2018年8月号
乗馬において、ライダーが馬に指示命令するとき行うことには主に二つがあり、それは合図(Cue キュー)と扶助(Aid エイド)です。その合図について今月は、解説したいと思います。
因みに、扶助とは、馬の体勢や姿勢を作るために行うことで、合図とは馬に何らかの動きを指示するために行うことで、この二つの境界は曖昧で、通常合図であっても扶助といっていることもありますが、馬術用語として厳密には異なることとして区別されていることなのです。
その合図には、ボイスキューやレッグキューやネックレインなどがあります。
キューイングの基本は、タッチで、馬に対して強制力を持たないので、馬のメンタルにその作用が大きく左右されます。
馬のメンタルとは、従順性や集中力や精神状態のことで、馬の従順性がかけたりよそ見して集中してなかったり興奮して冷静さが失われていたりすれば、馬の反応はライダーの指示にそぐわないものとなります。
従って、ライダーが指示通りに馬の反応をコントロールするためには、馬の従順性を養成したりキューイングの意味するところを理解させたり、ライダーに対するコンセントレーションを失ったりしないように、トレーニングしておく必要があります。
ライダーの馬に対するキューイングが機能するには、馬がキューの意味を理解し、且つ従順に従おうとするときが絶対条件で、この内の一つでも欠ければキューによる馬の反応は違ったものとなってしまいます。
馬の従順性は、プレッシャーアンドリリースの原則によって養成されます。つまり、ライダーが馬に対してプレッシャーをかけ、ライダーの指示通りに馬が反
応すれば直ちにプレッシャーをリリース(開放)し、指示通りでなければプレッシャーを増幅させて指示に従ってからプレッシャーをリリースします。
馬のコンセントレーションを養成するには、馬の行動を裏切ることです。
ライダーは、馬がライダーの指示によって反応している場合と馬が勝手にライダーの指示を予測して動いている場合を見抜き、馬が予測して行動している場合、その予測を裏切って行動させるようにしなければなりません。
例えば、コーナーを曲がるとき馬が早めに曲がろうとしているかどうかを見て、早めに曲がることを許さずにライダーが予め曲がる場所を限定しているところで曲がるようにしたり、ストップの場合も馬が予測してストップしようとした場合には、ストップせずに馬が予測しなくなってからストップするようにしたり、同じ場所で何回もストップしないようにしたりします。
更に態と発進しては直ぐにストップさせるように、態と予測を裏切るようにして、ライダーの指示を絶えず待つようにすることで、馬がライダーに対するコンセントレーションを維持するようになるのです。
馬のリラックスは、とても重要なファクターです。
従順性とコンセントレーションを養成することで馬のリラックスが作られ、特にコンセントレーションを訓練して維持できるような馬にすることによって、馬のメンタルは安定するようになります。つまり、ライダーに集中することによって、ライダー以外の外的要因から解放されてリラックスするというメカニズムです。
そして、馬が従順にいるときやコンセントレーションしているときに、ライダーからプレッシャーを受けることのないようにすることも重要です。
|
キューイングは、キューイングを最初に行いその後に強制力を駆使することで訓練をします。
例えば、ネックレインは、レインをタッチしてその直後に脚とレインで馬の反応を強制的に促して、馬が反応したらそのプレッシャーをリリースします。これを数回繰り返すようにすると、レインをタッチするだけで馬が強制的に要求される運動を予想して反応するようになります。
ボイスキュー(舌呼)は、元々馬には高音は促進、低音は抑制の効果があるので、キッシングは高音で促進効果があるのでスピードアップに、ウォー(Whoa)は低音で抑制効果があるのでストップのときに用いるようにします。
ボイスキューもネックレインと同様で、最初にボイスキューを行いその直後の強制力を発揮して馬の反応を求めることを繰り返して学習させます。
レッグキューは、脚によるキューですが、他のキューイングと同様に、最初に脚によるタッチでキューイングして、その直後に強制力を駆使します。
ボイスキューは、馬の運動の促進または抑制のために行い、特に促進のためのキッシングは、馬の動きが始まってから使うようにすることが大切です。何故なら、キッシングそのものに馬の動きを意味するものがあるわけではないので、もし馬の動きが始まる前に使えば、馬は何をして良いか分からなく混乱させてしまうからです。
例えば、スピンやロールバックなどは、ステップを始めてからボイスキューをしてスピードアップを促し、ステップを始める前にボイスキューを使えば、馬はスピンなのか直進なのか区別がつかずに混乱することとなるわけです。
レッグキューは、扶助ではありませんが、脚で強く押しつければレッグプレッシャーとなり扶助になりますので、ライダーは意識してこれを使い分ける必要があります。
キューイングとエイド(扶助)を使い分けずに何時もやっていると、馬の反応は鈍いものとなってしまうのです。何故ならディパーチャーでタッチではなくいきなり脚でプレッシャーをかけていれば、プレッシャーをかけなければ発進しなくなるのです。
従って、レッグキューとして脚をタッチし馬が発進しなければ脚でプレッシャーをかけるようにしていれば、脚をタッチしただけで発進するようになるのです。
ネックレインは、外方のレインをタッチして、内方へのステップや軌道の移行を要求する場合に使います。例えば、スピンのスタートやサークルのガイドや方向の切り替えに使います。
キューイングの原則は、「最終的キューを最初に行う。」です。
つまり、最終的にこのキューイングで馬の反応をさせようとする場合に、最初にこのキューイングを行い、馬が反応しないときに強制力を駆使して反応させ、キューイングにより馬がすべき反応を理解するようにすれば、容易にキューイングで馬をコントロールできるようになるのです。
キューイングは、最も高等な馬術であるということができるのです。
そして、キューイングで馬をコントロールするように心掛けることが、高等馬術を実現できる道で、扶助は強制力を持つので、キューイングのサポートとして扶助を駆使し熟練して、究極の馬術はキューイングによってあらゆるパフォーマンスができるようにと考えることが重要なのでしょう。
|