Horseman's Column title

VOL.144「困難と容易」


2022年4月号

 人間は、ものごとに直面したとき、困難だとか容易だと感じるものである。それは、自分にできるかそうでないかという場合に多く用いられるのではないだろうか。
 つまり、客観的にいっているわけではなく、自分ができるかそうでないかによって、困難だとか容易であるとかいっているに過ぎないのである。

 ものごとには、複雑であるか単純であるかの相違はあるが、困難か容易かは、できるかどうかにかかっているのであり、できることは容易で、できないことは困難なのである。 従って、同じことであっても、できる人にとっては容易で、できない人にとっては困難なのである。

 ものごとは、生物が数多くの細胞でできているように、幾つかの単純な構成要素で組成しているのである。つまり、困難だと見えるものでも、幾つかの単純な構成要素で組成しているのであれば、その単純な構成要素に分解すれば、容易な構成要素の組成でできているものだといえるのである。

 どんな困難なものであっても、単純な構成要素に分解すれば、単純な構成要素の一つ一つを克服することは容易になり、困難だと思うものであってもやがて容易なものとして見えるという理屈になるのである。

 飛躍の一つとしていえば、「全てのことは往復運動に分解でき、全てのことは、往復運動で組成しているということができる。」、全てのことは、単純なものの組み合わせでできているのであるから、どんな複雑なものであっても、単純なものに分解できるのである。
 画家が複雑な枝振りの盆栽を描いていても、画家の筆を持つ腕は、往復運動しかしていないのであり、複雑な曲線のリアス式海岸も、波は往復運動を繰り返しているだけなのである。

1.「サークル Circle」

 サークル運動における馬の運歩は、両前肢と外方後肢はサークルに対して求心性ステップをしており、唯一内方後肢だけが遠心性ステップをしているのである。
 内方前肢の位置を越えるように外方前肢は求心性ステップして、外方後肢も同様に内方後肢の位置を越えるように求心性ステップをしているのである。つまり、外方前肢は内方前肢のステップラインをクロス(交差)して求心性ステップをし、外方後肢は内方後肢のステップラインをクロスして求心性ステップをしているのである。
 そしてまた、内方後肢は、内方前肢の位置を越えて遠心性ステップをしていて、外方後肢は、外方前肢の位置を越えて求心性ステップをしているのである。
 サークルにおいて外方後肢の推進力が重要であるが、この推進力を陰でささえているのが内方後肢で、内方後肢が遠心性ステップをして重心の真下近くまで踏み込むことで、馬体を充分に支えることができているのであり、このことで外方後肢の推進力が発揮できるのである。

2.「スピン Spin」

 スピンは、別名としてターアラウンドともいわれるようにサークル運動の運歩と同じで、回転方向に対して両前肢と外方後肢は求心性ステップをし、内方後肢だけが遠心性ステップをしているのである。
 そして、サークル運動の最も回転半径の小さな回転運動をしているのがスピンであり、その運歩は全くサークル運動と変わりないのである。

 スピンでもサークルでも注目すべきは、内方後肢が遠心性ステップをして馬体の重心の真下へ向かってステップしていることで、馬体を支える役目を果たしている。
 両前肢や外方後肢の発揮する推進力を助けていることなのである。内方後肢の踏み込みの浅い馬は、馬体を充分に支えることができていないので、両前肢の軽快な運歩を妨げたり外方後肢の推進力を減退させたりしてしまうのである。

3.「チェンジリード Change Lead」

 チェンジリードは、運動エネルギーのヴェクトル(方向)の転換である。

 馬は駈歩のとき、外方後肢から内方前肢へ向けて運動エネルギーが働いているのである。その運動エネルギーが、右後肢から左前肢へ向かっているのを、左後肢から右前肢へ向かうようにしたり、その逆に左後肢から右前肢へ向かっている運動エネルギーを、右後肢から左前肢へ向かうように転換したりするのがチェンジリードなのである。

 運動エネルギーが馬体の対角線上を通るのは、馬の骨格が関係していて、馬の脊椎が上下左右へ曲がらないので、合理的に運動エネルギーが機能するために馬体の重心を通過する必要があり、その重心を通過するために馬体の対角線上を運動エネルギーが通過することで、第4肋骨上にある重心を通るようにしているのである。

 チェンジリードをするために、対角線上の前後肢が直線上に位置しているのを、反対側の前後肢が直線上に位置するように切り替える能力が馬に備わっていることが必要で、左前肢に対して左後肢が、右前肢に対して右後肢が、それぞれ左右に位置を変えることができることが必要なのである。
 つまり、左前肢に対して左後肢が右へまたは左へと位置を切り替えたり、その逆に右前肢に対して右後肢が左へまたは右へと位置を切り替えたりできることが必要なのである。何故なら、左前肢に対して左後肢がより右へ位置を変えることの延長線上に、右前肢の直線上に左後肢が位置することに繋がり、その逆に右前肢に対して右後肢がより左へ位置を変えることができることの延長線上に、左前肢の直線上に右後肢が位置することに繋がるからなのである。

4.「スピードコントロール Speed Control」

 スピードコントロールは、1つの要因として、第4肋骨にある重心を、前方または後方へ位置を変えることで、バランスバックは推進力の減退でスローダウン、バランスフォア推進力の増進でスピードアップすることなのである。
 このムーヴメントは、ノーズファーストといい、重心移動を起こしてからステップするというもので、下り坂を下るような走法で、惰性が働くので惰性を止めるのに時間を要するということがあり制動性が悪いのである。

 馬は、頭を振ることで重心を前へ前へと促して、バランスフォアを繰り返して前進気勢を増進しているのである。従って、頭を振ることを止めれば、バランスフォアを繰り返すことができなくなり、前進気勢が減退してスローダウンすることに繋がるのである。

 もう1つの要因は、筋力の行使である。
筋力を行使すれば前進気勢が増進し、行使を止めれば前進気勢が減退するというもので、筋力の行使により強くグランドを引っ張ったり(プリング)蹴ったり(キックバック)して推進するということである。
 このムーヴメントはステップファーストといい、上り坂を登るような走法で、惰性が働きにくく筋力の行使を止めれば直ちに推進力を失うので制動性が良いのである。

 このことをもう少し詳しく説明すると、内方後肢が遠心性ステップして重心の真下近くまで踏み込み馬体重をより支えることで、推進のための外方後肢の筋力行使が容易になり、外方後肢の筋力行使によって前進気勢を増進してスピードアップしているのである。

 前進気勢は、バランスコントロールと筋力の二つの要因が機能しており、その割合は別として、この両方を馬は行ってスピードのコントロールしているのである。

5.「ロールバック Rollback」

 ロールバックは、前進を停止して直ちに180°回転をし、駈歩をスタートするもので、元々は牛を追いかけて牛の反転に素速く対応するために生まれた運動である。
 このときの馬の運歩は、スライディングして後肢を馬体の真下まで踏み込みその態勢で180°回転し駈歩発進するもので、回転の運歩はスピンと同じであり、後肢が踏み込んだまま回転しているので、その後肢の踏み込みによってアグレッシブに駈歩発進を可能にしているのである。
 因みに、ロールバックは、Uターンではないことを明記し置く必要があって、ストップの直後にバランスバックした態勢で回転運動に移行して、そのバランスバックした態勢を維持して駈歩発進するものなのである。これに比してUターンは、前進モードの中で回転運動をするものなので、全く違うものなのである。

6.「スライディングストップ」

 スライディングストップは、直進走行においてストライドのエクステンドと共にスピードアップする中でストップをするもので、後肢のグランドコンタクトを維持して前肢はペダリングするものである。
 このとき馬体は、重力によってグランドに向かって落下しており、同時に馬体はグランドから落下する反作用として上方へ持ち上げられる力が加わっているのである。
 グランドの反作用の力は、馬体を持ち上げるが、後肢の着地位置と重心の位置の相関関係において全く作用が異なり、後肢の着地位置が重心より後方であれば、後肢の着位置より前の馬体の部分は押し下がり、後部の着地位置より後ろの馬体は持ち上がることとなり、後肢の着地位置が重心より前であれば、後肢の着地位置より前の馬体は持ち上がり、後部の着地位置より後ろの馬体は押し下がるである。
 従って、重心より前に後肢が着地してストップすることによって、後肢はグランドか押し上げられることとなり、グランドコンタクトを維持できてスライディングするのである。

7.「ガイド」

 ガイドとは、運動方向の制御で、車でハンドルを切ったり船で舵を切ったりすることと同様なのであり、その本質は、運動エネルギーに何らかの角度でブレーキを掛けることで成立しているのである。
 車や船の例えより、テニスボールの壁打ちを例えにした方が、分かりやすいのである。それは、ボールが壁に当たってその入射角と同じ角度の反射角で跳ね返っているものと同じなのである。車のハンドルを切っても船の舵を切っても、直進する運動エネルギーに何らかの角度でブレーキを掛けているから車も船も曲がるのである。
 車のハンドルを切ったとき、タイヤが曲がって地面に対するグリップ力が増し、グリップ力の小さい方へ車が進むということで、もし氷上でハンドルを切っても車が曲がらず直進してしまうのは、グリップ力によってブレーキがかからないからなのである。

 これらと同様に馬の進行方向をコントロールするためにガイドするとは、運動エネルギーに何らかのブレーキを掛けることで、その反射角に馬の進行方向が決まるのである。
 初心者が馬を上手くガイドできないのは、ガイドしようとしてレインを引いたとき、馬の首が曲がったりして、前進気勢が失われてしまったりして、思ったように馬を誘導できないのである。

 レインを引くことはブレーキに相当するので、前進気勢が失われると馬を誘導するための反射角が生まれなく、またレインを引いたときに馬の首が曲がってしまえば、思った角度で運動エネルギーに対してブレーキをかけることができないので、馬をガイドすることはできないのである。

 馬をガイドするには、運動エネルギーを維持したまま、その運動エネルギーのヴェクトルに対して、何らかの角度を以てブレーキを掛けることが必要なのである。

 もしレイン操作をするとき、左右のレインを均等に引いて馬の首が曲がらないようにロックした上で、何らかの角度のブレーキを掛けるようにすることが必要で、このときレインによるブレーキで前進気勢が失われないように推進して、前進気勢を維持する必要があるのである。

 例えば、スピンも多くのライダーが勘違いして回そうと思って失敗しているが、前述したように運動エネルギーに何らかの角度でブレーキを掛け、その反射角で馬を誘導することにはサークルのガイドと全く変わりがないのである。


 全てものものごとは、単純な構成要素でできていて、全ての運動は往復運動である2拍子の運動の組み合わせなのであるから、自分にとって容易であるか困難であるかを考える前に、どんなの複雑に見えるものでも、単純な構成要素に分解してものを見るようにすれば、不可能なことがなくなるのである。

2022年2月10日
著者 土岐田 勘次郎

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