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VOL.147「乗馬における思想信条」


2022年7月号

 今月のテーマは、乗馬における思想信条である。

 多くの乗馬愛好家において、乗馬における思想信条なんて思ってもいないことで、特に初級者や中級者などには、無縁なのではないだろうか。
 しかし、思想信条は、ポリシーですから強く意識していてもいなくても長年乗馬を続けていれば、いつの間にか乗馬は如何にあるべしとか、こんな風に乗馬を楽しみたいとか、こんな乗馬が良いなと思っているものである。

 そんな思いが自分自身の乗馬を決定づけているのである。

 この乗馬における思想信条が、そして意識するともなく身についている思いが、本人の乗馬を決定づけていて、上達をも左右しているとしたら大変なことである。

 乗馬を始めたばかりのとき、馬を思うようにコントロールできずに右往左往していたのではないだろうか。 こんな時代に、馬の動きをコントロールするためにバランスを取ったり手脚を動かしたりすることと、自分自身の身体をコントロールすること、つまり、バランスを取ったり手肢の動きを意志通りに動かそうとしたりするのである。
 これは、馬をコントロールするためと自分自身をコントロールするための二つのステージを同時進行させなくてはならずに、右往左往しているということである。

 日本の乗馬環境では、馬を調教することとライダー自身の上達とをセパレートした考え方をしているので、ライダーの意識は、自らの身体のコントロールを乗馬において主体的要素だと思い込んでしまうのである。
 その一例が、姿勢である。

 従って、乗馬における思想信条を問えば、馬に対するものではなく、ライダーの姿勢やレインハンドのあり方といったことについての思想信条なのである。これは、乗馬における根幹から離れたことについて思いを馳せることとなっているということなのである。

 例えば、車に乗るために、自分自身の身の処し方ばかりを考えて、車の操作について思いを持たないというような、あり得ない事態が生まれてしまっているのである。
 このような実態は、ライダーの上達を著しく妨げる要因となって、ライダーの成長の障害となっているのである。

 多くのライダーを見ると、レインの長さは、馬の状態や反応状況に合わせたものではなく、そんな馬の状態には関係なく長さが決められてしまっているし、脚は、馬の脚に対する反応の状況に合わせた位置ではなく、絶えず馬のお腹に触れている状態を維持してしまっているのである。

 乗馬に必要とされるライダーの3要素は、バランス・フィール・ドライヴである。
 バランスは、馬の動きに対応する平行感覚であり、フィールは、馬の反応を察知する感覚であり、ドライヴは、馬の動きを促進する能力なのである。

 つまり、ライダーの上達は、どんな馬の動きにも追随できるバランス力が高まることであり、馬の反応や挙動を一早く察知できるフィールが精鋭化することであり、そして馬の動きを如何に推進できて、馬に対し絶えずイニシアティヴを取って、馬のコントロール精度を高めることなのである。
 つまり、馬を度外視して、この3つを養成することも試行することもできないことなのである。

 ところが、ライダーが自らの身体の処し方ばかりを考えて騎乗していれば、この3要素の熟練は到底できないのである。

 つまり、馬に掴まって乗っていて、レインをつり革代わりにして頼っているライダーが、馬の反応を感知するフィールも養成されなければ、馬を推進することもできなければ、バランス感覚も養成されないのは自明の理なのである。

 私は、30年以上前から、ライダーは馬をトレーニングするために馬に乗るべきであり、全てのライダーはトレーナーなのであるといってきた。

 この考え方が、一番ライダーを成長せしめ、馬を良くすることができるのである。この考えは、ライダーと馬の両方を同時に高められて一挙両得なのであり、乗馬を考える上で合理的であり至極当然なことなのである。

 バランスは、ライダー自ら馬を動かし、その動きに対応する平行感覚であり、ライダーが馬に与えたプレッシャーに対する馬の反応としての動きを察知する能力がフィールであり、その感覚が馬とのコミュニケーションを成立させ、馬の動きを推進する能力によって、馬のメンタルに対するイニシアティヴが取れて、そのイニシアティヴによって馬の推進を可能にするのである。

2022年5月2日
著者 土岐田 勘次郎

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