Horseman's Column title

    VOL.112「フィールの養成」

 2019年8月号

 今月のテーマは、ライダーのフィールで、ライダーのフィールとは、ホースバックライディングのスキルの原点となる要素で、馬とライダーとのコミュニケーションの窓口であり、ライダーが馬の動きをコントロールする全てに関わる要素なのです。

 ライダーは、馬にマウントし、物理的作用で馬を動かすことは不可能です。従って、馬の動きをコントロールするためには、ライダーと馬とがコミュニケーションすることによって、馬のメンタルに対しライダーがイニシアティヴを取り実現しているのです。



 どんな高度な機械であっても、センサーが必要な情報を察知する機能がなければ、機械の性能を発揮することができないように、ライダーのスキルが高度であっても、センサーであるフィールが馬の反応や状態を察知できなければ、そのスキルを発揮することはできません。
 人間は、フィールの養成とスキルアップは同時平行的に進展させなくてはできません。機械の場合は、機械の能力とセンサーの能力は別々に開発されますが、実際に機械を稼働させてその能力を発揮するには、センサーの機能なくしてできません。従って、センサーと機械の能力は互いに触発されながら高度化しているもので、結局人間の場合と同じなのです。

 従って、ライダーの能力はフィールを養成することなくしてアップすることはないのです。

 感覚神経は、体の末端で感知した情報を脳へ伝える役割を果たしており、脳へ伝えられた情報を脳が認知することで、我々はその情報を認識することができますが、感覚神経が情報を脳へ伝達しても脳が認知しなければ、情報を認識できず、その情報の存在すらなかったことになってしまうのです。
 つまり「心頭滅却すれば、火もまた涼し」ということです。

 従って、フィールとは、健常者の場合は感覚細胞や感覚神経の機能の問題ではなく、脳の認知のことで、情報を認知するかしないかは脳の仕事であり、意識をその情報へ向かうかどうかにかかっているのです。

 我々の意識とは、アンテナのことで、あらゆる局面から押し寄せる情報に対してアンテナを向けた方角の情報のみを認知するというメカニズムで、意識を向けた方角の情報を脳は認知するものなのです。その逆に、意識を向けていない情報は認知しないというメカニズムです。

 情報には、強弱があって、強烈な情報は、意識というアンテナが向いていない場合でも認知することがあるように、その強い情報が意識というアンテナを誘導されることもあります。

 ライダーが感覚情報を認知するには、意識というアンテナをその方角に向けなくては、大凡認知できません。従って、ライダーのフィールを養成するための訓練とは、意識というアンテナを自在にコントロールする能力の訓練なのです。


 そこで問題は、意図と意識の関係性なのです。

 意図とは、マクロもミクロについても持つことができますが、大凡マクロについて持つもので、あまりに詳細なミクロのことまでを意図すると、意図と意識が一致してしまい、意識のアンテナ機能が作動しにくくなってしまい、外部情報の認知が鈍化してしまうのです。
 意図に誘導されるのが意識で、意図する方向に意識が向くものなのです。しかし、意識は本来意図が持つマクロに沿って、マクロもミクロも外部情報を認知するためのアンテナなのですが、意図を強く持ったり詳細に持ったりすると意識が意図と一致してしまい、意識もまたマクロにのみ向いて、ミクロからもたらされる情報を認知するためのアンテナ機能が働かなくなるのです。

 本来意図と意識は別々なものなのです。

 例えば、馬に駈歩をさせるという意図を持ち、その意図があまりに強いと意識もまたこの意図と一致してしまって、意識のアンテナが、駈歩をしたかどうかだけの情報を認知するだけになってしまって、ライダーの脚やハミのプレッシャーに対する馬の反応がどのようになっているかというミクロの情報を認知しないことになるのです。

 従って、意図と意識の棲み分けをする訓練が必要なのです。

 我々人間は、普段の生活で、意図や認識についてあれこれを考えることは少なく、まして意図と意識の違いについてなど考えたことないのが当たり前だと思います。

 意図は、総合的なことや目的について持つもので、その意図の詳細を意識することによって、詳細な情報を脳が認知し、その情報を加味して次のアクションを起こして、意図を満足させるという意図と意識の関係性があるのです。
従って、意図と意識が一致しては、意図を満足させることはできないのです。意図を満足させるために、意識は意図という大きな網で外部情報を大づかみをし、且つその網の中に入っている魚の一匹一匹に関する詳細な情報を認知するのが、意識というアンテナの役割なのです。

 意図もまた、詳細について持つことはできますが、人間の能力には限界があり、意図があまりに詳細について持つと、大局的であったり展望や進化や変化だったりすることについての意図が弱くなってしまうのです。従って、マクロについて意図を持ち、これを満足するために詳細にミクロの何を意識するかによって、外部情報に対するアンテナ機能を活かされ、外部情報を加味してアクションを起こすことによって、意図を満足させるのです。



 フィールを養成するためには、意図と意識の棲み分けを理解して、意図することを念頭において、何を意識するべきかを考えて行動を起こせば、自ずと意識というアンテナ機能が働き、そのアンテナの向いた方角の情報を認知することになるので、意図することを実現できるのです。そして、この意図することの成功をもって、感覚情報を認知することの存在が大きくなっていき、フィールが益々働くようになっていき、際限なくフィールが養成されるのです。

2019年7月16日
著者 土岐田 勘次郎

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