2011年3月号
今月は、ライディングにおいてのセオリーを展開する前に作る前提条件について、解説することにする。
多くのプロは、長い経験の中で意識せずともできてしまっているので、このことについてあまり触れないし、
自分でも意識的にやっていないので説明することができない人もいる。
しかし、馬に乗る以上誰でもが馬をコントロールしなくてはならなくて、コントロールするには馬とライダーのコミュニケーションが必要不可欠であり、
しかもライダーと馬との関係性は、ライダーがイニシァティブをとったものでなくてはならない。
馬とライダーの関係性において、どんな瞬間においてもライダーがイニシァティブを取れていなくてはならなくて、
そのために何をするかというのが今月のテーマである。
馬に乗るには、馬の精神がリラックスしていることが欠かせない重要な要素であることは間違いのないところではあるが、
リラックスというと何もプレッシャーのかかっていないことが必要条件のように理解されている節が感じられるが、それは間違いだということを知る必要がある。
オリンピック選手が出番の前に、ウォーミングアップしているときに、ウォークマンを聴いて精神を集中している姿を良く目にする。
来るべき勝負の大一番において、極度な緊張状態でやるべきこと一点に絞って、邪念を持つことなく成功のイメージだけを念頭に置くようにしているのである。
第三者から見れば、極度な緊張状態の状況下でも精神的リラックスを作っているように見える。
それは精神を集中することによって、精神もフィジカルもリラックスできることを証明しているのである。
つまり、乗馬は馬がこの場合のオリンピック選手に当たるわけで、馬がライダーに対して集中することによって、
メンタルもフィジカルもリラックスする状態を作ることが必要であり、極力プレッシャーを掛けずにメンタルとフィジカルがリラックスしている状態とは、
異次元の世界なのである。
しかも、ノープレッシャーの状態が必ずしもリラックスするとは限らない。
何故なら、外的要因によって一瞬で緊張状態に入ってしまうからである。
しかし、メンタルが何かに集中した結果作られたリラックスは、その集中が切れない限り外的要因によってみだりにリラックスが途切れてしまうことを、防ぐのである。
さて、馬の精神をライダーに対して集中させることにおいてしなければならないことは、馬とライダーとの関係性において、
ライダーを上位者だという認識を馬に対して植え付けることで、このことが初心者は上手くできないので、
乗馬におけるセオリーを正しく行ったとしても、馬をコントロールすることができないのである。
速歩などの準備運動の段階で、馬をガイドしたり停止させたりするときに、単にその運動をするという考え方を止めて、馬の心肺機能を活発化させて、且つライダーに対して上位者だという認識を、植え付けることにあると理解する必要がある。
つまり準備運動とは、馬のフィジカルとメンタルとを準備するということで、フィジカルだけを運動させると考えていると、その後の馬のコントロールが上手く行くことはないのである。
しかし上級者は、フィジカルの準備運動をしながら、馬をガイドしたり細かいステップをコントロールしたりしているときに、しっかりとライダーが上位者だという認識を馬の植え付けているのであり、このことが上位者は、あまり強く意識しなくてもできてしまうので、初心者に説明しないしできないのである。
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実際に、準備運動でガイドやストップやバックアップやディパーチャーの一つ一つにおいて、使うレインやビットや脚に対する馬の反応を、ライダーが求める運動を反応したかどうかだけに関心を持つのではなくて、ライダー自身がこの馬の反応に、本当に満足できるのかどうかに強く関心を持ち意識をする必要があるのである。
例えば、レインを引いてビットプレッシャーを掛けたとき、馬がそのプレッシャーに対して確実に譲って、プレッシャーを掛けている手にかかるテンションが、馬が譲ることによってとても小さいものになったかどうかを、確認するようにすることが重要で、単にガイドに従ったりバックアップしたりしたからといって、かけたプレッシャーをリリースしてはならないのである。
ガイドするために掛けたビットプレッシャーに対して、馬がそのテンションに対して譲って、頭を下げたり左右どちらかに首をベンドしたりして、ライダーの手に感ずるテンションが極めて小さくなった場合に、掛けているプレッシャーをリリースするようにする。
この場合、とても上手くやるには、初めから馬の譲り方を100%求めるのではなくて、ほんの少し微かに馬が譲ったと思える反応をでも一旦リリースして、再びプレッシャーを掛けて、少しずつ譲り方を増やしていくというのがベストだ。
しかし、ここで注意しなくてはならないのは、馬の譲り方というものは、正比例式に増えるものではなくて、ある分岐点があってこれを越えることで一気に馬が深く譲るようになるので、このことを念頭に置いて繰り返すことが重要だ。
何回も繰り返す一回一回の中で必ずやらなくてはならいのは、馬の抵抗する壁を打ち破るということである。
プレッシャーを強めていく過程において抵抗するポイントにぶつかったら、その抵抗を打ち破ってからリリースすることを繰り返さなくてはならない。この壁を破らずにリリースしてしまうと、馬の抵抗は増えていってしまうのである。
そしてライダーにとって、馬の抵抗を少なくできる一番やりやすい運動でこのことを求めることが重要であり、それは馬が一番得意とする運動や方向でも良いし、ライダーが一番得意とする運動で求めることもまた望ましいことである。
バックアップにおいても、後退すればいいというバックアップではなくて、ビットのプレッシャーに対して馬が頭を下げて譲ったり、後肢を深く踏み込んで軽快にステップしたりして、ライダーが心から望ましいと感覚的に思えるようなバックアップを求めて、繰り返し繰り返しして求めなくてはならない。
こうしたことにライダーが関心を持って準備運動をすることによって、馬のフィジカルは心肺機能が活発になり、メンタルはライダーの対して従順になり、心身ともに準備が整い、ライダーのコントロールがイージーになり、馬はライダーに対して集中した上にリラックスすることができるのである。
乗馬において、ライダーが馬に対して行うべきセオリーがあるが、そのセオリーを展開するためには、ライダーと馬との関係性が、ライダーがリーダーで馬がこのリーダーに対して従順に従うという上下関係が確立してなくてはならない。この為にライダーは、特に準備運動の段階で、フィジカルの準備運動において同時に馬の従順性を作る必要があり、そのためにライダーが馬に対し与えるプレッシャーに対して馬が心から譲っていることが重要で、ライダーは単に求める運動を馬がしているかどうかだけに関心を持つのではなく、ライダーが与えたプレッシャーに対して抵抗なく反応をしているかどうかに注意をして、もし満足できない譲り方であれば、更にそのプレッシャーを継続したり強めたりして、馬が心からライダーのプレッシャーに対して譲るという態度や反応を、求めることが重要で、このことによって、ライダーが馬を容易にコントロールできるのである。
2011年2月14日
著者 土岐田 勘次郎
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