Horseman's Column title

    VOL.121「ポジショニング」

 2020年5月号

 今月のテーマは、ライダーのポジショニングで、平たくいえば何処に座るかであり、ライダーの重心を何処に置くかということです。

 乗馬において、ライダーのポジショニングとは、馬の動きの起点であり、フレームワークのための作用に対する支点なのです。



 馬の重心は、第4肋骨付近にあり、ライダーが騎乗すれば馬とライダーとの合成重心が生まれ、馬が動くということはこの合成重心が動くということであります。
 自転車で二人乗りすると、後ろに乗った人が自転車に乗れる人の場合と乗れない人の場合とは、自転車のハンドル操作がまるで違います。自転車が走るとは、自転車と二人の人との合成重心が動くということであり、この合成重心は自転車と二人の人それぞれに1つずつ3つの重心があって、合成重心が動くときに3つの重心が一体的に動けばハンドル操作は容易なのだが、一体的ではなくてばらばらに動けば、ハンドル操作は、それらの重心の動きに影響を受けるので、ハンドル操作は難しくなるのです。

 馬が動くということは、馬の重心が動くということであり(ものが動いた場合は、必ずそのものの重心が動いているものの、重心が動いてもそのものが必ず動くとは限らない。)、馬の頭と首の重量は馬体重の約15%〜30%を占めるのだそうで、この15%〜30%が人間が走るとき腕を振るような役割を首を降ることで果たしているのです。

 そして馬術は、この15%〜30%にライダーの体重を加えた重量を活用して、馬とライダーとの合成重心の位置をコントロールしたり、頭や4肢と重心の距離をコントロールしたりして、様々なパフォーマンスを実現しているのです。

 従って、ライダーのポジショニングは、間接的に馬の重心移動を促進したり抑制したりすることにおいて重要な役割を果たすことができ、更には、馬の体勢や姿勢を形成するためのフレームワークにも大きな役割を果たすことができる重要なファクターなのです。

 レイニングホースにおいてライダーのポジショニングは、他の馬術と同様にとても重要なファクターで、バランスバックやストレッチ運動などにおいて、そのバランスワークやフレームワークの起点となり、メカニカルやテクニカルのムーヴメントと直線と回転モーメント、そしてその回転の左右をコントロールしているのです。

 レインや脚の操作による作用点に対する支点となるのがライダーのポジションで、そのポジショニングについて、今月は考察してみたいと思います。



 馬のトレーニングにおいて、ファウンデーショントレーニングとして、馬体の可動域の増幅のためのストレッチ、内方姿勢や収縮などの体勢や姿勢を形成するためのフレームワーク、ムーヴメントを決定づけるバランスワークなどがあり、その中で、ライダーは自らのシーティングにおいて、なるべくシートポジションを後ろにしたいと思うものです。
 何故なら、ライダーのポジションの取り方によって、馬の頭の位置や後肢の動きが変わったりするので、ライダーのポジションがとても重要だからなのです。

 しかし、ライダーのポジションをより後ろにしたくても所詮サドルの中の話で、実際上後ろとか前とかがあるはずもないのに、後ろに座れたという実感があり、その実感があるときは馬の反応も良いのです。さすれば、後ろに座るということは一体どういう意味なのだろうか。

 結論は、馬に与えるプレッシャーには方向性があり、そのプレッシャーの方向性が示すラインに対して前後があるということなのです。

 ライダーのポジションが、プレッシャーのラインに対して前後のどちらにあるか、またどの程度後ろなのかによって、馬の動きに大きな影響を与えているということなのです。
 何故なら、運動のモーメントが変わるからなのです。つまり、作用点に対する支点の位置によって、発生する力のモーメントが変わるからなのです。力のモーメントとは、直線または回転を示す運動エネルギーなのかであり、その回転モーメントには左右の二つがあるのです。

 プレッシャーのライン上にライダーのポッジションがあれば、直線モーメントが発生し、プレッシャーのラインの前後のどちらかにライダーのポジションがあれば、回転モーメントが発生して、ライダーのポジションがプレッシャーのラインの前後のどちらかで、その回転が左右のどちらかになるのです。

 そして、レインでプレッシャーを掛けるとき、その作用点に対する支点がライダーのポジションになるのです。そしてその支点の力の方向は、プレッシャーの方向と全く逆となり、力の大きさは全く同じとなり、支点の力の方向の示すラインは、プレッシャーのラインと一致するかパラレルになるかのどちらかなのです。


 重ねていえば、作用点と支点の力の方向は全く逆方向となり、この二つの方向線は一致するかパラレルになるかのどちらかなのです。

 作用点の力の方向が支点へ向かえば、作用点と支点の力の二つの方向線が一致し、作用点の力の方向が支点と違うところへ向かえば、この二つの作用点と支点の力の方向線はパラレルとなるのです。

 つまり、ライダー自身の重心へ向かってレインを引けば、作用点の力がライダーの重心(支点)へ向かうこととなり、必然的に支点の力の方向はライダーの重心から作用点へ向かうこととなり、作用点と支点の力の方向は逆向きでありながら、この二つの力の方向線は全く一致するのです。
 しかし、レインをライダーの重心ではなく真上に向かうように引けば、支点であるライダーの重心の力は真下へ向かい、作用点は上向きで支点は下向きとなってパラレルになるのです。

 ライダーのポジションとは、作用点の方向線に対する相対的位置関係をいうのです。 つまり、ライダーのポジションとは、作用点の力の方向線に対して、支点であるライダーの重心が前後左右の何処に位置するかという問題なのです。
 何故なら、作用点であるレインを引く方向が支点であるライダーの重心に向かえば、作用点と支点の二つの力の方向線は一致するので、このときのライダーのポジションはセンターということになります。
 (支点をライダーの重心と定義しているが、厳密にいえばライダーがサドルに接しているシートが支点となるのです。本稿では、紛らわしいので重心に統一して述べることとする。)



 そして、水平を0°として、レインを引く力が真上に向かえば90°となり、0°から90°へ向かって徐々にこの角度を大きくしていくと、これに従って支点であるライダーの重心の力の方向は、真下の90°に向かって徐々に角度が大きくなっていくのです。

 そして、レインを引く角度がある地点でライダーの重心へ向かうこととなり、これにつれてライダーの重心の力は作用点へ向かうこととなり、作用点と支点の力の方向は全く逆向きになるものの方向線は一致するのです。

 そこでこのことを、ライダーのポジションという観点で見れば、レインを引く作用点の力の角度を最大値90°である真上に向かえば、支点であるライダーの重心の向かう力は真下へ向かい90°の最大値となり、ライダーの重心の力の方向線とレインを引く作用点の力の方向線とがパラレルになるものの一番遠くなるのです。
このことが。ライダーのポジショニングとして、一番後ろに座ったということになるのです。
 また、レインをライダーの重心へ引けば、作用点と支点の力の方向線が一致し、ライダーのポジションはセンターに座ったということになります。
 そして、作用点の力であるレインをライダーの重心より下の方へ引けば、ライダーの重心の力の向かう方向線は、作用点の方向線の上に位置するようになるので、ライダーは前に座ったということになるのです。

 従って、ライダーのポジションは、作用点の力の方向性によって決まり、レインを引く方向が水平のときを0°垂直を90℃とすると、作用点の力がライダーの重心へ向かうとき、センターに位置したこととなり、この角度をA°とすると、作用点の方向線の角度がA°より大きくなるにつれて、ライダーはより後ろに座ったこととなり、A°より小さくなればその分前に座ったこととなるのです。
 また、この作用点の力の方向の角度がA°が回転モーメントの分岐点で、作用点と支点の二つで作る回転モーメントは、A°を分岐点にして、右または左の回転モーメントとなるのです。

 ここでは、作用点と支点の力の方向を垂直方向で、ライダーのポジショニングのメカニズムについて考察していますが、水平方向においても同様で、作用点の方向性が支点の方向性を決定するのであり、脚のプレッシャーの方向性もまた支点となる反対側の脚の位置やライダーのポジションにおいても同じメカニズムが働くのです。

 更に付け加えれば、作用点と支点の力の方向線が一致するとき、作用点と支点の二つの力は直線モーメントとなり、パラレルになれば回転モーメントとなるのです。そして、直線モーメントとなるラインを分岐点として、作用点の力の方向線に対して、ライダーのポジションが前後することによって、発生する回転モーメントが右回転になるか、左回転になるのかが決まるのです。



 ライダーがより後ろに座りたいと思うことは、大きな弧の回転モーメントを発生させて、その効果として馬の前駆と後駆を近づけて収縮させ運動の効率化を図りたいからなのです。

2020年4月13日
著者 土岐田 勘次郎

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