Horseman's Column title

VOL.153「感覚の乗馬」


2023年1月号

 新年明けまして、おめでとうございます。
 旧年中は、一方ならぬご愛顧を賜り、厚く御礼申し上げます。
 本年も相変わらぬご厚情を賜りますよう、お願い申し上げます。

 さて、ホースマンズコラムは、「全てのライダーは、トレーナー」という思想に基づき、ライダーにとっての目的である馬のトレーニング法やその考え方などを毎月お送りするコラムであります。
 本年も昨年に引き続き、毎月1本原稿をお送りしようと思いますので、宜しくご贔屓の程お願い申し上げます。


「感覚の乗馬」
 人間には、意識運動と無意識運動があり、無意識運動は、無意識であるために認識がないはずなのに、行動したことを認識していることもあれば、そうでないこともある。

 人間の運動は、小脳の感覚統合によって、大脳が直接筋肉を作動させるのではなく、感じとった感覚情報に即応するように筋肉を反応させているのだが、感覚情報に反応している筋肉運動を無意識に行っていても、運動をしていることを認識していることもあるのである。

 無意識に筋肉を作動させて運動しているのに、何故、その運動を認識できるのであろうか。

 因みに、感覚器官とは、知覚細胞と感覚神経のことで、知覚細胞は、感覚情報を受信して、受信した感覚情報を、感覚神経を通じて脳へ送信しているのである。
 知覚器官は、受信した感覚情報を脳へ送信しているのだが、小脳も大脳もこの情報を共有しているのである。

 小脳は、この感覚情報を運動神経と連結して、筋肉を作動させているのである。
 大脳は、感覚情報を認識するのであるが、その認識は、意識というレーダーに引っかかった感覚情報のみを認識して、レーダーに引っかからない情報は認識しないのである。

 つまり、大脳は、意識の向いている範囲の感覚情報を小脳と共有していて、意識レーダーに引っかからない感覚情報は認識しないので、意識の範囲外の感覚情報は、小脳と共有しないのである。

 大脳は、小脳と共有している感覚情報による感覚統合の運動を、無意識行動であるにも関わらず認識でき、意識のレーダーに引っかからない感覚情報を、小脳と共有していないので、その感覚情報による感覚統合の運動を認識できないのである。

 従って、小脳は、あらゆる感覚情報に感覚統合をして運動をしようとするが、大脳は、感覚情報を意識によって取捨選択して、小脳と共有した感覚情報に連動している感覚統合による運動は、大脳は無意識行動であるにも関わらず認識できるのである。
 しかし、大脳が小脳と共有していない感覚情報に基づく感覚統合による運動は、大脳は認識できないのである。

 運動は感覚統合によってのみ行っているわけではなく、感覚統合とは別の起動システムがあり、それは大脳が直接命令している運動である。
 感覚統合による運動だけでは、網羅できない領域があるために、バイパス機能として、大脳が直接運動を命令することができるのである。

 例えば、バケツを持ち上げる行為は、バケツの重さに相応した力を腕に入れて持ち上げており、これは感覚統合による運動であり、小指の筋肉を動かして小指を曲げる運動は、大脳が直接命令している運動なのである。
 つまり、目的に沿う運動は、感覚統合によって行い、筋肉そのものを作動する運動は、大脳が直接命令しているのである。

 普段の生活の中で色々な運動をしている我々は、大凡感覚統合による運動をしていて、特別なときだけ大脳が直接命令を下して、運動をしているのである。

 運動の得意なスポーツ万能の人は、感覚統合の能力が秀でている人で、不器用な人や運動音痴の人は、感覚統合の能力が低い人なのである。
 以上の実態を、我々は理解しなくてはならないのである。

 不器用な人や運動音痴の人を矯正するために、指導者が行っている指導法が如何に間違ったものであるかが分かるのである。

 何故なら、指導者がいっていることは、生徒の手肢をどのように動かしたらいいかを示唆するもので、その指導を受けた生徒は、大脳で自らの手足を直接制御して、指導通りに動かそうとするので、益々上手くいかない状態になるのである。
 大脳が、直接命令をして運動をしようとすれば、小脳による感覚統合、つまり、感覚情報と運動神経の連結が遮断されて、感覚統合ができなくなるので、上手くいくはずがないのである。

 我々は、運動を目的に沿ったものやイメージ通りにものにしたい場合、大脳直接運動を命令するのではなく、意識というレーダーをコントロールして、感覚情報を小脳と共有することが重要なのである。

 大脳が、小脳と感覚情報を共有すれば、小脳の感覚統合による運動を認識できるので、運動の状況を把握でき修正の必要があればこれを成すことを可能にし、優れていればこれをさらに促進することも可能になるのである。

 大脳が直接運動をコントロールせずに、運動を大脳の思惑に沿ったものにするためには、意識をコントロールし、運動によって生まれる感覚情報を、小脳と共有すれば、感覚統合に運動を認識できるので、その運動の正否を判断できるのである。
 運動の正否を判断したり、運動によって生じた感覚が、好ましいとか悪いとかと判断したりすれば、感覚統合による運動が、徐々に大脳の思惑に沿うように修正されるのである。

 運動の目的やイメージをマクロとして認識して、レーダーである意識をコントロールし、運動の最中に体の末端で感じている感覚情報を認識するようにして、練習を繰り返すことで、感覚統合による運動を大脳が把握できるようになるので、これを促進したり修正したりすることを間接的に可能にするのである。
 このことにより、小脳による感覚統合の精度を上げることができるのである。

 スポーツ万能な人も運動音痴の人も、ものごとが上手くいかないとなると、直ぐにバイパス機能(大脳による運動器官の直接的コントロール)を使って改善しようとして、失敗を繰り返してしまうのである。つまり、感覚情報と運動神経の連結を遮断をしてしまうのである。

 以上のメカニズムを踏まえて、我々は上達を期さなければならないのである。

 例えば、騎乗して駈歩の走行をしようとする場合、五感で感じていることを認識するように努めることが重要である。
 日本人は、初心者の自覚ある人ほど、そのときに感じとっていることを無視してしまうのである。何故なら、今感じていることは、上達や乗馬に必要のないことで、もっと上達すると必要なことが分かるので、そのときに気をつければいいと思ってしまうのである。

 このことが、感覚の訓練を疎かにし、感覚統合をどんどん劣化させて、馬のコントロールを未熟なものにし、上達をどんどん遅らせてしまうのである。

 確かに初心者の内に感じる情報は、必要のないことが多いが、一々この感覚情報を認識して、自らの意識をコントロールして感覚情報を取捨選択しすることを繰り返せば、感覚情報の中から必要であったり重要であったりするものを、簡単に取り出せる能力も身につくようになるのである。

 乗馬を首尾良くオペレーションすることも、上達することも、感覚統合の発達によって達成されるものなのであり、感覚統合が発達することで、バランス感覚も良くなり、馬の状態を具に感じ取る能力も高度化するので、馬をコントロールする精度も高まるのである。

 多くの初心者は、今やることに一生懸命になりがちなのであるが、この一生懸命になる気持ちは察するに余りあるが、馬に駈歩をさせようとしても上手くいかないので、躍起になってしまって、そのときに感じている感覚情報どころではない状態になってしまうが、そのときに感じている情報の中に、その状態を脱したり上手くこなせたりすることが潜んでいるのである。

 スポーツを上達するとは、上手くボールを蹴れたりバスケットにゴールできたり、技で投げることができたりすることだと思いがちだが、何故これらのことが上手くできるのかを考えれば分かることで、そのときそのときに感じとっている感覚情報を、瞬時に認識して対処できる能力があることで成し得ていることなのである。
 従って、最初は遠回りで煩わしく感じるかも知れないが、意図的に行動しているときに、何を感じているかを認識するように努めることで、徐々に状況を見て取れるようになり、状況を把握できれば、何をすればいいかは自ずと分かるのである。

 大脳による意識のコントロール精度を高めることが重要で、意識にコントロールできるようになれば、感覚情報を小脳と共有することができて、小脳による感覚統合の無意識運動を認識できるようになるので、オペーレションの精度を上げたり上達をしたりすることが容易になるのである。

2022年7月19日
著者 土岐田 勘次郎

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