Horseman's Column title

    VOL.114「重心」


 2019年10月号

 今月のテーマは、馬術にとって最も重要なテーマで、ライダーが馬の動きをコントロールするメカニズムとは何かであります。
 そして、その根幹となるのが重心なのです。

 地球上では、ものの位置する高さとその質量に応じた位置エネルギーが存在し、位置する高さに位置エネルギーは比例し、そのものが落下を始めれば、その位置エネルギーが運動エネルギーに変換して落下し、グランドまで落ちたところで運動エネルギーが最大となり位置エネルギーが0となるのです。

 ものが動くとは、そのものの重心が動くということですが、重心が動くことは、必ずしもものが動くことではないのです。

 重心から真下へ向かう線が、位置エネルギーの方向を示し、仮としてこれを位置エネルギー線と定義する。そして、ものを支える支持点と重心を結ぶ線を支持線と定義する。

 支持点が1ヶ所であれば当然支持線が1本で、その場合、位置エネルギー線と支持線が一致したとき、支持点が複数あれば当然支持線が複数で、その場合、その複数の支持線の間に位置エネルギー線があるとき、支持力が重量より大きく、そのものは停止状態となるのである。

 そして、支持線が1本の場合、その支持線と位置エネルギー線が一致しないときは、位置エネルギーが支持力より大きくなり、位置エネルギーが運動エネルギーに変換して、位置エネルギー線と支持線が一致するまで重心が動く(ものが動く)のである。
 支持線が複数ある場合、複数の支持線の間の外に位置エネルギー線があるときは、位置エネルギーが支持力より大きくなり、位置エネルギーが運動エネルギーに変換して、位置エネルギー線が複数の支持線の間にはいるまで重心が動く(ものが動く)のです。

 つまり、ものは位置エネルギー線と支持線が一致するか、複数支持線がある場合は、その支持線の間に位置エネルギー線があるときに、ものが停止状態となるのである。そして、上記の状態にないときにものが動き、再び上記の状態になることでものが停止するのです。

 位置エネルギー線と支持線が一致しない状態で、ものが停止していることはあり得ないのです。

 そして、位置エネルギー線は、支持線と一致するか、複数の支持線の間に入るように作用するので、ものは絶えず停止しようとする性質を持っているといえるのです。

 球体の場合、球体とは支持点が常に1点で、結果的に支持線が1本の物体なのです。そして、停止状態では位置エネルギー線と支持線が一致している。
 球体が停止しているとき、球体の重量と支持力が同量で、重心の前後左右の重量が同等で均衡している状態で、支持点の作用で停止しているわけではなく、前後左右の重量が同量で、互いに離れようとする力が均等なので、これが釣り合って停止しているのです。

 この球体を右側から押せば、左側へ押した分だけ重心が動くので、位置エネルギー線が支持線の左側へずれます。停止しているときの支持力は、球体の重量と同量で、重量の反対向きの力で真上に向かいっています。 従って、前後左右への支持力は0なのです。
 球体が左側へ押されれば、球体の重心が左へ動き、重心が動けば位置エネルギー線もまた左側へ動き支持線とずれる。位置エネルギー線が支持線に対して左側へずれると、位置エネルギーが支持力を越えて位置エネルギー線が左側へずれた分球体が動き、球体が動くことで支持点が移動して、支持点が移動したことで位置エネルギー線と支持線が一致して、球体の動きが止まるということです。

 立方体の場合は、底辺の前後左右の角から2本ずつ重心に向かって支持線が4本あります。

 停止状態では、位置エネルギー線が4本の支持線の間にあります。このときに支持力は、底辺の前後の角から左右2本ずつ重心に向かう4本の線の合計で、位置エネルギー線より大きいのです。
 この立方体の右底辺を持って90°まで持ち上げると、支持点が左下の底辺となり支持点と重心とを結ぶ左右への支持点は1点なので、支持線も1本になるので、支持線と位置エネルギー線が一致します。そして、このとき立方体の重量と支持力は同等となります。このとき、左底辺の角に立方体の重量の100%が支持されることになります。

 90°まで持ち上げたときに、位置エネルギー線と支持線が一致します。そして、90°を超えた時点で、位置エネルギー線が支持線の左側となり、位置エネルギーが支持力より大きくなり、立方体が左側に倒れて、再び立方体が横たわったとき、左右両角から重心に向かう支持線が2本となり、その間に位置エネルギー線が入り、位置エネルギーより支持力が大きくなって立方体が停止します。

 左右への運動は以上の通りで、前後の運動もまた同じ原理なのです。

 ものを動かす場合は、停止している状態である位置エネルギー線が支持線と一致している状態及び支持線の間にある状態に対して、支持点を重心に近づけて支持力を小さくして、その支持力がそのものの重量より小さくする場合と、重心を動かすことで位置エネルギー線を動かし支持線とずらして、支持力より位置エネルギーを大きくする場合の二通りなのです。

 重量と支持力の位置的関係性と相対的力の関係性において、停止か運動かが決まるのです。そして、支持力は支持点と重心との水平の距離に反比例するのです。
 このような相関関係において、重心を移動することで支持点との水平距離を変えて、支持力を増減する場合と、支持点を移動させて重心との水平距離を変えて支持力を増減する場合の二通りがあります。
 つまり、外部より力を加えなければ、ものを支持する支持点と重心との水平距離を変化させることによって、支持力の増減を図ることによってものが停止するか運動するかが決まるのです。

 そして、表現方法を変えれば、重心または支持点が動くことによって、位置エネルギーと支持力の相対的力の差が変化して、ものが動くか停止するかが決まるのです。

 馬の場合、第4肋骨に重心があるとされているので、その重心と4肢を結ぶ線が支持線となります。位置エネルギー線は、第4肋骨から真下に向かう線となります。
 馬がリラックスして歩いているとき、最初の2〜3歩は肢の筋肉を使っているのですが、その後は肢の筋肉を殆ど使わずに歩いているのです。それは、頭を8の字に振りながら、その反動で歩いているのです。
 その反動で動くとは、頭を振ることによって重心を動かして、支持点と重心との水平距離を変えて、位置エネルギー線を支持点より前に押し出し、位置エネルギーを運動エネルギーへ転換させ前進しているのです。

 馬の頭頸部は、馬体重の20%〜30%に相当するので、これを8の字に振り頭頸部の20%〜30%の重量を動かして、重心と支持点との水平距離を変化させる。重心と支持点との水平距離を変化させ位置エネルギー線を支持線より前に出して、位置エネルギーを運動エネルギーに転換させて歩いているのです。
 また、動いているのを停止するときは、肢を大きく前に踏み出して、支持点を前に出し、位置エネルギー線を前後の支持線の中に入れて、支持力を増大させているのです。

 馬が4肢で立って停止しているときは、前肢と重心そして後肢と重心を結ぶ前後2本ずつ4本が支持線となります。そして第4肋骨にある重心は、その真下に向かって位置エネルギー線があります。

 ウエスタン乗馬に最も多く使用されるクォーターホースは、成馬で約500kgの体重で、第4肋骨付近に重心があるといわれています。そして、その重量は、前肢に60%位、後肢に40%位の配分で負重しているとのことです。
 そして、頭から首の付け根までの重量が、馬体重の20%〜30%を占めるとのことです。

 ものが動いたり停止したりするのは、位置エネルギーと支持力との相対的力の差によって起きている現象なのは既に述べたところです。

 馬の場合は、馬体重の20〜30%を占める頭頸部の働きで、重心の位置を変えて、支持点との重心との水平距離を変えて支持力の増減を図り運動する場合と、後肢の踏み込みにより支持点を移動させて、支持力の増減を図り運動する場合の二通りです。
 収縮は、支持点である4肢の位置を重心の真下近くへ位置させることで、つまり、支持点を動かして重心と支持点との水平距離をより小さくして、支持力を限りなく小さくし、前進気勢を最大にする態勢のことなのです。
 その上で、馬の頭頸部を屈撓させたり内方姿勢を形成させたりして、重心の位置を変えて、支持点との水平距離を増減させて、その前進気勢を加減するのです。

 ライダーが馬に乗っているとき、馬の動きをコントロールするということは、馬のメンタルの作用を活用しながら、ライダーと馬との合成重心の位置関係を、重心及び支持点の位置を変えることによって、馬の動きをコントロールしているのです。
 
 しかし、ライダーが如何に重心の前後の重量配分を変化させようとも、馬が動くかどうかの選択肢は、馬自身が握っていることには変わりありません。
 つまり、ライダーが強制的にまたは直接的に馬の運動を創出することはできないのです。何故なら、ライダーが如何に重心の前後の重量配分を変えようとしても、馬は自らの筋力を以て、その均衡を図ることができるからであります。

 従って、ライダーは、馬のメンタルのコントロールは必要不可欠で、その上で、ライダー自身が要求する馬の運動を、重心及び支持点の相対的位置関係を操作し、コントロールしているのです。

  そこで、ライダーは、重心と支持点の相対的位置関係を操作するが、上記したように、馬の頭頸部が馬体重の20〜30%を占めていることをもって、重心の位置を変え、馬の運動に大きな影響力を行使しているのですが、収縮して支持点の位置を一定に維持されている前提において、ライダーの重心を何処に位置するかは、馬の頭頸部の影響を加減することができるのです。
 馬体重を500kgと仮定すると、馬の頭頸部は20%〜30%ですから約100kg〜150kgということになります。ライダーの体重が50kg〜80kgだとすると、ライダーの体重は馬の頭頸部の約50%前後ありますので、馬の頭頸部が果たしている役割の50%程度の影響力を持つことになるのです。

 ライダーは、自らの姿勢や上体の前傾及び後傾やスティラップへの負重の仕方によって、その重心の位置を自らコントロールすることができます。そして、このことと馬の頭頸部の位置を、重心のコントロールというキーワードにおける相関関係の中でコントロールすれば、馬の動きを自在にコントロールすることの可能性を最大にすることができるのです。

 つまり、ライダーが馬の運動をコントロールするために必要なスキルは、馬のメンタルをコントロールするスキルと、頭頸部と自らの重心の位置をコントロールするスキルと、支持点である4肢の位置をコントロールするスキルなのです。そして、これらのスキルは、全て重心と支持点の相対的位置関係をコントロールするものなのです。

2019年9月18日
著者 土岐田 勘次郎

HOME

ホームへ戻るボタン

Eldorado Ranchへのメール reining@eldorado-ranch.com
TEL 043-445-1007  FAX 043-445-2115

(c)1999-2015. Eldorado Ranch. copyright all rights reserved.
このサイトの
記事、読み物、写真等の無断使用は禁止とさせていただきます。