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    VOL.82「フレームを形成するための回転モーメント」

 2017年2月号

 今月のテーマは、馬の体勢や姿勢であるフレームを形成させるためのプレッシャーである。

 馬のフレームを形成させるために、馬体の支点と作用点の二つのパーツに対してかける二つの力をパラレルになるように、組み合わせて回転モーメントを作り、この回転モーメントによって実行する。
 そして、この回転モーメントには、水平方向と垂直方向があり、この両方を同時に作り出して、馬のフレームを形成させるのである。

 例えば、内方姿勢は、回転方向の内側にビットのマウスピースが向け、その状態を維持したまま外方へプレッシャーをかけ(支点)、外方脚で外方前肢が内方へ向かってステップする(作用点)ようにプレッシャーをかける(力点)。
 このとき、支点と作用点の二つのプレッシャーの力が、同一線ではなくパラレルになるようにする。二つの力がパラレルになることによって、馬体に回転モーメントが生まれて、左内方姿勢であれば右回転モーメントになり、右内方姿勢であれば左回転モーメントになり、それぞれに内方姿勢を作るのである。
 
 収縮は、レインハンドは左右均等で上方向にプレッシャーをかけて(力点)、ライダーが鐙ではなく極力シートに負重して、レインハンドが上に向きに力をかける反作用としてライダーの負重する馬の背中を支点として下方向へプレッシャーをかけ、後肢がより深く踏み込む(作用点)。
 このことで馬体を左側面から俯瞰すると、垂直方向として右回転モーメントが生まれるので、馬のヘッドを押し下げ、後肢をより前に踏み出させることになり収縮するのである。

 馬が運動するには、グランドと馬の肢との間で作用反作用の力が働かなければならないので、ライダーがこれに直接関与して馬を運動させることはできないが、ライダーが二つの力をパラレルにして回転モーメントを作ることができるので、この回転モーメントによって馬のフレームを形成することができる。

 馬のフレームは、馬の運動に間接的に大きな影響力を持つので、ライダーが間接的に馬の運動をコントロールすることができるのである。

 ライダーに求められるスキルは、馬とのコミュニケーションのためのプレッシャーアンドリリースのフィールであり、二つの力をパラレルに組み合わせて回転モーメントを作る能力なのである。


 ファウンデーショントレーニングにおいて、馬体のパーツの柔軟性を養成する為のストレッチやバランスワークがあるが、これらにおいても必ず二つの力をパラレルにして回転モーメント作って、馬体の最低2ヶ所を支点と作用点と設定して実行すれば容易にできるのである。

 ビットのマウスピースを内方へ向け、外方へプレッシャーをかけてホールドし、外方脚を前肢寄りにして内方へ推進するようにプレッシャーをかけ、ホールドと推進の二つの力を同一線にならないようパラレルにして、回転モーメントを作って内方姿勢を作れば、前肢も後肢も内方へステップするようになると共に、このままプレッシャーを加減すればより後肢を深く踏み込ませることも可能になるのである。

 多くのライダーが推進力に悩み、馬の姿勢である内方姿勢や収縮をさせることに苦労しているのは、推進力と抑制力の二つの力の組み合わせが、同一線になってしまうからで、同一線になってしまう理由は、ライダーの中心に向かってレインを引き、その反作用としてライダーの中心から脚の力は作動してしまうからで、回転モーメントが作れないので推進と抑制の二つの力を有効に活用できていないからなのである。

 脚は脚の力で、レインハンドはレインハンドの力で、各々が単体の力でしかないからで、有効に機能しないのである。

 馬上であっても地上であっても力を行使するということは、何処か(力点)で力をかけようとすれば必ず支点においてこれを支え、支点における反作用の力が作用点に働き作用点を動かすのである。

 従って、二つの力を同一線上に位置させるか、またはパラレルにするかによって、支点と作用点の力からのかかる物が、直線的動きになるか回転するかが決まるのである。

 地上の場合の支点は、静態上にあって固定されているので、作用点のみが動くので分かりやすいが、馬上であっては、支点も作用点も動態であって固定されていないので、支点と作用点の二つの力が同一線上にあれば、馬体を柔軟性のない棒だと仮定すれば馬体に変化は起きないが、パラレルとなれば回転モーメントになるので、例え馬体が曲がらない棒だとしても支点と作用点を近づけたり遠ざけたりする力を働かせることができるのである。

 物を持ち上げたり移動させたりするときは、作用点と支点の二つの力が同一線上にあった方が効率よく力を作動させることができるが、物を曲げる場合は支点と作用点の二つの力がパラレルであった方が良いのである。
 
 馬上にあってライダーが馬に対してできることは、動かすことではなく曲げることで、馬体を曲げることによって、動きやすくまたその動きをコントロールしやすくなるという間接要因を高めるということが馬術なのである。

2017年1月23日
著者 土岐田 勘次郎

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