Horseman's Column title

VOL.140「チェンジリード」


2021年12月号

今年最後のコラムである。
 1年間のご愛読に感謝申し上げ、来年もまた本年同様よろしくお願い致します。

 さて、今年最後のテーマは、「チェンジリード」である。

 チェンジリードの本質は、運動エネルギーのベクトルを変換することにあり、このテーマは馬の運動法則に関わる問題なのである。
 特別なトレーニングを施した側対歩を除き、馬は斜対歩をしている動物なのである。

 斜対歩とは、斜対速歩や斜対駈歩のことで、後肢から対角の前肢へと向かう対角線上を運動エネルギーが通る運動機能のことで、肉食獣であるチータや犬や猫などの肉食獣と全く異なる運動機能を、馬は持っているのである。

 馬は、脊椎の柔軟性を失うように進化していて、筋力の行使を最小限にして運動しているエコな動物なのである。
 一方チータや犬や猫は、脊椎が柔軟で背筋を活用させ運動していて、直進性と瞬発力を可能にして獲物を捕らえているのである。しかし、筋力の行使は体力を消耗するので長い時間を走ることはできないのである。犬や猫が休息するとき直ぐに寝転ぶのは、立っているだけで脊椎が柔軟なために背筋力を行使していて体力を消耗するので、寝転んで背筋を休めたいからなのである。

 馬は、脊椎の柔軟性を失っているので、背筋力の行使があまり必要ではなく体力を消耗しないので、立ったまま寝ることさえできるのである。

 さて、ものが動くとは重心が動くことであり、運動エネルギーが重心を通過することは、最小限の力でものが動けるということであり、綱引きなどで人が体勢を低くするとのは、運動エネルギーのベクトル上に自らの重心を置きたいからで、運動エネルギーが重心を通らなければ、力のロスが生まれて非効率的運動になるのである。
 鰐は、身体の横に肢がついており、運動エネルギーが重心を通ることができないので速歩まではできるが、駈歩をすることはできないのである。
 これに比べて、馬やチータは身体の下に肢がついているので、運動エネルギーが重心を通ることができ、速く走ることができるのである。

 そこで、馬とチータの違いは、運動エネルギーが重心を通過するのは同じなのであるが、チータは柔軟な脊椎を動かすことで重心を動かし運動ネルギーの線上に持っていっており、馬は脊椎が硬直しているので重心を動かすことができないために、運動ネルギーを重心の位置を通過するようにしているのである。

 馬は、脊椎を硬直化させて、運動するときの筋肉運動を最小限にして体力の消耗を軽減しているものの、運動の効率化のために重心を動かすことができないので、運動エネルギーを馬体の対角線上を通ることによって、その対角線上に重心が位置するので、体力の消耗の軽減と運動の効率化を同時に果たしているのである。

 以上を踏まえて、リードチェンジについて考察してみたいと思う。

 馬の駈歩のときの運動エネルギーは、馬体の対角線上を通っているので、この運動エネルギーのベクトルを切り替えているのがチェンジリードなのである。

 運動エネルギーが馬体の対角線上を通るためには、駆動肢である後肢のステップを操作して対角線上の前肢へと向かうか、馬体を曲げて対角線上の前肢と後肢を直線上に位置させ、後肢は真っ直ぐ前にステップするが重心を通って対角線上の前肢へと向かうようにする二つの方法がある。
 馬術的には、二蹄跡運動といって、対角線上の前肢と後肢を直線上に位置させる姿勢を作り、後肢が真っ直ぐ前にステップし、その運動エネルギーが対角線上の前肢に向かうようにしているのである。

 前述したようにチェンジリードとは、運動エネルギーのベクトルをチェンジすることであるから、例えば、左リードの二蹄跡の姿勢は、右後肢と左前肢が直線上に位置するように馬体を曲げ、右後肢から重心を通過して左前肢へと運動エネルギーが通っている。右リードの二蹄跡の姿勢は、左後肢と右前肢が直線上に位置するように馬体を曲げ、左後肢から重心を通過して右前肢へと運動エネルギーが通っているのである。

 運動エネルギーが右後肢から重心を通過して左前肢へ向かっているのを、左後肢から右前肢へ向かうように、また左後肢から重心を通過して右前肢へ向かっているのを右後肢から左前肢へ向かうように、運動エネルギーのベクトルを変換することが、チェンジリードなのである。

 チェンジリードをライダーの要求を受け入れて馬が反応するためには、馬の二蹄跡の姿勢を左右切り替える能力を馬が持つことが必要で、前提として前肢の位置を基準とした場合、右前肢の直線上に左後肢を位置させたり、左前肢の直線上に右後肢を位置させたりすると共に、左前肢の直線上にある右後肢の姿勢から右前肢の直線上に左後肢を位置させたり、右前肢の直線上にある左後肢の姿勢から左前肢の直線上に右後肢を位置させたりというように、二蹄跡の姿勢の左右の切り替えがスムースにできるようにするために、後肢の柔軟性が必然なのである。
 後肢の柔軟性とは、例えば、駈歩の走行中に、左後肢が右前肢の直線上にある姿勢から右後肢を左前肢の直線上に動かしたり、右後肢が左前肢の直線上にある姿勢から左後肢を動かしたりできることである。

 後肢の左右の動きの柔軟性を養成するには、フランクやリブケージやショルダーの柔軟性が必要で、チェンジリードのトレーニングは、これらの必要要件を整えることが重要で、これらの要件を満たすことなく挑戦すれば、馬の抵抗や緊張などの様々な障害を作ってしまうことになるのである。

 馬にとってチェンジリードは、とても特徴のある運動の一つなので、チェンジリードの場所を覚えてしまったり、直後にスピードアップしたりと様々な問題が起きやすいのである。これらの殆どが必要な要素が充分でないときに強要したためだと考えることができるのである。

 チェンジリードに関わらず、スライディングやロールバックやスピードコントロールなども同様で、各々に必要なファクターを充分に養成して望まなくてはならないのであり、馬の能力を引き出すためには、それらに必要な要件を満たすことを、ライダーは心に刻んでいることが何より重要なことなのである。

2021年11月10日
著者 土岐田 勘次郎

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