前肢やショルダーに影響を与えることなのだという認識を持って行うことなのである。


 以上のような認識をライダーが持って、馬をトレーニングしなければ思うように馬をガイドすることはできない。
 そこでそのトレーニングとは、レインを引いた方へ前肢がステップするということであり、例えば、左へレインを引けば、左へ前肢がステップして馬が左方向へ誘導され、右へレインを引けば右方向へステップが誘導されるということなのである。

 トレーニングされていない馬は、左方向へレインを引いたとき馬の頭は左へ向くが、前肢がアウトサイドステップしたり真っ直ぐ前方へステップしたりして、インサイドへステップしていない場合が多い。しかし、このとき後肢がアウトステップして馬はレインを引いた方へ誘導されてしまうので、ライダーは、前肢がインサイドへステップしていると勘違いする。

 レインをインサイドへ引いても前肢がインサイドステップしないとき、外方レインをホールドしてショルダーの動きを拘束するようにして、前肢のインサイドステップを促す、また外方脚でショルダーの外方への動きを拘束するようにプレッシャーをかけて、前肢のインサイドステップを促す。
 このトレーニングで、最初の内前後肢ともアウトサイドステップしてしまうケースは多々あることなので驚く必要はない。しかし、前肢のステップインがインサイドレインを引くと同時に反応するようにすれば、インサイドレインを引いたとき前肢がインサイドステップするので、後肢のアウトサイドステップもしないようになり、レインのテイクによってショルダーのコントロールができるようになるのである。

 更に、レインのインサイドのテイクにあわせてショルダーがインサイドへ誘導されるようになった段階で、今度はアウトサイドレインを外方のショルダーへタッチした後にインサイドレインをテイクして、ショルダーのコントロールをするようにして、外方レインで前肢やショルダーのコントロールができるようにトレーニングする。

 以上によって、乗馬におけるガイドの原理原則が作られるのである。

 我々は、馬の後肢や後駆の柔軟性やステップのコントロールに意識が向きがちで、その分前肢及びショルダーの柔軟性やコントロールが疎かになり、無意識的に後肢や後駆のコントロールがハードになっていると考えられる。

 前肢及びショルダーの柔軟性やコントロール精度の向上によって、後肢及び後駆の運動が改善される割合が大きいと考えられると共に、トレーニングの初期段階で後肢や後駆から手を付ければ、馬のメンタルの抵抗や反抗が生じてしまうケースが多く、これに比べて前肢及びショルダーのトレーニングから手を付けた方が馬のメンタルが受け入れやすく、トレーニングが容易であるようでこのことはトレーニング上大変重要なことだと考えられるのだ。

 従って、前肢及びショルダーのコントロールを、ライダーやトレーナーが意識的に行いその操作性を向上させることによって、馬のガイドの容易性ばかりでなく、バランスバックやムーブメントの操作性も飛躍させる要因と考えられるのである。

 馬の運動ベクトルの物理的現象としては、前肢と後肢のステップ角度の差によって生じることであるが、ライダーの行う実務的事項として考えれば、レインによるプレッシャーとシートや脚のプレッシャーの複合的作用によって行うものだが、これらのプレッシャーの接触点を作用点と支点または力点という考え方をすれば、作用点にライダーの意識がより強く持つ傾向にあるので、前肢及びショルダーの操作性によって馬のガイドを成すと認識することによって、無意識的にレインを引いて馬の頭を向けたり首を曲げたりして、ガイドがままならないことになってしまうことがないようになり、ライダーのガイドの目的と操作が一致して認識上もシンプルになるのである。

2016年10月13日
著者 土岐田 勘次郎


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