Horseman's Column title

    VOL.117「私説 馬術学」

 2020年1月号

 新年明けましておめでとうございます。

 旧年中は、大変なご愛顧を賜り感謝申し上げます。本年も倍旧のご厚情を賜りますようお願いします。

 今年は、東京オリンピックが開催されます。選手のみなさんのご健闘を心よりお祈りします。そして、皆様のご健勝を心よりお祈りします。

 ライダーは、物理的力を以て、馬の背中で馬を動かすことはできない。しかし、ライダーは馬の動きをコントロールしなければ、馬に乗ること自体が成立しないのです。
 それで、ライダーが、馬の動きをコントロールするには、馬のメンタルをコントロールする以外に方法はありませんが、フィジカル的に態勢を構築することによって、メンタルがコントロールしやすくなり、その結果ライダーの要求する動きを実現できるというもので、ライダーが強制力を以てできることは、馬のフレーム(姿勢)を構築することで、このことによって、重心とムーブメントのコントロールを可能にすると同時に馬のメンタルをコントロールして、運動とその方向をコントロールするのです。

 コレクション(Collection  収縮)は、重心の近くに4肢をあつめることです。その重心の真下に4肢をあつめるとは、物体の支持点を重心の真下に位置することによって、物体の重量と支持力を同量にすることになり、最小限の力でそのものを支えることができるということなのです。
 このことをコレクションといい、コレクションの姿勢をとることによって、馬は最小限の力で自らの体重を支えることができることになり、最小限の力で支えることができるということは、その最小限の力で支えることを止めれば、馬は動いてしまうということであり、最小限の力で動くことができるということなのです。つまり、コレクションは、運動の効率化のための姿勢だということができるのです。

 コレクションによって、馬のパフォーマンスが軽快に実現しているのです。

 そして、コレクションを形成するために、ライダーは、ビットとシートまたは脚の2点を作用点と支点とし、これを一対として回転モーメントを生み出して形成しているのです。
 回転モーメントは、2点に掛ける力を逆方向にして且つパラレルにすることによって作ることができるのです。従って、コレクションは、ビットを真上に引き上げることによって、自動的にその逆向きの力がシートまたは脚が真下に力がかかることになり、この2点にかかる力がパラレルになり回転モーメントが生まれて、馬体がコレクションするのです。



 そして、コレクションは、屈撓してショルダーがビルドアップし後肢が踏み込んだ姿勢のことなので、重心の近くに4肢が集まるには、頭頸部・ショルダー・フランクなどの柔軟性が必要で、これらの部位が前後左右に可動域が大きく柔軟である必要があるのです。

 馬体を左側から俯瞰した場合、頭からショルダーにかけて左回転モーメントを作り、ショルダーから臀部にかけて右回転モーメントを作り、この2つの逆向きの回転モーメントでコレクションを作るのです。
 シートを支点にしてビットを真上に引き上げることで、シートは自動的に真下へ力がかかり、馬の頭頸部において左回転モーメントが生まれます。このことに よって頭は真下へ向かいショルダーは真上に向かうことになります。そして、ショルダーが真上に向い、ビットに掛ける力の支点となっているシートは真下へ背 中を押し下げて右回転モーメントが生まれます。

 この2つの左右の回転モーメントによって、馬体をコレクションすることができるのです。


 コレクションを形成するためのコアとなる部位の作用は、ショルダーなのです。何故なら、この2つの逆回転の回転モーメントの分岐点になるのがショルダーだからで、ネックからショルダーには上向きの力がかかり、ショルダーから背中には下向きの力がかかり、頭頸部において左回転モーメント、背部において右回転モーメントが働くのです。



 また、水平方向の馬のフレームでは内方姿勢があります。

 例えば、左内方姿勢の場合、作用点はビットで支点は外方脚となります。このとき、ビットを左方向へ引くことによって馬の頭頸部は左方向へ力がかかり、支点である右外方脚は左方向へ力がかかります。このことで、頭部は左方向へ向かいショルダーは右方向へ向かう左回転モーメント、ショルダーは右方向へ向かい背中は左方向へ向かう右回転モーメントが生まれるのです。
 馬体を真上から俯瞰したとき、頭頸部は左回転モーメント、背部は右回転モーメントの2つの回転モーメントが生まれて、左内方姿勢が形成されるのです。

 垂直方向のコレクションも水平方向の内方姿勢も、ショルダーを分岐点として垂直と水平それぞれ2つの回転モーメントによって形成することができるのです。

 重大なことは、それぞれの回転モーメントの分岐点がショルダーであることなのです。つまり、ネックとショルダーのジョイントの機能が柔軟であることが求められるということなのです。
 一般的に馬術上問題視されるのが後駆や後肢に偏りがちなのですが、ネックとショルダーのジョイントが柔軟であれば、後肢の踏み込みは容易に誘導できるのです。

 上級ライダーは、初級者と比べて馬の推進力があります。しかし、脚を多用しているのは初級の者の方で、上級者が乗るとそれほど脚を強く使っていないのに前進気勢が旺盛になります。
 それは、回転モーメントを上手く使いこなしているからで、一般的に指導者が指摘する脚を使えという指示は間違っているのです。つまり、上級者は、手と脚を連動して馬をコレクションさせて、最小限の力で動ける態勢を作ることができているので、前進気勢を旺盛にできているのです。しかし、初心者は、脚と手は、それぞれが単体で働いていて連動することがないので、回転モーメントができることはなく馬の動きに何ら影響を与えることができないので、前進気勢が旺盛になることはないのです。

 しかし、本当の問題点は、上級者や指導者が、何故自分達は脚を激しく使うことなしに、馬の前肢気勢を旺盛にできているのかその訳を知らないことなのです。

 作用点と支点の2点をパラレルするために、ビットを真上に引き上げさえすれば自動的に作用点と支点の力は逆向きでパラレルになり、回転モーメントを生み出すことができるのです。

 そして、この回転モーメントを、ショルダーを分岐点して水平と垂直方向の2つにすれば、コレクションも内方姿勢も形成することができ、コレクションさせることができれば、運動の効率化ができて小さい力で大きな運動が可能になるので、馬の前進気勢を旺盛することができるのです。

2019年11月24日
著者 土岐田 勘次郎

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