Horseman's Column title

    VOL.111「バックアップ」

 2019年7月号

 今月のテーマは、レイニングホースにおけるバックアップです。

 レイニングホースにおけるバックアップとは、ショーイングのときというよりはトレーニングにおいて、バランスバックを求めるものとしてのバックアップのことです。

 レイニングのパフォーマンスの全てといっていいほどバランスバックは重要な要素で、懲罰のためのものということではありません。
 
 馬のトレーニング法としてプレッシャーとリリースというのがありますが、これは謂わばアメとムチという言い方もでき、褒めることと懲罰を組み合わせて馬に学習させるものですが、今回のテーマは飽くまでも懲罰ではなく、馬の重心を馬体上の後方に移行させるためだということです。
 因みに、馬の重心は、第4肋骨付近にあるといわれていて、これをより後駆よりに移行させるものというと誤解が生まれ、実際上は、重心の移動をさせるのはなく後肢をより前に踏み出させることによってなさしめると考える方が当たっています。



 バランスバックのためのバックアップは、馬体を左側面から俯瞰して、右回転モーメントを作ることによって行います。

 つまり、馬のショルダーが上方向へ、後駆が下方向へ運動エネルギーが向かうことによって、右回転モーメントが働きます。
 このことによって、後肢がグランドを前方向へ押すようなステップしてバックアップをします。従って、馬の重心は後肢への負重を高めることになり、バランスバックが起きるのです。
 もしこのとき、回転モーメントを作らずにバックアップすれば、後肢はグランドを前方向へ押すのではなく、重心が後方へ移行するので、これを支えるためにステップするようになり、より後方へステップするのです。従って、バランスバックすることはありません。

 ショルダーを上方向へ、後駆を下方向へ運動エネルギーが働くように、右回転モーメントを作るには、シートを支点にして作用点をビットにし、レインを真上にピックアップします。

 ライダーは、支点をシートにするためにできるだけスティラップに体重を掛けず全体重をシートのかけるようにすること、そしてレインを真上にピックアップする。
 ライダーは、レインを引くとき無意識に行えば、バランスを崩したくないので自らの重心に引いてしまいがちになるので注意しなければなりません。
 レインをピックアップする方向とシートにかかる力の方向とがパラレルになることが重要なのです。この二つの力の方向がパラレルになることによって回転モーメントが生まれ、ライダーがレインを自分の重心に向かって引くようにした場合は、直線モーメントなって回転モーメントは生まれません。


 ウォークまたはトロットからストップしてバックアップします。

 このとき、レインを真上にピックアップしてストップを命じます。このとき、レインハンドで馬の抵抗を感じますが、この抵抗が強ければ強いほど、馬がバランスフォーワードになっているといえます。ストップした後にそのままレインを真上にピックアップしたまま、腹帯の直ぐ後ろに脚をバンプします。
 このことによって、右回転モーメントを作り、後肢が深く踏み込むようになってバランスバックします。
 バランスバックの結果、レインをピックアップしたときに抵抗感が無くなり、馬のビットリスポンス(ビットコンタクトに対する反応)がとても柔らかくなります。

 ライダーのスキルは、シートの感覚として後肢のステップにおける着地位置を把握できるようになります。

 右回転モーメントを作るシステムで、馬にストップを命じたとき、レインハンドに抵抗感が少なくなればなるほど、バランスバックしていることを示しているのです。
 
 右回転モーメントが簡単に作れる馬になれば、スライディングストップは容易にできるようになります。また、サークル運動におけるスピードコントロールもまたようになるのです。何故なら、スピードを落とすときにようにバランスバックさせることができれば、馬は前進気勢が減退するからです。
 また、リードチェンジは、バランスバックしていることによって馬は収縮状態にあるので、リード変換するための運動エネルギーが少なくてすむので、容易にできるようになります。
 また、スピンは、バランスバックによって後肢に対する負重が大きくなって、前肢に対する負重が軽減されるので、軽快なスピンターンができるのです。



 そしてまた、ロールバックはバランスバックからバランスフォーワードに転換するパフォーマンスなので、バランスバックができていなければアグレッシブな駈歩の発進は出来ないのです。

 馬の各パーツであるネック・ショルダー・リブケージ・フランクなどの柔軟性を養成した上で、馬の態勢としてのフレームを形成して重心の位置をコントロールするための最終的トレーニングがバランスバックでありバックアップなのです。

2019年6月12日
著者 土岐田 勘次郎

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