Horseman's Column title

VOL.127「ビットプレッシャーに対する抵抗」


 2020年11月号

 今月のテーマは、ビットプレッシャーに対する馬の抵抗である。

 ビットプレッシャーに対する抵抗には、フィジカル的要素とメンタル的要素の二つに分けて考えることができる。
 この二つの要素を具体的に表現すれば、フィジカル的要素とは、馬体の柔軟性とバランス(重心の位置)である。メンタル的要素とは、ビットプレッシャーに対する反抗であり、簡単にいえば口角の感覚が鈍くなってしまっているかどうかということだ。(実際には、健常な馬に感覚神経が麻痺しているということはなく、プレッシャーを無視や反抗しているということである。)

 フィジカルの柔軟性は、関節の可動性である。関節の可動性とは、動きがスムースであるか、また大きく動けるかという問題である。
 ビットプレッシャーに対しての反応が硬いのは、馬のメンタルが反抗したり混乱していたり無視したりしているということで、馬が故障していない限りにおいて感覚が麻痺している可能性は考えられないのである。

 馬のストレッチ運動によって柔軟性を養成しようとするとき、フィジカルとメンタルの両面を意識して行う必要がある。そして、フィジカルが柔軟でもメンタルが反抗的であれば、馬の反応は硬い。また、メンタルが従順であってもフィジカルが柔軟でなければ馬の反応は硬いのである。

 つまり、馬が柔軟に反応するときは、フィジカルもメンタルも共に柔軟で従順でなければならないのである。

 ビットプレッシャーにジャークという使い方がある。これはビットプレッシャーを瞬間的に与える方法である。ジャークは、馬のメンタルの従順性を求める方法であり、俗っぽくいえば、馬の口を柔らかくする役割しか果たしていないと考えられるのである。
 瞬間的プレッシャーは、継続している運動を急激に抑制するということだ。

 継続している運動が急激にブレーキを掛けられ、瞬間的にフィジカルは緊張するので、フィジカル的に硬くなると考えるのが自然である。一方でメンタルは、急激な制動が訪れれば、予想していない制動が訪れるので、その制動に何時でも対処できるようにしようという精神状態となる。
 つまり、ライダーにコンセントレーションする意識が強くなるということである。そして、一定方向の反応をしたときに一貫して与えられているプレッシャーから解放(リリース)されれば、瞬間的プレッシャーに素速く反応しようとし、且つリリースされる方向を能動的に探し出して、要求される反応を示すようになるのである。
 つまり、このことで馬のメンタルが従順になり、素速く反応できるようにコンセントレーションするということに繋がるというメカニズムである。

 そして、メンタルには理解と反射があり、理解はある程度の時間が必要であり、理解できるまではプレッシャーに対する不安が増幅するという特性があり、理解を求める要求と反射的に反応を求めるものとを区別する必要があるのである。
 例えば、サドルブレーキングのようなものを、理解を求めるように時間をかければ、時間をかけている間に不安が増大して大きな反抗を生んでしまうのである。これに対し、気が付いたら背中に人が乗っていて、その結果人を乗せることは危険をもたらすものではないという理解をするというのがいい方法なのである。
 一方、スピンやストップのようなものは、時間をかけて一歩一歩理解しながら学習することが良い方法なのである。

 従って、瞬間的プレッシャーは、馬のメンタルに対する効果があり、コンセントレーションと従順性を養成する効果があると考えられる。一方、フィジカルには緊張を与えることとなるので、フィジカルの柔軟性を養成する効果は乏しいと考えられるのである。

 フィジカルの柔軟性は、スムースな動きと可動域の拡大によって養成するものである。

 従って、ストレッチの効果を考える場合、ゆっくりとプレッシャーを与えて、馬体をツィストさせスムースな動きと可動域の拡大を養成することが重要なのである。その上で、ビットプレッシャーに対する反応が硬ければ、ジャークしてビットプレッシャーそのものに対する反応の柔軟性を求める必要があるのである。

 多くのライダーがストレッチをして、却って馬を硬くしたり抵抗を作ってしまったりするのは、メンタルとフィジカルのそれぞれに適応した柔軟性を求めるプレッシャーのかけ方を理解していないためなのである。

 つまり、フィジカルの柔軟性が欠けているのに、ビットをジャークばかりしていたり、フィジカルが柔軟であるにも関わらず反抗しているのにレインをゆっくりしか引いていなかったりして、ちぐはぐな方法をしていても馬は柔らかくはならないのである。

 フィジカルの柔軟性は、関節のスムースな動きと可動域の拡大によって養成されるのであるが、先ず、スムースな動きを養成して後に可動域の拡大を図り、再びスムースな動きを養成して更に可動域の拡大を図るように、スムース→拡大→スムース→拡大というように、手順を追ってフィジカルの柔軟性を養成する必要がある。この手順を怠って、可動域の拡大をスムースな動きを養成せずに行えば、故障や反抗の原因になるのである。

 そこで、フィジカルの柔軟性を求めるためには、ゆっくりとしたプレッシャーが必須で、瞬間的にプレッシャーを掛ければ、筋肉や腱や靱帯などは緊張して、スムースな動きは欠如し大きな可動域も望めなくなってしまうので、馬がリラックスしていることはとても重要なことなのである。

2020年10月16日
著者 土岐田 勘次郎

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