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    VOL.122「馬体のアライメント(Alignment)」


 2020年6月号

 今月のテーマは、馬体の主なパーツであるヘッド(頭)・ショルダー(肩)・ハインドクォーター(後駆)の3つのパーツのアライメントで、そのアライメントとは各パーツの連携した運動のことです。

 人間の赤ちゃんが成長の過程で、最初に大きく手足が動き始めるときは、ばらばらに動くのだそうで、すると一旦手足の動きが少なくなくなる時期があるそうです。そして、再び手足が大きく動き出すのだそうですが、そのときは、左手と右足、右手と左肢が一緒に動くというように、手足の動きが互いに連携して体系化するのだそうです。
 このことをアライメントと云います。

 馬もまた、馬体のパーツが互いに連携して体系的に動いており、このことを無視して馬術は成立しないし、そのためのトレーニングもエクササイズもストレッチ運動も考えることはできないのです。

 馬体の主なパーツをヘッド・ショルダー・ハインドクォーターの3つに区分して、ストレッチでもパフォーマンスでも、これら3つのパーツのアライメントで説明することができ、そして馬の運動を各パーツのアライメントを理解することにより、トレーニングの目的がより明解になり、パフォーマンスのレベルアップも問題点の改善においても、そのためのターゲットが絞りやすく、このことによって馬にとっても学習しやすくなり、トレーニングの成果を飛躍せしめることができるのです。

 この課題に取り組む前提として、馬の運動における4肢の役割は、体重を支えることと推進することです。この二つのことを4肢がイーブンに役割を果たしているわけではなくて、主に前肢が体重を支えて後肢が推進すると云う役割分担をしており、特に駈歩においては、左右のリードがある中で、左リードであれば右後肢、右リードであれば左後肢が主に推進の役割を果たし、両前肢と内方後肢が体重を支える役割を果たしていることを知らなければなりません。

 内方姿勢は、ヘッドとショルダーとハインドクォーターの3つのパーツがサークルの輪線上にある姿勢で(但し、輪線に沿って脊椎が湾曲している図を冊子で見ることがありますが、これは間違いで、脊椎が湾曲することはありません。)、ショルダーとハインドクォーターを直線で結び、その直線のインサイドにヘッドが位置するのです。

 そして、内方姿勢によるサークル運動は、前後肢共に内方肢の外側を外方肢が回って交差して運動しているのです。従って、内方肢と外方肢のステップの方向線が交差するわけで、内方肢と外方肢のステップの方向線は平行ではないのです。
 それは、左右の肢のステップの角度が異なると云うことであり、サークル運動のときは、内方肢のステップ角より外方肢のステップ角が必ず大きく、その差が大きくなればなるほどサークルの直径が小さくなり、その逆で左右のステップ角の差が小さくなればサークルの直径が大きくなるのです。

 内方肢の外側を回って外方肢が交差してサークル運動をするステップの法則を、ステップのコマンドと私は名付けています。

 馬のサークル運動や方向転換などの曲線運動の場合、前肢でも後肢でも左右の肢のステップの方向角度は同じではなく、必ず内方肢より外方肢の方が、ステップ角が大きくなるのです。

 更にまた、サークルの方向は、前肢と後肢のステップ角の差によって決定し、前肢のステップ角が後肢のステップ角より大きければステップの方向に沿ったサークル運動となり、後肢のステップ角の方が大きくなれば、ステップの方向とは逆のサークル運動となるのです。
 例えば、ステップの方向が左であれば、前肢のステップ角が後肢のステップ角より大きければ左サークル運動となり、その逆にステップの方向が左であっても、前肢のステップ角より後肢のステップ角が大きければ右サークル運動となるのです。
 サークル運動しているときの前後肢のステップ角を見てみると、左右も前後も同じではなく平行ではないのです。

 一般的に馬の運動方向は、前肢で行っていると云われていますが、実際は後肢のステップ角が一定であると仮定した場合のことで、この場合前肢のステップ角が大きくなればなるほどサークルの直径が小さくなり、ステップ角が小さくなればなるほどサークルの直径は大きくなり、後肢のステップ角と前肢のステップ角が同じとなれば、サークル運動ではなくなり前後肢が平行移動するハーフパスとなるのです。そして、後肢のステップ角が前肢より大きくなったときサークル運動の方向が逆転するのです。

 内方姿勢でのサークル運動における3つのパーツの位置関係は、前述した通りですが、前後肢共にインサイドステップをしており、そしてその理想型は、外方後肢が内方前肢へ向かうことですが、少なくても外方前肢より内側へ向かって外方後肢がステップしているのです。このことは、外方後肢が遠心力に逆らうように推進の役割をしていて、外方前肢の内側へ向かって外方後肢がステップすることによって、遠心力に逆らうことができているということなのです。
 外方後肢がサークル運動によって発生する遠心力と闘うのは、バイクのコーナーワークのように馬体を倒すことなく運動を継続しようとするためで、転倒防止の役割を担っているのです。

 これらのアライメントが成立していないときは、馬体が傾倒したり推進力の効率が悪くなったりするので内方姿勢の崩れが生じて、この内方姿勢の崩れを解消するときに、どのパーツに問題があるのかを見出して、これを修正するようにトレーニングすることになるのです。

 サークル運動のときに、サークルの軌道が内側へ切れ込んだり馬体が傾倒したりしているとき、ライダーは、サークルの内側へ前肢がステップしたり肩が倒れたりしていると感じてしまうので、内方前肢を脚でプッシュして改善しようとするのですが、この間違いはアラインメントを考慮せずに、感覚的に対応しようとして起きているのです。

 例えば、外方後肢のインサイドステップが良くない場合、外方後肢が外方前肢よりも内側へ向かってステップできるように矯正するトレーニングを施して、内方姿勢の崩れを修正するのです。
 何故、サークルの外方の前肢より後肢をサークルの内側へステップさせようとするかは、理論的には、内方前肢に向けて外方後肢がステップするようにするということなのですが、特別感覚の優れているライダーを除き、普通のライダーにとって対角線を感覚的に捉えることは難しいので、外方前肢に対して外方後肢というように、同じ側の前後肢を結ぶ線は初心者でも特定しやすいので、このように実践に即することを狙って記述しているのです。

 サークル運動のアライメントは、サークルの輪線上にヘッドとショルダーとハインドクォーターが位置して、前後肢共にインサイドステップしており、外方後肢が最低限外方前肢の内側へステップすることが必要なのです。このことで、運動エネルギーが外方後肢から内方前肢へ向かうように、馬体の対角線上(4肢を結ぶ線で構成する長方形の対角線)を通るようになるからなのです。そして、馬体の対角線上を運動エネルギーが通過することで、運動エネルギーが第4肋骨付近にある馬の重心を通過することになるのです。
 そして、馬体の対角線上を運動エネルギーが通過する本来の目的は、重心を通過することなのです。それは、馬が斜対速歩や斜対駈歩である理由にもなっており、運動エネルギーが重心を通過するためなのです。

 運動エネルギーが重心を通過することは、最小限の力でものが動くための合理的システムで、馬は体の対角線上を運動エネルギーが通ることで、馬体の重心を運動エネルギーが通過できるので、無駄な力を使うことなく馬体を動かす合理的方法を進化の過程で取得しており、脊椎の柔軟性を失って進化した馬ならではの特性だといえるのです。

 因みに、駱駝やキリンは側対歩ですので、重心上を運動エネルギーが通過しないので、馬よりも走ることにおいて体力を消耗しやすいのです。その点においても馬は、駱駝やキリンよりも高等な動物だとされているのです。

 つまり、脊椎が柔軟でないために、脊椎の柔軟性を駆使して重心を動かし運動エネルギーの線上へ移動させることができないので、運動エネルギーが馬体の対角線上を通ることにより、対角線上にある重心を運動エネルギーが通過するようにしているのです。
 厳密にいえば、馬の重心は4肢を結ぶ長方形の対角線上にあるわけではありませんが、その近くに位置するのです。馬術の世界において、二蹄跡運動が考案されたのは、以上の理由からなのです。
 肉食動物の犬や猫は、脊椎が柔軟なので運動エネルギーの線上に重心を移動させながら走ることができるのです。肉食動物は、脊椎が柔軟なのであらゆる運動において筋肉を駆使しているので、体力の消耗が馬と比べて甚だ激しく、速く走れますが長くは走れないのです。

 そして、チェンジリードは、馬体の対角線上を通っている運動エネルギーを反対側のもう一方の対角線上を通るように変換することなのです。つまり、運動エネルギーの方向変換なのです。

 例えば、左リードから右リードへチェンジリードする場合は、運動エネルギーが右外方後肢から左内方前肢へ向かう対角線上を通り左リードで走行しているので、これを右リードへチェンジリードする場合は、左外方後肢から右内方前肢へ向かう対角線上を運動エネルギーが通るように変換するということになります。

 それは、左リードの場合、右外方後肢から左内方前肢へ向かう対角線上を運動エネルギーが通っており、このために少なくても右外方後肢が右外方前肢より左内側へ向かってステップすることが必要で、これを右リードへチェンジする場合は、左後肢がそれまで左前肢の左内側へステップしていたのを、少なくても左前肢より右側へ向かってステップするように切り替えて、もう一方の対角線上を運動エネルギーが通るようにしているのです。

 リードチェンジに必要とする馬の能力は、後肢が、同じ側の前肢の位置を越えて馬体の外側から内側へステップできるものなのです。
 従って、左リードは、馬体の左前肢と後肢とを結ぶ測線を境界線として馬体の外側と内側とに区分すれば、右後肢が右前肢を越えて内側へステップしていて、これを右リードへチェンジリードする場合、左後肢が左前肢を越えて左内側へステップするようにするもので、走行時において同じ側の後肢と前肢の位置関係を逆転する能力が必要なのです。

 これらが、左右のサークル運動と左から右、右から左へのチェンジリードにおけるアライメントなのです。

 スピンのアライメントは、原則的にドリフトのステップで、前肢はインサイドステップ、後肢はアウトサイドステップをしていると云うものなのです。

 馬が軽快にスピンするためには、バランスバックしていることが必須で、馬は自然体では体重の60%を超える重量を前肢に負重しており、このままでは前肢への負重が大きいため軽快にスピンできないのです。
 そのために、後肢への負重の割合を大きくして前肢の負担を軽減する必要があるのです。
 そこで、内方後肢を馬体の下へ踏み込ませて、体重を支えるようにしておく必要があり、自然体での立ち位置おける内方後肢の位置から馬体の真下へ踏み込ませることは、アウトサイドステップになるのです。そして、内方後肢で体重を支えることができることで、外方後肢が体重を支える役割が小さくなるので、その分推進力を発揮することができ、その推進力を前肢がインサイドステップすることによって、外方後肢が作った推進エネルギーの方向を制御してスピンの回転運動としているのです。

 従って、スピンに要する馬の能力は、内方後肢へのバランスバックと前肢のサイドステップとなります。その中で最も優先する能力は、内方後肢のアウトサイドステップする能力で、内方後肢が内方前肢の位置を越えてアウトサイドステップする能力は、内方前肢がインサイドステップしているときにアウトサイドステップするわけですので、フランク(Flank 脾腹:腿の付け根の脇腹)とショルダーの柔軟性が必要なのです。特にフランクの柔軟性は重要です。
 ※この場合のアウトサイドとインサイドとは、回転方向と同じ方向をインサイド、反対方向をアウトサイドという意味です。

 多くのスピンに対する誤解は、前後肢共にインサイドステップしていると理解していることなのです。もし、内方後肢がインサイドステップしていれば、内方後肢で体重を支えることができず、インサイドステップして馬体の下へステップしている外方後肢が体重を支えることになり、外方後肢は体重を支えることと同時に推進力発揮しなくてはならなくなって、結局軽快なスピンができなくなってしまうのです。

 また、内方後肢のアウトサイドステップは、スピンのキーステーションなので、内方後肢による体重の充分な負重により、外方後肢と両前肢への負担軽減を成し、推進力と運動方向の制御を成立させているといっても過言ではないのです。

 ここで一つ問題があります、それはスピンとサークルの運歩は同じだと云う節があって、サークル運動が前後肢共にインサイドステップであれば、スピンの運歩とは矛盾することになります。しかし、サークルの駈歩の場合、外方後肢が主に推進して、両前肢と内方後肢が体重を支えているのだそうで、もし内方後肢がインサイドステップしていると体重を支えることが充分でなくなり、その分外方前肢の推進力が損なわれるという理屈になるのです。

 そこで、私は仮説として言いたいことは、内方後肢のインサイドステップの角度は、内方前肢のインサイドステップの角度より小さい角度なので、内方前肢の位置に対してより馬体の下に踏み込むことになり、体重を支えているのではないかと云うことです。
 つまり、内方前肢を起点として考えれば、内方後肢はアウトサイドステップしていると云うことができて、スピンの運歩と矛盾しなくなると云うことです。

 私の経験では、サークル運動の走行時おいて推進力が弱かったり外方後肢のインサイドステップが良好でなかったりする馬のとき、内方後肢のアウトサイドステップをトレーニングして、内方後肢による体重の負重を改善することによって、外方後肢のインサイドステップや推進力の問題を解決できたことがあります。

 レイニングホースのパフォーマンスやストレッチ運動やエクササイズなどにおける馬体の各パーツ同士のアライメントを理解することは、レベルアップする場合でも問題の解決や改善を図る場合においても欠かせないことなのです。

2020年5月18日
著者 土岐田 勘次郎

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