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    VOL.14 「ステップとバランス」 

                                                 

 2011年6月号

 今月は、少しロジックに馬の運動についてテーマにしてみたいと思う。

 私の知る限り、重心と馬のステップとを関連付けて考えることは、これまで多くの馬術家といわれる専門家の間では、あまり取り上げてこられなかったように思う。

 私はこれまで、馬に乗るということは、馬の背中に乗って馬をコントロールすることで、背中に乗ってその座しているものをコントロールするということは、作用と反作用の物理的作用を以てすることは、座っているイスを持ち上げることができないように、できないということをこれまで何度となく繰り返し唱えてきた。

 従って、ライダーと馬とのコミュニケーションによって、馬をコントロールする以外にないという論理を展開してきたのである。しかし、何らかの物理的作用が全くなければ、そのコミュニケーションも大変難しいことになり、重心とステップとの関係性を理解することによって、重心のアンバランスを作り出すことによって、馬に対して物理的作用をすることが可能になり、ライダーの指示をパワーとして馬に影響を与えることができるので、馬が理解しやすくなり学習しやすくなるのである。
 重心とステップとの関係性は、人が馬に乗ってコントロールする上で欠かすことができない重要な要素だというところに行き着いたのである。

 物体が停止している状態は、その重心が支点で支える力によって均衡状態を維持しているときで、物体が支点に支えられてバランスがとれているときなのである。 
 また、物体が動くということは、重心を支える支点の力がバランスを失って、バランスを保とういう働きを以て、重心が移動しているときなのである。
 このメカニズムは馬であっても同じで、馬が運動するということは、重心のバランスが不安定と安定を繰り返していることなのである。

 只、このバランスの安定と不安定を繰り返して運動しているのを、二つに区分することができて、重心がバランスを失うことには変わりがないものの初動作において、重心の移動が先に起きて運動する場合と、運動が先に起きてその運動に伴って重心移動が起きる場合とがある。
 重心移動が先に起きるとは、重心がアンバランスになって、それに伴い運動が起きる。つまり、アンバランスになった重心のバランスを、保とうとステップするということである。
 また運動が先に起きるとは、ステップするのに伴って重心移動が起きるということで、重心が負重していない肢をステップした後に、もう一方の負重している方の足の力で、重心をステップした肢へ負重するように働くということである。
 運動を、重心を視点に解説すると以上ようになるのである。

 また一方で、ステップを視点にして解説すると、以下のようになるのである。
 馬は、主に頭の位置を下げたり上げたり左右に振ったりして、重心の位置を変えている。
 馬の運動には、主に頭の位置を変化させることによって重心の位置を変化させてアンバランスを作り、そのアンバランスをバランス状態へと変化させるためにステップする場合と、ステップすることによって重心を移動させる場合とがある。

 初動作が重心バランスを崩した後に、安定させるためにステップする運動を、メカニカルムーブメントといい、初動作がステップをした後に、重心移動を起こす運動を、テクニカルムーブメントというのである。
 メカニカルムーブメントの場合は、引力の作用を利用しているので筋肉運動の割合が小さくなる特徴を持ち、人間が走るときに腕を振るのと同じで、馬は主に頭を振ってその作用をしているのである。
 テクニカルムーブメントは、初動作において主に筋肉運動が主体となって運動するので、発汗や疲労し易く、またその時々の体調や精神面のコンディションの影響も受けやすい、一方で意図的に運動をコントロールしやすい特徴を持つのである。

 例えば、馬のサイドステップで見てみると、進行方向の外側(反対側)に頭を位置してサイドステップする場合は、重心が進行方向の内側に位置するので、重心のアンバランスが初動作で起きてからステップするメカニカルムーブメントとなり、トレーニングの浅い馬でも簡単にできる。
 この場合は、馬の頭を進行方向の外側へ置くことによって、重心が進行方向の内側方向へアンバランスとなるので、そのアンバランスを安定させるためにインサイドステップをする。 このように、ステップすることに物理的必然性があるので、馬にとっては容易にサイドステップすることができるのである。できるというよりもせざるを得ないといった方が、当を得た表現である。





 一方、馬の頭を進行方向の内側(同じ側)へ置いてサイドステップする場合は、重心が進行方向の外側にあるので、肢の筋肉運動によって重心を持ち上げて進行方向へと移動してサイドステップするので、馬が筋肉運動を意図しなければできない運動なので、物理的必然性がないのでトレーニングを積んだ馬でなければ容易にできないのである。
 馬の運動は、メカニカルとテクニカルムーブメントをはっきり区分して行っているわけではなくて、そのどちらかのムーブメントが初動作や主体的に作用しているかが違うということである。

 馬をトレーニングする場合、ステップと重心とのリレーションシップを意識して行う必要があり、それはスピンにしてもスライディングストップのランダウンのときやバックアップなどの運動において、重心移動を先に起こしてステップをさせる場合と、ステップをさせてから重心移動を起こす場合とを考慮してトレーニングすることが重要なのである。

 例えば、サークル運動のときに、馬の肩が倒れるということが良くある。
 この場合、馬の頭がサークルの外側に位置することが多いが、馬の重心がサークルの内側へバランスを崩し、そのアンバランスを安定させるためにステップをしているのである。
 この症状を治すためには、初動作においてステップを起こしてから重心移動が起きるようにしなければならないので、頭の位置をサークルの内方へそして外方後肢をステップインするように、つまり内方姿勢を馬のフレームとして作り、外方後肢から内方前肢へ向かって前進エナジーが働くようにして、外方後肢がサークル運動による遠心力と充分対抗できるステップをすることによって、肩が倒れる症状を克服することができるのである。

 スライディングストップのときのランダウンで、馬のメンタルがエキサイトして、馬が勝手に速いスピードになってしまったり、ストライドが伸びずにステップが小刻みなったりしているのをよく見かけるが、これはメカニカルムーブメントになってしまっているということだから、エキサイトしているメンタルをリラックスさせるだけでは直すことはできないのである。
 この場合、テクニカルムーブメントによるステップに修復しなければならなく、そのためには、ステップをしてから重心移動が起きる循環にしなければならない。

 これを修復するためには、準備運動において先ずテクニカルムーブメントで運動するように、後肢の踏み込みを深くすると共に、ビットに対する抵抗を徹底的に取り除くことをしなければならない。
 またバックアップをして、後肢の踏み込みを深くするにも、ステップしてから重心移動が起きるテクニカルムーブメントで行うようにすることが必要で、ヘッドアップしてバックアップしていると、バランスバックが起きてそれを支えるようにステップするので、メカニカルムーブメントになってしまうので修正することができない。

 メカニカルムーブメントでバックアップすると、馬はヒップラインより後方へ後肢をステップしてバックアップするようになるし、テクニカルムーブメントでバックアップすると、後肢を馬体の下に滑り込ませるようにステップしてバックアップするのである。

 馬のトレーニングは、概念としてテクニカルムーブメントができるように訓練することであると考えることができ、そのためにメカニカルムーブメントの運動を活用するということがいえる。

 それは、メカニカルムーブメントによる運動は、馬の意思や熟練度に関わらずそのような重心のバランス、アンバランスの状態さえ作れれば、求める運動をすることが可能なので、この時に求める運動が起きたときに、馬にリリースを与えて馬が学習するようにして、その学習の後にテクニカルムーブメントを求めるようにトレーニングすることによって、意図的に求める運動を馬ができるようになるのである。

 これまで多くの乗馬の専門家といわれる人が、重心と運動との関連性を重要視して馬の運動を考えてこなかったが、私は馬がライダーの意思を繁栄した反応を起こすためには、馬自身が意図的にフィジカルをコントロールできなければならないわけで、そのためにはテクニカルムーブメントができるように、訓練する必要があると考える。
 つまり、重心の移動とステップとの関係を考慮して、馬のトレーニングをすることは極めて最優先する重要な要素なのである。





                  2011年5月27日

                  著者 土岐田 勘次郎


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