2019年12月号
2019年の最終稿となるテーマは、馬のストレッチ運動の詳細である。
ストレッチ運動の目的は、馬の重心のコントロール・ムーブメントのコントロール・運動方向のコントロール、主にこの3つの精度を高めるためにあるのです。
重心のコントロールとは、馬のフレーム(姿勢)を形成して馬体を支える4肢、特に後肢と重心との位置関係を操作し、4肢と重心との相関関係をコントロールすることであり、バランスフォーワードとバランスバックの切り替えを自在に行うことです。
ムーブメントのコントロールとは、重心移動に追随してステップするメカニカルムーブメントと、ステップに追随して重心移動するテクニカルムーブメントとの切り替えをコントロールすることです。
そして、運動方向のコントロ−ルとは、運動方向とはステップの方向で構成しているものであるが、ステップの方向と運動方向は必ずしも一致せず、後肢と馬体の縦の中心線に対するステップの角度を一定にした場合、前肢のステップ角が後肢のステップ角より大きければ、前肢のステップ方向と運動方向が一致し、前肢のステップ角が後肢のステップ角より小さければ、前肢のステップ方向と運動方向は逆になるので、前後肢のステップ方向とその角度をコントロールして、その上で運動方向をコントロールすることです。
これら3つのコントロールは、重心をコントロールすることによって、ムーブメントがコントロールされ、特定するムーブメントをコントロールして上で、運動方向をコントロールして馬術の展開できるということです。
例えば、サークル運動におけるスピードコントロールは、バランスフォーワードからバランスバックに切り替えることで達成できるものであり、スピンはバランスバックして前肢への負荷を軽減することで軽快な旋回運動を達成しているものであり、スライディングストップはバランスバックでなければできないパフォーマンスなのです。
そして、この3コントロールの精度を高めるために、馬体の各パーツの柔軟性と可動域の拡大を施すのがストレッチ運動であり、その馬体の各パーツとは、ポール(頭頂)・ネック・ショルダー・前肢・リブケージ(胸郭)・フランク(脾腹)・後肢などのことです。
これらのパーツの柔軟性は、フィジカルとメンタルの要因が複合しているものなのです。何故なら、メンタルが反抗的でもフィジカルの柔軟性が欠けていても馬の反応は硬くなるし、また、フィジカルが柔軟であっても反抗的であれば馬の反応は硬くなり、メンタルが従順でもフィジカルの柔軟性が欠けていてもまた馬の反応は硬くなります。
つまり、馬が柔軟であるためには、従順でフィジカルが柔軟であることが必須要件なのです。
従って、ストレッチ運動する場合において、馬体の各パーツのフィジカルを柔軟にするために施すが、同時にプレッシャーをリリースしながらメンタルの従順性を養成しながらしなければならないのです。
ストレッチは、バランスフォーワードとバランスバックを区別して行う必要がある。しかし、バランスバックの環境で行うことで、バランスフォーワードの環境での動きを改善することも同時にできるが、バランスフォーワードでストレッチを行った場合は、バランスバックでの動きを改善することはできません。
このような理由からバランスバックでストレッチを行えばいいということにはなりません。何故なら、馬によってバランスバックを難なくできるものもあればそうでないものもあるからで、馬にとってバランスバックするのが容易でなかったり、バランスバックを要求したとき落ち着きがなくなったりする場合は、最終的にはバランスバックでストレッチをするにしても、手始めにバランスフォーワードでストレッチを施してからという手順を踏む必要があるのです。
ストレッチ運動は、作用点と支点の2点間または力点を含めた3点間で馬体をベンドさせて行います。そして、各パーツのストレッチをする場合、隣接するパーツを支点として当該パーツを作用点にして行うのです。
そしてストレッチに方向は、垂直方向と水平方向との2方向で行うが、何れも回転モーメント生み出して行います。
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回転モーメントは、作用点と支点の2点にかかるプレッシャーの方向が逆方向であることと同時にパラレルになるようにすることで生まれるのです。
例えば、作用点のビットを垂直方向として真上に引けば、必然的に支点であるシートのプレッシャーは垂直方向として真下へ向かうことになり、この作用点と支点の2つのプレッシャーの方向は逆でパラレルとなり回転モーメントが生まれます。しかし、このときライダーが自分の中心に向かってレインを引けば、支点であるシートプレッシャーは、その逆方向であるもののレインを引いている方向と同一線を示すこととなり、回転モーメントは生まれず直線モーメントとなってしまうのです。
ストレッチは、水平と垂直の2つの方向において、馬の構造的に屈曲できるところをベンドさせて行います。従って、屈曲できないところは意味がありませんし、屈曲できないところを無理してベンドさせようとすれば馬の故障につながります。
馬の頭は、首との付け根で水平と垂直に屈曲できます。そして、頸椎もまた屈曲できます。ショルダーの関節は、垂直方向には動きますが、水平方向には肩胛骨の緩み程度にしか動きません。前肢の関節は、後方へ屈曲する機能のみです。リブケージは、機能として前後左右に動く関節を持っていません。フランクは後肢の前後左右への動きに関連性を持っています。後肢は、股関節はフレキシブルに動く機能を持っており、ホック(飛節)は前方へ、球節は後方へ屈曲するだけの機能を持っています。
以上の馬の構造的機能性を考慮して、ストレッチを行う必要があります。
従って、ストレッチする部分は、ヘッドの付け根・ネック・ショルダー・フランクの4部分です。
馬体のストレッチには、コアとなるものがあるのです。そのコアとなることとは、ネックとショルダーの柔軟性です。それは、垂直水平共にフレーム形成の起点がショルダーだからです。
ショルダーがフレームワークであるコレクション(収縮)と内方姿勢の起点となり、このことでバランスワークの起点となるので、ネックとショルダーの関連動作が柔軟であることが馬術上大きな要因であるのです。
主幹部をネックとショルダーだとすると、附帯部は他のパーツだということになります。
ストレッチに手順は、主幹部から遠いところから始めるのが原則です。何故なら、付帯的パーツの柔軟性が養成された上で主幹部のストレッチを行うことによって、馬のメンタルにもフィジカルにも負担が少なくてすむからです。
ヘッドとネックの付け根は、ショルダーを支点にして、レインを横に引いたり上にピックアップしたりして、ショルダーの前でネックを左右にベンドさせるようにします。このとき馬のフェイスが垂直方向として立っていることが望ましい。
このとき、レインをより後方へ引いて馬のヒップ方向へヘッドを持っていくようにすると同時に後肢を真っ直ぐにステップさせれば、内方のフランクのストレッチとなります。
この運動を直径4〜5mのサークルで行い、ヘッドを内方と外方へ交互に位置させながらネックをベンドさせて行います。
そして、附帯部分が柔軟になって、主幹部のストレッチに入ります。
ショルダーを起点として、レインを真上方向にピックアップしながら両脚で帯道当たりをバンプまたはプッシュをして行います。更に、左右にネックをベンドさせながらこれをすれば柔軟性が養成されます。
このとき、レインを真上にピックアップして、帯道当たりが両脚で真下へ押し上げられるので回転モーメントが生まれ、このことによって後肢がより前に引き込まれます。
以上のストレッチで、バランスとムーブメントが容易にコントロールされるようになるのです。
馬体がフレキシブルであることは、馬のメンタリティとフィジカルのハーモニーであり、バランスに対応して馬は筋力を行使しているので、バランスコントロールできなければビットレスポンスを柔軟にすることはできないのです。
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