Horseman's Column title

    VOL.10 「矛盾からしか生まれない馬の従順性」 

2011年2月号


 今月は、馬の従順性を作るトレーニングについて解説します。

 ライダーにとって馬の従順性は、最も重要なことだ。

 何故なら、ライディングは馬とライダーとのコミュニケーションによって行われるもので、そのコミュニケーションは、 ライダーの要求を馬が受け入れて反応するための必要充分条件が整うことによって成立するからである。

 ライダーと馬との関係は、ライダーが馬のフィジカルに乗ってしまうということが特筆されるべきことで、 このことは馬に対してライダーが物理的力をもって馬をコントロールすることができないということを意味し、 物理的力とは作用と反作用の関係であり、例えばライダーが左脚で馬に圧力を加えたとすると、 ライダーが自分のフィジカルを支える支点(右脚やシート)において、左脚で与えた圧力と全く 同量の力で全く逆方向の力を加えており、その力は馬体内で相殺されてしまうから、 物理的力で馬をコントロールすることはできないのである。

 従って、ライダーは馬とのコミュニケーションを以て、馬をコントロールしなければならないという理屈なのである。

 そして、馬をライダーがコントロールするための必要充分条件とは、ライダーの要求の意味するものを馬が理解することと、 その要求に応えようとする従順性との2つの要素である。

 ライダーの要求を理解しても従順でなく反抗的であれば、馬はライダーの要求通りの反応をすることはないし、 従順であってもライダーの要求を理解できなければ、これまたライダーの要求通りの反応することはできないのである。

 この必要充分条件の一つである馬の従順性を、作るためのトレーニング法について解説することにする。

 従順性を育むためには、矛盾する運動を要求することが必要で、矛盾する運動を要求するとは、 2つの逆方向の運動を組み合わせることということである。つまり、2つの逆方向の運動の組み合わせということが矛盾という意味である。

 動いている馬に対してハミでその動きを制動して停止させたり、停止している馬に対して脚で圧力を加えて馬を動かしたり ということで馬が従順であるという理解は、とても浅い理解でしかない。

 この反応によって馬は少なくても反抗的ではないことを伺うことはできるが、この反応で従順であるという理解をすることはできない。 何故なら、このとき馬のメンタルに、何かを恐れたり興味をそそられたり嫌ったりという影響を与える要因が働いた場合、 同じ反応を示すのかどうかを見てみないことには、従順であるかどうかを判断することができないからである。

   




 そこで、今回の本題である馬の従順性を育むトレーニングに、入ることにしよう。

 停止している馬を脚で推進して動かし、馬が前進し始めたらその直後にハミやシートで制動して停止を要求し、 停止をすると同時にバックアップを要求する。そして再び、脚で馬を前進させては直後に停止を要求する。そしてバックアップをさせる。

 この繰り返しは、馬にとってとても矛盾する要求の繰り返しとなり、その矛盾を馬は受け入れることによって、 馬はライダーから受ける要求を最優先するようになるのである。

 また、停止している馬や歩いている馬を脚で推進して、トロットにしたりロープにしたり速いウォークにしたりして 前進させた直後に、ハミや脚を使って左右どちらかに180度、270度、360度ターンさせて発進させる。 これを何回も繰り返す。このときターンする代わりにバックアップさせることも良いし、 ターンとバックアップを組み合わせるのも良い。またターンさせるときにスピンをすることもまた良いトレーニングである。

 こうしたトレーニングにおいて肝心なことは、ハミや脚に対する馬の反応を、回を重ねる毎により柔らかくなるように、 またより抵抗が少なくなるように変化させることだ。

 そのためにレインを引いたときに感じるテンションを意識して、そのテンションが小さくなるまで引いたり 脚でより推進したりして、少しでもそのテンションが小さくなったと感じた瞬間に、ハミや脚のプレッシャーをリリースする。

 馬を誰でもが乗れるようにトレーニングするとは、レベルの初級の人や上級の人でも受け入れて、 乱れた動きをすることのない落ち着いた反応を見せる馬にするということで、そのためには、 矛盾する運動を求めてこれを受け入れるようにトレーニングすることで、馬に何事でも受け入れることができるキャパシティを作ることができるのである。

 また馬が外的要因である音や光や物の動きに驚いて、乱れた動きをすることのないようにトレーニングすることにおいても同様で、 矛盾する運動を馬に求めることによってできることなのである。特に日本では、物や場所に慣れさせるために、その物を良く 見せたり場所に慣れさせたりするようにと考えがちだが、そうではなくて普段のトレーニングにおいて、ライダーから意図的に 矛盾した運動を求められても、リラックスしたメンタルの状態を維持して反応するようにすることによって、 馬がライダーのことを最優先するようになって、初めて見る物や不慣れな場所に対しても、素早く平静な精神を保つようになり、 ライダーのオーダーに細心の注意を見せるようになるのである。

                  


               2011年1月24日
                 
              著者 土岐田 勘次郎


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