Horseman's Column title

    VOL.125「馬の抵抗 Reaction」


 2020年9月号

 今月は、ビットコンタクトに対する抵抗について考察してみたいと思う。

 ライダーが馬をコントロールするためにビットコンタクトをしたとき、幾ばくかの抵抗を感じる。
 勿論抵抗は、ビットだけではなくて脚やシートなどの馬に与えるプレッシャーに対しての反動としてあるのであるが、その抵抗の正体について考えてみたいと思うのである。

 抵抗は、フィジカルとメンタルとバランスの3要素が考えられる。

 フィジカルは、柔軟性や可動域の問題である。
 柔軟性や可動域が乏しければ、当然ライダーから受けるプレッシャーに対して、抵抗なく反応することはできないので、ライダーは抵抗を感じるのである。

 メンタルは、精神性や能力である。ライダーの要求が理解できない場合や反応できる能力がない場合や冷静さを欠くような精神状態にあるときは、抵抗なく反応することはできないのである。

 バランスは、ライダーの要求を理解したり反応できたりする能力があったとしても、重心の位置する場所によっては軽快に反応することができないので、ライダーはプレッシャーを与えている接触面で馬の抵抗を感じることになるのである。
 例えば、前肢を動かすように要求したとしても、前肢よりに重心があれば当然前肢の動きが軽快ではなくなるので、その分ライダーは抵抗を感じることになるのである。

 さて、フィジカルとメンタルに問題がないと仮定した場合、バランスの問題でライダーは馬の抵抗を感じることになるのである。
 然らば、馬の抵抗と重心の相関関係について考えてみたいと思う。

 バランスと馬の抵抗との相関関係は、後肢の着地位置と重心の位置関係で決まるのである。

 馬の重心は、第4肋骨付近にあるので、馬は前肢:後肢の体重配分は6対4である。勿論個体差があるので、この割合が絶対値ではないが、大凡馬はこの割合で体重配分をしているのである。

 従って、前肢への体重配分の割合が大きいので、ビットプレッシャーには抵抗が物理的に発生するのである。従って、後肢の着地位置が重心に近づけば近づくほど前肢への加重が軽減されることになって、これに伴いビットプレッシャーに抵抗する物理的要因が減退することになるのである。

 収縮は、重心の真下に全肢が位置することをいうのである。

 馬は、4肢で体重を支えている。

 重心と4肢の位置関係、つまり重心と4肢の距離は、この距離が遠ければ遠いほど4肢の支持力が大きくなり、これに比例してビットプレッシャーに対する物理的抵抗力は大きくなるのである。支持力が大きくなれば、馬体は安定して、安定すると動き難くなるということであり、動き難いわけだからビットに対して抵抗が大きいことになるのである。
 これに対して、重心と4肢に位置が近づけば近づくほど、4肢の支持力は低下する。重心と4肢が近づけば、支持力が小さくなるので安定性を欠くことになり動きやすくなるので、ビットプレッシャーに対する物理的抵抗力は小さくなるのである。

 収縮を球体に準えることがある。

 球体は、支持点が1点なのであり、その支持点は重心の真下に位置するのである。例えば、1tの球体の場合、支持点における支持力が同量の1tになり、理論上は、1tの球体に1gの力を横から加えれば球体はバランスを崩し動くという理屈になる。
 つまり、この球体が馬だと仮定すれば、たった1gの力でも1tの球体を動かせるわけだから、馬の4肢が重心の真下に位置すれば、1gのビットプレッシャーでも馬は動くことになり、物理的抵抗力はほぼ0に近いというものだ。

 重心と後肢の着地点との距離における相関関係は、距離が大きくなれば支持力が大きくなって動き難くなり、小さくなれば支持力は小さくなって動きやすくなるのである。

 つまり、重心と後肢の着地点の距離が大きくなれば動き難くなって、その分ビットプレッシャーに対する抵抗は大きくなり、距離が小さくなれば動きやすくなって、その分ビットプレッシャーに対する抵抗が小さくなるのである。

 ビットプレッシャーに対する物理的抵抗力は、重心と後肢の着地点との距離に比例するのである。

 ビットや脚などのライダーのプレッシャーに対する馬の抵抗は、以上のように単純ではないと思うが一つの考察として、フィジカルとメンタルの要因を無視すれば、以上の正当性も充分考えられるのではないだろうか。

 そしてまた、フィジカルとメンタルの二つの要素もまた重心と4肢の着地位置との距離に起因することも大きいのではないだろうか。

 アンバランスによる抵抗の発生がメンタルに及ぶことも、フィジカル的硬直も発生させている要因も侮ってはならないのではないだろうか。

2020年8月24日
著者 土岐田 勘次郎

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