Horseman's Column title

    VOL.105「内方後肢」

 2019年1月号

 新年明けましておめでとうございます。

 旧年中は、ご愛読ありがとうございました。本年も相変わらぬご愛顧の程お願い申し上げます。

 さて、今年初めてのコラムのテーマは、内方後肢であります。

 馬の運動のメカニズムは、江戸時代の籠を4人で担いで走るのと同様で、前の二人が籠を持ち上げ、浮いた籠を後ろの二人が押して走っているということで、前肢が馬体を持ち上げて、浮いた馬体を押しているというメカニズムなのです。
 つまり、馬体重を持ち上げる役目と推進する役目を、それぞれの肢が担っているのです。

 従って、馬の運動における4肢の役割は、前肢が体重を持ち上げ後肢が推進しており、駈歩のときは、両前肢と内方後肢が体重を持ち上げ、外方後肢が推進の役割を果たしているのです。勿論、厳密に役割分担しているわけではなく、主たる役目がそうなのです。
 つまり馬は、合理的に運動するために、体重を浮かせたところを推進しているメカニズムを持っているのです。

 そこで多くの馬術家は、推進力に重きをおいているために、後肢の踏み込みや推進力の増大に心を砕いています。



 しかし、今回はちょっと視点を変えて、体重を支える役割の方を重要視して見ることにしてみようと思います。

 何故なら、推進力を大きくするためには、体重をしっかりと支えなくてはできないからです。体重を支えるべき肢がその役割を充分に果たしていない場合、推進力を発揮している肢は、体重を支えながら推進力を発揮しなくてはならなくなるわけ ですから、100の力を、支えることと推進とに配分することになり、充分な推進ができないということになると考えることができるのです。

 そこで、体重を支える内方後肢の踏み込みを重要視してみることにします。内方後肢が充分に踏み込んで、重心の真下近くに位置することによって体重を充分に支えることができます。


 レイニングホースにおける内方後肢の踏み込みが深いことで、スピンターンの精度が上がったり、ロールバックがスムースになったり、サークルのスピードの落差も格段に飛躍したり、スライディングストップも向上するのです。
 つまり、内方後肢の踏み込みは、全てのマヌーヴァーの肝心な役割を果たしているといえるのです。



 内方後肢の踏み込みを養成するための常歩の基礎運動として、レインをピックアップし内方に馬のネックをベンドさせつつ、内方脚で馬のショルダーの内方への移行を阻止します。すると、馬の頭が内方へ移行し、ショルダーは内方脚で移行を阻止されるので、その反作用として後駆が外方へ移行します。つまり、後肢がステップアウトして馬体が内方旋回するようになります。
 このとき、内方後肢の推進が旺盛になるように内方脚でプレッシャーをかけ、内方後肢が真横ではなくより前にステップするようにすると、馬体の真下へ内方後肢がステップするので、充分に馬体を支えることができるようになります。

 以上のように、内方後肢が馬体の真下へ着地するようになり、体重が充分に負重するようになるのです。特に、内方後肢が内方前肢よりも馬体の中心に向かってステップすることで、内方後肢に体重の負重がし易くなるのです。

 内方後肢が馬体の真下に向かってステップすることによって、内方後肢に負重するので、両前肢や外方後肢の動きが軽快になります。つまり、推進力を発揮しやすくなるのです。

 馬の重心の位置は、第4肋骨付近にあるといわれ、このことによって前肢に6割、後肢に4割の体重配分となっており、それは直進運動をするには合理的なのですが、停止や軌道の変更や旋回をするには、バランスバックといって、重心を後肢寄りに位置させる必要があるのです。
 また、前肢の動きやビットの操作に対する反応の柔軟性や軽快さを求めるためには、重心をより後肢よりに位置するか、重心の近くに後肢が着地するようにすることが必要となるのです。

2019年1月1日
著者 土岐田 勘次郎

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