2019年2月号
今月のテーマは、ストップです。
レイニングホースにおけるストップは、後肢のグランドコンタクトによって行われるものです。
馬の前肢の球節や膝関節は後ろに屈曲はできますが、前に屈曲できない構造になっているので、構造的に前肢でのストップは、関節や腱などを傷める原因となります。しかし、馬は、前肢に約60%の体重を掛けているので、トレーニングの浅い馬は、前肢に負荷をかけてストップします。従って、馬という動物は、走るのは得意だといえますが、構造的にストップは苦手だということができるのです。
レイニングホースのスライディングストップは、バランスバックすることによって後肢への体重の負荷の割合を大きくして、後肢でグランドコンタクトをしてストップできるようにしたものなのです。
馬の後肢は、球節は前肢と同じで後ろにだけ屈曲しますが、飛節は前に屈曲できるし股関節もまたフレキシブルな構造を持っているので、後肢はストップを合理的にできる構造を持っているのです。
走っているところからストップする場合は、必ず後肢を駆使してすることによって、故障を回避することができる。このために重心と後肢の着地位置の関係性において、後肢の着地位置よりも前に重心があれば、馬は前肢でストップし、後ろにあれば後肢でストップするというメカニズムなので、バランスバックしたり後肢の踏み込みを深くしたりすることによって、重心の前に後肢が着地するようにしているのです。
レイニングホースには、ハイスピードで走るマヌーヴァーが二つあります。その一つはサークルで、もう一つはランダウンです。しかし、多くの場合サークルのハイスピードは、バランスフォーワードにしてスピードアップしますが、ランダウンのハイスピードは、バランスバックによってスピードアップするのです。従って、スピードアップをしているのは同じですが、サークルの場合とランダウンの場合とでは、構造的に違う運動をしているのです。
筋肉運動の観点で見れば、サークルの場合筋肉運動は少なく、ランダウンの場合筋肉運動を旺盛にしてスピードアップしているのです。
ストップのトレーニングは、バランスバックのトレーニングということもでき、そのためには、馬体を左側面から俯瞰して前駆が上方向へ、後駆が下方向へ向かうような右回転モーメントを作ることが必要なのです。
回転モーメントを作るためには、作用点と支点のそれぞれの力の方向が、同一線上にならずにパラレルになるようにすることが必要で、それはレインを上方向へピックアップすることでできます。
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ライダーのバランス感覚は、無意識にレインをピックアップするとライダー自身の重心に向かってしまい、作用点と支点が同一線上になってバランスを取ろうとして、回転モーメントにならないようにしてしまうので、意識的にレインのピックアップを、自分へ引かないように上に向かうようにしなくてはなりません。
このとき、ライダーは鐙に負重する割合を小さくして、極力シートに全体重を掛けるようにすれば、回転モーメントができやすくなり、バランスバックできるようになるのです。
そして、ストップの際にレインを上方向にピックアップしたり、バックアップする際に、レインを上方向にピックアップして、ライダーがシートに全体重を掛けるようにしたりすることで、馬体に右回転モーメントが生まれて、後肢が前にステップしてバックアップするようになります。
レイニングホースに良く見られる現象として、ランダウンに入ると馬が勝手にスピードアップしてしまうことがあります。これは、馬のメンタルが興奮して条件反射的に反応してしまうことによって起きる症状で、このときの運動のメカニズムは、バランスフォーワードで運動しており、これは惰性で動く運動となっているのです。これを治すには、バランスバックの状態でランダウンすることで矯正することができます。
馬は、バランスバックした状態でスピードアップするためには、筋肉運動を活発にしなくてはできません。筋肉運動は、恣意的運動なので、馬のメンタルが正常の範囲であれば、基本的には筋肉運動を抑制するようにメンタルが機能し、スピードアップはライダーに従順であることによって、筋肉運動を旺盛にすることとなるのです。従って、馬が勝手に筋肉運動を活発にすることはなくなるのです。
バランスバックは、基本的に推進力は減退します。そしてバランスフォーワードは、推進力が旺盛になるのです。勘違いしてはならないのは、後肢の踏み込みを深くすることによって推進力が旺盛になるということで、基本的に踏み込みを深くすることによって推進力は減退するのです。しかし、筋肉運動を活発にし易くなるのが踏み込みなので、その結果推進力を旺盛にしているのです。
また、後肢の踏み込みを深くすることによって収縮が生まれるので、大きな筋肉運動をしなくても旺盛な推進力を生むことができるようになるのです。
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