Horseman's Column title

VOL.146「馬の柔軟性とバランス」


2022年6月号

 今月は、馬の柔軟性とその要因の一つであるバランスとの関係性について考えてみたいと思う。

 馬の柔軟性は、フィジカルの可動域と柔軟性とメンタルの従順性と理解力、そしてバランスがその構成要素であると考えられる。

 重心とは、質量の中間点で、馬の場合は第4肋骨付近にあるといわれ、ライダーが騎乗した状態であれば、人と馬とを合わせた質量の中間点となる合成重心が存在するのである。
 ものが動くとは、そのものの重心が動くことである。しかし、重心が動いて必ずしもものが動くわけではなく、重心が動いてものを支える支持力を越えるまでの重量の偏り、つまり、重量が支持力を越えるまでのアンバランスとなるまで重心が動くことで、ものが初めて動くのである。

 馬は、頭の8の字運動によって重心の移動を行って走行していて、バランスとアンバランスとを繰り返しているのである。
 つまり、馬の走行は、頭の8の字運動で重心移動を行ってアンバランスを発生し、これを支えるためにステップしてバランスが安定し、更に頭を振ることでアンバランスが発生し、そしてまたこれを支えるためにステップすることを繰り返しているのである。

 馬の柔軟性は、フィジカルの可動域と柔軟性であり、メンタルの従順性と理解力であり、もう一つの要因として考えられるのがバランスである。つまり、フィジカル的要因とメンタル的要因が整っていたとしても、バランスとしての安定性が欠けていたなら、馬の意志とは関係なくバランスの均衡を図るように馬は動こうとするので、ライダーの要求とバランスとの関係性において不都合が生じれば、フィジカル的に柔軟でもメンタル的に従順であったとしても、馬は柔軟な反応をすることができないのである。

 バランスは、二つに区分されると考えている。
 飽くまでも私の仮説として、一つはウエイトバランス、もう一つはパワーバランスである。
 ウエイトバランスとは、両極の質量が同量となる均衡のことで、ナチュラルバランスといってもいいのではないだろうか。そして、もう一つのパワーバランスとは、ウエイトバランスが崩れたときに、何らかの力を加えることで均衡を保つバランスで、自然界においては、アンバランスになったとき、一時的にパワーバランスで均衡を保ったとしても、必ずウエイトバランスへと移行しようとする働きが常に起きるのである。

 例えば、球体は、理論上は一点でこれを支えバランスが取れた状態で停止しているが、少しの力を側面から加えれば、途端にアンバランスとなって、転がり出すのである。この回転運動は、絶えずウエイトバランスが安定するための動きなのである。

 動物は、アンバランスが発生したとき、パワーバランスによって均衡を一時的に保ち、両極の重量が同量なるまでそのパワーが働き、最終的にウエイトバランスが保たれることで安定するのである。

 例えば、馬の首をベンドさせてビットコンタクトをリリースすれば、馬の首は元に戻ろうとする。
 このことは、首をベンドさせる前に馬のウエイトバランスが安定していたとすると、首を曲げたことでアンバランスになったと考えることができ、馬は脚力などを発揮してパワーバランスを取って倒れないようにしていると考えられる。
 従って、ビットコンタクトをリリースすれば、元の安定(ウエイトバランス)した状態に馬の意志とは関係なく戻ろうとするのである。
 しかし、そのまま、馬の首が曲がった状態を維持すれば、リリースしても馬の首は戻ろうとしないのである。これは、首を曲げた状態でもウエイトバランスが安定するように、肢の位置や馬体のフレームを形成するからなのである。この際誤解のないように申し添えれば、ビットコンタクトをし続けると、このビットコンタクトが均衡の構成要因となってしまうので、ウエイトバランスの均衡は生まれないのである。

 従って、馬の首をベンドさせてその要求を続けても、一時的安定(パワーバランス)ではなくウエイトバランスとして安定した状態が作らなければ、柔軟な反応やその首を曲げたままを維持することにはならないのである。

 ライダーが、馬の反応を柔軟なもののしたいのであれば、馬が要求に反応しても、その反応した態勢がパワーバランスの一時的安定ではなく、ウエイトバランスとして安定した状態を作らなければできないのである。

 馬の頭が下がっても屈撓しても首を左右にベンドしても、馬体フレームが様々な態勢をとったとしても、パワーバランスによる一時的安定ではなく、ウエイトバランスとしての安定した状態を作らなければ、その態勢を維持することはできないし、柔軟な反応をすることはできないのである。

 ここまでの考察により、ライダーによるトレーニングを極論すれば、馬がライダーの要求する態勢を、一時的なパワーバランスからウエイトバランスへと移行するように、馬体を変化させる能力を養成していると考えることができるのである。
 ライダーの要求する態勢を馬が反応として応えるとき、馬は一時的にパワーバランスとしてこれに応え、その後にパワーバランスからウエイトバランスへと移行するには、肢の位置や馬体のフレームを変化させなくてはならないのである。この変化が生まれなければ、ライダーが要求する前の状態に戻って、ウエイトバランスを取るのである。

 従って、馬は、ライダーの要求する態勢を反応として応えるためには、パワーバランスからウエイトバランスへと移行する必要があり、そのためにウエイトバランスとして安定できるように、肢の位置や馬体フレームを整えるのであり、その能力を養成しているのではないかと考えることができるのである。

   ライダーが色々な馬体のフレームやステップまたは動きなどの要求をしたとき、馬はパワーバランスで一時的にバランスを保つが、ライダーの要求以前の状態に戻って安定するのではなく、要求した態勢でウエイトバランスできるようにならなければ、馬はその態勢を無理なく維持することはできないので、パワーバランスからウエイトバランスへと容易に移行できる能力を養成していると考えられるのである。
 そうでなければ、ライダーの要求に一時的にパワーバランスによって安定しても、プレッシャーをリリースすれば、馬は元の態勢に戻ってウエイトバランスの安定を取るのである。

 ライダーの要求する馬の態勢やステップや動きを馬が反応するために、馬は、一時的にアンバランスになるので、これをパワーバランスとして要求に応えているのであり、その後にウエイトバランスになるように態勢を整えなくては、これを維持することはできないのである。

   パワーバランスからウエイトバランスへの移行が最も容易な態勢が収縮である。

 収縮は、支点が最も小さい面積で、ウエイトバランスが取れている状態なのであり、不安定にもなりやすく安定にもなりやすい態勢なのである。ライダーの要求に反応して、パワーバランスとなっても素速くウエイトバランスへと移行しやすい態勢なのである。

2022年3月7日
著者 土岐田 勘次郎

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