Horseman's Column title

    VOL.89「タッチ アンド リリース」「Touch And Release」

 2017年9月号

 今月のテーマは、「タッチ アンド リリース」について解説します。

 これまで「プレッシャー アンド リリース」と云ってきたことで、プレッシャーの最小値に相当することがタッチということになる。従って、「プレッシャー アンド リリース」の範囲における最小値で「タッチ アンド リリース」だということだ。



 プレッシャーとは、現状の態勢に影響を与えるパワーで、バランスを崩す力で、その最小値であるタッチとは、バランスの影響を与えない範囲の力だと定義する。
 科学的にバランスに影響を与えないプレッシャーはあり得ないが、馬のメンタルに対して、バランスに影響を感じない程度のプレッシャーがタッチだということである。これに対して、プルは態勢やバランスに影響を与えるプレッシャーだと定義する。

 馬の生命維持機能として、バランスや態勢に影響を与えるようなプレッシャーに対して、バランスや体勢を崩されまいとしてプレッシャーに抵抗してバランスや体勢を維持しようとするのが自然な反応なのである。
 そしてまた、単にプレッシャーに対しては、開放されるところや方向を探して、開放されることによって安堵しようとする機能を持っているのである。

 この機能を活用してトレーニングが行われているのである。

 「プレッシャー アンド リリース」は、プレッシャーをかけ、ライダーの要求する反応をしたときに、かけていたプレッシャーをリリースすることによって、馬はその要求に従った反応をすれば、プレッシャーから解放されることを学習するということがトレーニングのシステム である。

 問題はプレッシャーの大きさで、馬のバランスに影響する程のプレッシャーの場合、プレッシャーに従えば開放されることを知らなければ、抵抗してバランスを維持しようと自然な反応をする。バランスを崩してまでプレッシャーに従う反応をするには、可成りハードな学習をしなければならないのである。
 何故なら、馬にとってバランスを崩されることはパニックに陥ってしまう程のことなので、バランスを崩されてまでプレッシャーが解放されるところや方向を探すことができるのは、余程天才的な能力の馬だけなのではないだろうか。

 つまり「プレッシャー アンド リリース」は、馬の性質やライダーの技量にとても左右されやすいトレーニング法だということができる。

 そこで、「タッチ アンド リリース」は、現状の態勢やバランスに影響を与えないプレッシャーなので、馬は単純にそのプレッシャーから解放されるところや方向を探すだけの反応をすれば良いことになる。
 つまり、馬は、バランスを維持するために抵抗をする必要がないので、単純にプレッシャーから解放されるところや方向を探す行動を取るので、そこがライダーの求めるところや方向と一致することによって、ライダーの要求に応じることによってリリースされることを学習するのである。

 従って、バランスを崩すようなプレッシャーに対して抵抗し、なかなかプレッシャーから解放されるところや方向が見つからないときに、抵抗や反抗を馬が認識して固定化するリスクを冒すことなくトレーニングができるということである。


 抵抗や反抗を固定化するとは、認識として抵抗や反抗の概念を馬が持ってしまうということである。
 無理矢理力尽くで従わせてきた馬に良く見られるのは、運動の移行や指示の度に抵抗を見せてから応じる現象である。

 一定の推進(カデンスを維持する)をしてサークル運動を継続し、その中で内方のレインを引きビットタッチするだけに止め、馬が抵抗をしなければ直ぐにリリースする。抵抗しなければとは、反応しないという意味で、タッチした方へ馬が向くということではない。
 このとき、一定に推進を維持することが重要で、レインを引いてタッチしたときに、推進が弱まったり増進したりしないようにすること。もし、推進が必要になったり勝手に速くなったりすれば、タッチではなくプルしてしまっているといえる。

 抵抗しなければリリースする。これを数回繰り返せば、馬が直ぐにタッチした方へ顔を向けるようになります。少しでも顔を向けるようになったら直ぐに反対のサークルへ移行して、これを繰り返す。
 そして、左右共に徐々に大きく首を曲げてタッチした方へ顔を向けるようにする。
 一気に片方のサークルをするのではなく、段階的に左右のサークルを交互に繰り返すのは、馬のメンタルを怠惰にしたり飽きさせたりしないためで、ちょっとできたら反対サークルへ移行し、徐々に反応を深くしていくことによって、馬のフレッシュなメンタルを維持しながらトレーニングすることができるのである。

 このトレーニングは、ウォーク(常歩)・トロット(速歩)で、ノーズエクササイズやリヴァースアークなどを行い、充分な柔軟性を求めてトレーニングすることによって、収縮やバランスバックなどのパフォーマンスを飛躍させることができる。

 タッチしたとき、抵抗を示した場合は、タッチしたままサークルの軌道を維持してより推進する。このことによって抵抗は直ぐになくなるので、タッチではなく更に引いてしまい馬の態勢やバランスに影響を与えてしまうことのないように注意することが重要である。

 新馬ではなく色々な体験している馬の場合、抵抗や反抗を固定化してしまっている馬の場合、単純に「タッチ アンド リリース」で全てが解決することはないので、フィジカル的に反応の鈍くなっているところや反抗的になる動きを把握して、そのパーツや動きの中で、シンプルな動きの中で極力「タッチ アンド リリース」の原則に従ってトレーニングすることで、馬とファイトすることなく、従順性や柔軟性を養成することに努めることで、必ず成果が見られることでしょう。



 ライダーにとって、この「タッチ アンド リリース」のシステムは、フィールを養成することとなるでしょう。何故なら、タッチは馬の現状態勢やバランスに影響を与えない程度のプレッシャーなので、ライダーが馬に対して何らかの指示や要求をするときに、馬の態勢やバランスに影響を与えないプレッシャーに傾注しなければならないので、プレッシャーの接触点へ自然に意識が向かうこととなるので、特に準備運動の中でライダーのフィールが要求されることに対応するシステムなので、必然的に養成されると考えられるのである。

 「タッチ アンド リリース」は、「プレッシャー アンド リリース」の入り口であり、トレーニングの最終段階では、馬の態勢やバランスをコントロールすることにあるので、これらをフィジカル的柔軟性や可動域の拡大を図り、馬の従順性を育みながら実現していく上で、この入り口が重要なのである。

2017年8月3日
著者 土岐田 勘次郎

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