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VOL.145「ライダーの育成」


2022年5月号

 今月のテーマは、ライダーの育成である。
 特にノンプロライダーの育成について考えてみたいと思う。

 ライダーには、便宜上 超初級者・初級者・中級者・上級者とあるが、それぞれにおいて、育成するためのプログラムが必要ではないだろうか。
 特に、超初級者・初級者の育成プログラムは、その後の乗馬人生を決定づけてしまうほどの重要性を持っているのではないだろうか。

 また、ライダーの上達におけるシステムは、日本は特殊で乗馬先進国とは全く違うのである。
 それは、ライダーの上達と馬のトレーニングとの関係性において、諸外国と日本とが特に異なっていて、日本がライダーの上達と馬のトレーニングは別々に行うものとされていて、ノンプロのライダーに馬のトレーニングを意識するということがないのである。
 しかし、乗馬先進国であるアメリカでは、「馬に乗ること則ち馬をトレーニングすること」といわれており、馬に乗ることは、馬をトレーニングすることなので、プロノンプロを問わず馬をトレーニングするということを意識下において馬に乗るのは、一般的常識なのである。

 さて、「馬に乗る」にはライダーに要求される素養が3つあって、バランス(Balance 平行感覚)・ドライヴ(Drive推進力)・フィール(Feel感覚)である。

 バランスは、三半規管が捉えた平行感覚の情報を小脳の感覚統合の機能で行う能力で、バランスが取れなければ緊張したり恐怖感を持ったりして、ライダーの冷静な精神状態を維持できなくなってしまい、バランス感覚に余裕がなければドライヴもフィールも覚束なくなってしまうのである。

 ドライヴは、大脳が抱いた意図に基づき運動神経を通して運動器官を駆使して馬の動きを促進する能力で、馬に対する影響力を発揮する能力がこのドライヴ力で、馬に対して取らなければならないイニシアティヴは、ドライヴ力によって成されるものあり、馬をコントロールする上で最も重要な能力なのである。

 フィールは、感覚細胞が感知し感覚神経を通して脳へ送った感覚情報を脳が認知する能力で、あらゆる状況を具にライダーに把握させる能力であり、バランスもドライヴもフィールの能力に支えられたものなのである。

超初級者

 超初級者は、馬を乗り始めたばかりの人達で、バランスの養成が最優先するライダーを指すのである。
 バランスは、小脳の感覚統合の能力であるために、充分養成されない内に大脳が関与すれば、忽ちその能力が阻害されアンバランスに陥ってしまうのである。
 ライダーの冷静な精神状態を維持するために重要な能力なので、姿勢を指導されたり、馬のガイドやドライヴの必要に迫られたり、不安や恐怖感に苛まれたりすれば大脳が働き、途端にバランスを失うので、極力大脳が働く必要のない環境で騎乗することが何よりも重要なのである。

 多くの人達は、馬を乗り始めたときに、意外と高いとか揺れるとかと感じて、不安になったり緊張したりする。従って、より緊張を高めるようなことがあってはならないのである。緊張が高まれば、不安や恐怖感に苛まれることになるので、アンバランスに陥って落馬の危険性が高まったり乗馬を嫌いになったりするリスクが大きくなってしまうのである。

 先ず、バランスを養成することに専念する必要があって、バランスの養成に専念するということは、直接的に何かするということではなく、大脳が口出しすることなく騎乗するということで、楽しく乗れることが最優先なのである。 また、馬をガイドしたりドライヴしたりすることを最小限にするということであり、もう一つは緊張感や不安感を高めないということである。
 緊張感が高まればアンバランスを引き起こし、ガイドやドライヴをしようとすればライダーの体が硬直してアンバランスを引き起こすのである。

 何よりも重要なことは、「軽い扶助で駈歩をして、決して暴走することない馬」を使用することなのである。従って、鈍感になってしまった馬や反抗的な馬は、バランスを養成するのが優先するライダーには向かないといえるのである。

 バランスと大脳は密接な負の関係性を持ち、その関係性とは大脳が働けばバランス感覚が損なわれるという関係なのである。

 バランス感覚がある程度養成されれば、大脳が働いてもバランス感覚が阻害される度合いが小さくなるのである。大脳が関与してもある程度バランス感覚が阻害されなくなることで、超初心者の卒業ということになる。
 つまり、ドライヴやガイドをしようとしたり、自分のポジショニングに気を使ったりしても、バランス感覚に不安を来すことがなくなるということである。

初級者

 初級者は、自分の意図に従って馬に何らかの要求をして、その中で馬とコミュニケーションをするライダーのことである。
 乗馬は、ライダーと馬とのコミュニケーションで成立するスポーツなので、自分の意図に沿って、その意図を実現するために馬をドライヴしたりガイドしたりするのである。
 具体的には、馬の3種の歩様とサークルや直線運動とを馬に要求して、コミュニケーションしながら実現することである。
 コミュニケーションとは、ライダーが馬に何らかの要求し馬に緊張を与え、馬が要求に従ったとき、プレッシャーをリリースして馬の緊張を緩和することで成立するのである。また、馬がライダーの要求に従わなかったときは、更にプレッシャーを強くして馬の緊張を高め、馬が要求に従ったときそのプレッシャーをリリースして、馬の緊張を緩和するのである。
 ライダーと馬とのコミュニケーションにおいて、重要なライダーの能力はフィールである。フィールの能力を養成することの始まりが初級者入門といえるのである。

 馬の反応を視覚で捉えるのではなく感覚的に捉えるように、ライダーが馬に与えるプレッシャーの馬体との接触点に意識を向けて、その接触感で馬の反応を捉える訓練が必要なのである。

 ライダーと馬とのコミュニケーションは、緊張と緩和によって成立するのであるが、ライダーがイニシアティヴを取ったものでなくてはなりません。
 ライダーが馬に対してイニシアティヴを取るためには、馬がライダーの指示を予測できないことが重要で、同じ場所で同じことを馬に要求していれば、馬は必ずその場所で同じことをしようと予測した行動を取るので、これを裏切ることが必要であり、裏切るような要求をしたとしても、その要求に馬が従ったときに、プレッシャーをリリースすれば馬は混乱したり興奮したりすることはなく、むしろライダーにコンセントレーションするようになるのである。

 ライダーの要求とは、立体的要求と平面的要求とがあって、立体的要求は推進(ドライヴ)によって要求し、平面的要求は、運動の方向性で誘導(ガイド)によって要求することである。
 そして、ライダーの脚はドライヴで、レイン操作はブレーキなので、このドライヴとブレーキの両方のコンビネーションによって、スピードや3種の歩様などの立体的コントロールと、運動の方向性をコントロールするガイドができるようになることが初級者の段階なのである。

 初級者の命題は、目標に向かって馬を誘導することと、そのときに3種の歩様やスピードをコントロールすることにある。
 このために、ドライヴとガイドのスキルを身につける必要があり、それはレイン操作と脚によるドライヴをコンビネーションすることが重要である。
 多くの指導者の間違いは、ドライヴのための脚とガイドのためのレイン操作を別々にしてしまうことである。ドライヴとガイドは、一体的なもので、ガイドしようとするときはドライヴが、ドライヴしようとするときはガイドが必要であり、また物理的にも一体的に成り立っているものなのである。
 物理的にとは、ドライヴするときの脚は、何処かを支点にして行うことで作用するのであり、その支点となるのがレイン操作やシートや反対側の脚であり、その支点であるレイン操作とのコンビネーションで、ドライヴの方向性が決定しコントロールできるのである。
 ドライヴは、推進ためのキューイング(合図)であって、物理上の力が働くわけではないが、支点とのコンビネーションションによって、馬の動きの方向性を示唆することができるのである。

 作用点と支点の組み合わせである脚とレイン操作のコンビネーションができるようになることで、初級者を卒業となるのである。

 馬の反応を感覚的に捉える訓練を、充分に行うことが初級者の段階で、視覚で捉えているとフィールが養成されないのであり、馬の状態を把握することができないので、コミュニケーションが取れないばかりではなく、馬のフラストレーションを高めてしまって、馬が反抗的になってしまうのである。

   初級者の段階で、馬の状態を視覚で捉えることと接触感で捉えることの違いを理解しておくことが重要なのである。この理解が将来のライディングを決定づけるもので、フィールの養成は馬に乗る以上何処までも際限のないものであるが、この段階でその違いを実感として知っておくことが、ライダーの未来を決定づけるのである。

中級者

 中級者は、ある程度のバランス感覚とフィールが養成されたライダーで、これらの能力を駆使して、作用点と支点である脚とレイン操作のコンビネーションによって、3種の歩様やそのスピードとガイドをコントロールするのである。

 そして、馬のフレームワークやバランスワークに挑戦するために、ライダーが馬に対して、強制的に成し得ることとコミュニケーションによって成立することとを理解して、馬の動きをコントロールするのである。

 ライダーが強制的に馬をコントロールすることができるのは、馬のフレームワークである。 フレームワークとは、馬の姿勢を作ることで、水平方向や垂直方向に馬体を曲げることができるのである。例えば、収縮や屈撓や内方姿勢や外方姿勢のことである。
 馬体上において、支点と作用点の2点間に加える力の方向をパラレルにすることで回転モーメントが生じ、この回転モーメントの力で屈撓や収縮や内方姿勢や外方姿勢を形成することができるので、このスキルを身につけることが必要である。
 因みに、作用点と支点の2点の力をパラレルにするには、作用点に加える力をライダー自身の重心以外に向かって加えれば、必然的にパラレルになるのである。

 バランスワークとは、馬の態勢を作ることであり、馬の態勢とは、馬の重心とこれを支える後肢の着地点の位置関係のことで、第4肋骨付近にある重心を前後に移行させるか、後肢の着地位置を重心より前にするか後ろにするかによって、バランスフォアとバランスバックになり、このことによって二つのムーヴメントが生まれ、バランスフォアでればメカニカルムーヴメントで、バランスバックであればテクニカルムーヴメントとなるのである。
 このムーヴメントをコントロールするために、重心と後肢の着地位置関係をコントロールするのである。

 馬の第4肋骨にある重心と後肢の着地位置との関係性において、重心より後方で後肢が着地していればメカニカルムーヴメントとなり、ノーズファーストのムーヴメントともいい、重心移動が起きてその後にステップするムーヴメントで、体を左側面から俯瞰すると左回転しながら運動するムーヴメントである。
 重心より後肢が前に着地するとテクニカルムーヴメントとなり、ステップファーストのムーヴメントともいい、肢の筋力で重心移動を行うムーヴメントで、馬体を左側面から俯瞰すると右回転しながら運動するムーヴメントである。

 作用点となるレイン操作と支点となるシートや脚の二つの力をパラレルに組み合わせて回転モーメントを作り、その回転モーメントによって屈撓や収縮や内方姿勢や外方姿勢を形成するフレームワークと、重心の位置を前後させたり重心の位置に対して後肢の着地位置を前後させたりしてバランスワークするスキルを身につけるのである。

 また、マクロとミクロの関係を理解する必要があって、マクロとしてのことを大脳で考えたりイメージしたりして、プレッシャーの馬体との接触点においてステップさせたり馬体を曲げたりというミクロにおけるコントロールを感覚的に捉えるように訓練する必要がある。
 つまり、マクロとミクロを同時に、マクロを大脳にミクロを感覚として意図するように、ライダー自身のトレーニングをする必要がある。

 往々にして人間は、自らの運動器官である手肢を動かしたとき、自分の手肢を動かそうとしたことを以て、動かしたと認識するので、夢中になってしまったり緊張したりしているときに、誤認識をするものなのである。本来は客体との接触感以て自らの手肢の動きを認識することが重要なのである。
 つまり、馬にプレッシャーをかけるための手や脚の動きを、そのプレッシャーが接触する馬体との感触を以て認識すれば、的確に馬の状態を感覚的に捉えられるようになるのである。中級者は、大いに感覚を養成する必要があり、この段階で感覚機能が充分に養成されていなければ、更なるレヴェルアップができないのである。

 中級者となるまでに学ぶ必要であることを身につけて卒業となり、上級者となれば、自らの乗馬や馬術の理想や追求すべく様々なことを探究して、より優れた乗馬を構築すべく研鑽することが期待される。

 上級者は、中級までのスキルを身につけたライダーで、これらのスキルのもとに、より馬を従順にしたり柔軟にしたり、そしてパフォーマンスのレヴェルアップを図るために、様々なこと探究して、自らの乗馬や馬術をクリエイトするのである。
 従って、本稿を一々述べることを控えたいと考えるものである。

2022年3月23日
著者 土岐田 勘次郎

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