2021年5月号
ライダーは、馬をコントロールするためにレインハンドやシートや脚でプレッシャーを掛け、そのプレッシャーに対して馬が譲歩することがライダーの要求に従うことであり、馬がライダーによるプレッシャーに対して譲歩しなければ、抵抗であり反抗をするということである。
学習は、複数の事柄を関連付けることにある。
例えば、一つのシグナルがあって、その直後に同じ現象が何回も起きれば、シグナルと現象を関連付けて、記憶するのである。
馬の学習もまた同様で、何らかのシグナルの直後に何らかの反応を強制されれば、シグナルと強制された反応を関連付けるようになるのである。
馬がライダーの要求に応えることは、ライダーから受けるプレッシャーを受け入れることであり、プレッシャーのベクトルと同じ方向の動きを馬がしたとき、馬がプレッシャーに対して譲歩したということであり、プレッシャーのベクトルと違った方向の動きを馬がしたときは抵抗したということであり、ライダーの要求に譲歩しなかったということなのである。
ライダーが馬にかけるプレッシャーは、馬に対して強制力を持ち、合図(Cueing キューイング)は、強制力のない要求で、キューイングの直後にプレッシャーを受ければ、この二つを関連付けて学習し、馬はキューイングを認知するとプレッシャーを受けることなしに反応するようになるのである。
つまり、ネックレインといわれるように、馬の外方のネックにレインをタッチして、少しのタイムラグの後に内方へ馬を引っ張るプレッシャーを掛ければ、ネックへのレインタッチがキューイングとなり、馬はその直後のプレッシャーを予測して、スピンをスタートしたり内方へ動いたりするのを学習して反応するのである。
つまり、これらの馬の反応は、ライダーに対する譲歩を予測していることなのである。
従って、ライダーは、馬に対しあらゆる要求を、プレッシャーを掛ける直前に、プレッシャーの接触点においてレインでも脚でもタッチしてからにしなければならないのである。
因みに、タッチの定義は、プレッシャーを掛けずに馬体と接触することである。
キューイングして、その直後に強制力であるプレッシャーを掛けるようにすれば、馬はキューイングを認知したときに、強制力であるプレッシャーを予測できるので、プレッシャーを掛けられる前に反応するようになるのである。
このことが馬の「譲歩の予測」なのである。
この「譲歩の予測」は、ライダーの馬に対する要求の全てにおいて行う必要がある。
例えば、スピンやロールバックなどの運動だけではなくて、屈撓や収縮などのフレームワークでも、これを活用することで、ライダーは馬に対して強制力を発揮しなくても、馬の能動性を活用して、馬をコントロールすることができるのである。
例えば、馬の首をサイドベンドさせる場合、一旦レインを使ってビットがあたるところで止め(タッチ)、その直後にレインを横へ引けば、ビットタッチしたところで、馬は横へ引かれるのを予測して首を曲げるようになるのである。屈撓もまた同様に、左右両方のレインをピックアップしてビットタッチし、その直後にレインをもっと引き上げるようにすれば、ビットタッチすると馬はやがて屈撓するようになるのである。
云うまでもないことであるが、プレッシャーをかけ、強制力を発揮したときに、馬がこれに従う反応示したときに、掛けていたプレッシャーリリースすることが重要である。
何故なら、強制力の後にその要求に馬が応えたとき、プレッシャーをリリースすれば、馬はどのような反応をすればそのプレッシャーから解放されることを学習するからである。
以上のように、タッチしてからプレッシャーを掛けるようにすることで、タッチを求められる反応のためのシグナルとして認識するのである。そして、その要求する反応を示したときに、そのプレッシャーから解放されれば、やがて馬はシグナルだけで要求される動きを予測して反応するのである。
プレッシャーに対して、そのプレッシャーの方向と一致した動きは、馬にとってライダーへの譲歩であり、一致しない方向の動きは抵抗であり反抗なのである。
タッチアンドプレッシャーは、馬のライダーに対する譲歩を予測させるシステムなのである。
この「譲歩の予測」のシステムは、馬の能動性を引き出すシステムであり、馬が絶えずライダーの要求にどのように応えるべきかを模索するメンタルを養成するものであり、ライダーと馬との好ましい関係性を構築するものなのである。
そして、「譲歩の予測」は、ライダーの馬に対するキューイングを成立させるファクターなのである。
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