Horseman's Column title

VOL.135「スピードコントロール」


2021年7月号

 今月のテーマは、レイニングの花形パフォーマンスといえるサークリングにおけるスピードコントロールである。

 スピードコントロールは、バランスワークであり馬の前進気勢の増減によって行うことで、その前進気勢は、支持力の増減と重力の増減、またはその両方によって成されるものである。

 支持力の増減は、重心と馬体を支える4肢との位置関係によるところで、重心が前肢により近づけば前方への支持力が減退して(後方への支持力が増大)、後肢により近づけば後方への支持力が減退(前方への支持力増大)するのである。
 支持力と前進気勢は反比例するから、重心が前肢へ近づけば前方への支持力が減退するので、前進気勢が増幅し後進気勢は減退して、後肢へ近づけば後方への支持力が減退するので、前進気勢は減退し後進気勢が増幅するのである。

 重量は、馬とライダーの体重を合計したもので、この重量に筋力がプラスされて運動エネルギー化したものが重力であり、その重力の増減は、後肢の筋力によるところで、後肢の筋力を多用すれば重力が増幅して前進や後進の気勢が増幅し、後肢の筋力行使を少なくすれば重力は小さくなって前進躍進の気勢は減退するのである。

 スピードアップは、馬の首を伸展させて重心を前肢へより近づけて前方への支持力を減退させ、同時に後肢の筋力を多用して重力を増幅させて、前進気勢を増幅させることによって行うものである。

 スローダウンは、首を屈曲させたり後肢の踏み込みを深くしたりして、重心を前肢から遠ざけて後方へ移行し、前方への支持力を増幅させ同時に後肢の筋力行使を少なくして前進気勢を減退させることによって行うのである。

 サークリングにおけるスピードアップは、ライダーが前傾してバランスフォアを促進したり、馬が首を伸展させるタイミングで脚をリズミカルに使ってバランスフォアを促進したりして(脚はサンライズへ移行するときに脚が入る。)、このときは後肢への体重の負重が軽減されている態勢にあり筋力行使がし易いので、脚やシートのプッシュアップにより活発に後肢の筋力行使をさせて前進気勢を旺盛にして行うものである。

 そしてスローダウンは、スピードアップしたことと逆のことで、前進気勢を減退させるために、ライダーは前傾姿勢から上体を起こしてシートバックし、後肢を深く踏み込ませて重心を前肢から遠ざけて後方へ移行し、前肢の支持力を増幅し、また後肢の筋力行使を小さくするためにライダーは身体の力を抜きリラックスして、馬の緊張を解しシートや脚のプレッシャーを弱くするのである。

 これらの力学的フィジカルコントロールの前提は、ライダーと馬との関係性で、その関係性は、馬はライダーに対して従順でコンセントレーションしていることで、その状態においてライダーが馬に対してイニシアティヴをとっていることなのである。

 何故なら、重心と4肢の位置関係によって前進気勢の増減が生まれるのである。しかし、ライダーは、前進気勢の増減を、強制力を以てコントロールすることができるが、その生まれた前進気勢を発揮するかどうかの点において、ライダーは馬に対して強制力を持たないからなのである。
 つまり、ライダーが強制力を以て前進気勢を旺盛にしていても、馬は停止したままでいることができ、馬が実際に動くためには、馬の意思によってグランドと4肢の間で作用反作用の作用を起こさなければ動くことはないので、ライダーが馬に対してイニシアティヴを持ったメンタルにおける関係性の中で、刺激を与え旺盛になった前進気勢を発揮することとなるのである。

 つまり、ライダーの指示によって馬が動くかどうかは、馬がライダーに対して従順でコンセントレーションしていることが必須要件なのである。

 しかし、これらのフィジカル的要件を考慮せずに、馬のメンタルトレーニングのみでスピードコントロールをティーチングしたとしても、ショーペンは、馬のメンタルにとって極限状態に緊張する環境ともいえるので、フィジカルとメンタルを連携してスピードコントロールをトレーニングしていることが重要で、馬が緊張している状態にあっても、ライダーの要求により重心と4肢の位置関係を馬のフィジカルが反応するようにしておくことは、極めて重要なのである。

2021年6月4日
著者 土岐田 勘次郎

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