Horseman's Column title

VOL.158「フレームワークと推進」


2023年6月号

 今月のテーマは、「フレームワークと推進」についてである。

 乗馬におけるフレームワークとは、馬体の姿勢や体勢を形成することで、推進とは、馬を駆動することである。

 ライダーには、馬上で物理的力を以て、できることとできないこととがある。

 フレームワークは、物理的力を以て強制力を発揮でき、馬を駆動することにおいては、強制力を発揮することは不可能なことなのである。
 つまり、ライダーが馬上において、馬の姿勢を形成するために馬体を曲げることは、物理的力を以て強制的にできることであるが、脚などで馬を動かすことが不可能で、脚などのプレッシャーは合図でしかなく、馬を推進することにおいて一切の強制力はないのである。

 この点において、多くの乗馬愛好家に誤解があって、この誤解が、乗馬の発展の障害となっているのである。また、ライダーが乗馬を上達するにおいて、この誤解がその方法を歪め、悪意のない、むしろ善意の非合理的仕様になってしまっているのである。

 馬を推進するために脚が必要であるとか、ライダーの姿勢とか拳の位置とか、これらがどのような根拠を以て、馬の動きやフレームワークに関わっているのかの説明がないのである。このことは、ライダー同士の会話に、科学的論拠がなく、情緒的になっている原因となっているのである。

 話を元に戻すと、ライダーが、馬上で強制的に可能なことは、馬のフレームワークである。

 フレームワークとは、一言で言えば馬体を曲げることである。つまり、内方姿勢や収縮など馬の姿勢を形成することと、それをコントロールすることである。

 そして、ものが動くということは、ものの重心が移動することで、ものが動くには二つの要因が考えられる。

 一つは、位置エネルギーが運動エネルギーに変換されるときで、これは客体との作用反作用の関係性が無く、平たくいえばものが高いところから落ちる運動のことである。

 もう一つは、ものを支えている支持力が増減したり重量が増減したりして、支持力が重量より下回ったときと、重量が支持力より上回ったときである。
 つまり、重量が増減するか支持力が増減するかのどちらかで、重量が支持力より大きくなったときにものが動くのである。
 また、ものを外部の力や筋力などの圧力を以て押した場合でも、重量と圧力の合計重力が支持力を上回ったときものが動くのである。

 重量+筋力などの圧力=合計重力 > 支持力  運動
 重力+筋力などの圧力=合計重力 < 支持力  静止
 以上が、ものが動く原理原則なのである。

 三角形の底辺の長さが支持力で、頂点と底辺との垂直の長さ、つまり高さが重量で、重量である高さを変えることなく、底辺を長くすれば支持力が増幅し、ものは動きにくく安定感が増すのである。また、底辺を短くすれば支持力が減退して、ものが動きやすく不安定になるのである。

 また、三角形の頂点を左右どちらかへ移動することで、底辺の長さが短くなって支持力が減退するのである。
 頂点が底辺以外の2辺の片方の辺が垂直になったとき、重量と支持力が一致し、垂直の角度越えれば、支持力が重量より小さくなってものが動くのである。

 さらにまた、底辺の長さを変えないで三角形の高さを高くする。
 つまり、重量を増幅すると、支持力に対する重量が大きくなるのであるが、どんなに重量を増幅させても、つまり、三角形の高さをどれほど高くしても、重量が支持力を越えることはなく、ものは動かないのである。

 底辺の長さを大きくすれば支持力は大きくなって、小さくすれば支持力は小さくなるのである。底辺の長さを0にしたとき、支持力と重量が一致するのである。しかし、どんなに底辺を小さくしてしても0が限度であるため、重量と支持力が一致するのが限度であるから、ものが動くことにはならないのである。
 従って、ものが動くには、必ず支持力が重量より小さくなるか、重量が支持力より大きくならなければならないのである。

 ライダーの馬に対する強制力は、馬のフレームのコントロールで、これはライダーと馬との合成重心をコントロールすることであり、合成重心をコントロールすることは、馬を始動させる強制性はないものの、動きを促進させたり抑制させたりする要因になるのである。

 ライダーにおける馬のフレームワークの強制性とは、レインを引くことで馬体の伸縮を強制できるのである。つまり、レインを左右どちらかへ引くことで馬の首を曲げることができるのである。また、ライダー自身へ引きつけることで、馬の頭を肩へ近づけることができるのである。
 そしてまた、作用点であるレインを真上に引き上げる。その引き上げる力の支点となるライダーのシートは、真下へ向かう力が働くのである。この作用点と支点の力が真上と真下のパラレルとなって、回転モーメントを形成するのである。
 この二つのパラレルの力は、馬を左側面から俯瞰すると、右回転のモーメントとなり、馬の頭頂を持ち上げ、馬の背を真下へ押し下げることとなって、結果として馬の頭と後肢を近づけることとなり、収縮(コレクションCollection)を、強制力を以て形成することができるのである。

 ライダーが、強制力を以て馬を収縮させることは、馬体を支える支持力を極力小さくすることなのである。しかし、馬を収縮させて支持力を理論上極限まで小さくできたとしても、馬体重より支持力を小さくすることは不可能なのである。つまり、ライダーが強制力を以て、馬を動かすことはできないのである。

 このことを三角形で例えるなら、底辺を短くする行為が収縮なのである。つまり、支持力の低下をコレクションで行っているということができるのである。

 ライダーが、レインを引いて馬を後退させることにおいて、レインを引くことで馬を後退させていると、多くのライダーは誤解しているのである。

 レインを引くことは、馬の背を支点にして頭を引いているので、馬の頭と背の距離が短くなることになり、馬の頭が馬体上の後方へ移動するので、第4肋骨にある重心がより後方へ移動することになるのである。
 重心がより後方へ移動することで、それまで前後肢の中間点に重心が位置していたものが、後方へ移動したことで、肢の支持力が減退するのである。
 しかし、ライダーは、レインを引いて馬の頭を、後方へ移動させていると認識しているかも知れないが、レインを引いているということは、支点となっている馬の背中を押していることにもなっているので、馬の頭と背中の距離は縮むことになり、馬の頭がレインを引く前に比べて、頭が馬体上で後方へ移動するので重心が後方へ移動するのであるが、支持力が馬体重以下になることはないので、馬は動くことはないのである。

 それでは、何故、馬は後退するのでしょう。

 馬がこのとき後退するのは、筋力を行使して馬体重と筋力の合計が支持力を上回ったとき、または、馬の意思で、肢で馬体重を支えることを止めて、結果的に筋力と馬体重の合計重量より支持力を小さくしたときなのである。

 つまり、馬が後退するには、ライダーが強制的にフレームワークをして、支持力を最小値にしても馬体重以下にすることは不可能で、馬の意思が働き、筋力の行使または支持力の低下をする以外にないのである。

 支点と作用点が同一物体上にあるのは、支点と作用点の力は、全く同量でその方向は180度逆になるので、この二つの力は相殺されて、この物体が動くことに繋がらないのである。
 しかし、作用点の力を支点に向かわないようにすれば、支点の力は作用点の力と同量であることに変わりはないが、作用点の力と支点の力がパラレルとなるのである。
 例えば、作用点の力を真上に向ければ、支点の力は真下へ向くのである。

 本稿の主題であるライダーによる推進とは、ライダーの強制力によるフレームワークによって支持力を最小値化すること。その上で、ライダーの前傾姿勢などによりバランスワークすることと、脚などのプレッシャーを合図として馬を刺激することで行っていることなのである。

 従って、馬が動く初動は、馬の筋力の行使によるところの支持力の減退または重力の増強によって起きるのである。
 ライダーによるところの推進力は、馬の初動は飽くまでも馬自身が行い、馬の初動の後に、脚のプレッシャーやバランスワークによって、その衝動を促進することなのである。
 重ねて言及することになるが、馬の初動は飽くまでも馬自身が行い、初動が起きた後に、その運動を促進するとは、馬の支持力を低下させるフレームワークの強制力で、馬の4肢を重心に引き寄せることで、三角形の底辺を短くするようにして、支持力を減退させることにあるのである。

 馬の初動は、飽くまでも馬自身が筋力を行使しなくてはならないが、その初動を起こさせるためには、ライダーが馬に対して、イニシアティヴを取っているかが重要なのである。
 ライダーが馬に対してイニシアティヴを取ることによって、馬が従順にライダーの要求を聞きいれて、初動のための筋力の行使をしているのである。

 従って、ライダーの馬に対するイニシアティヴと、フレームワークによる支持力の減退は密接な相関関係があって、イニシアティヴが大きければ、フレームワークによる支持力の減退が大きくなくても推進力を発揮することができ、イニシアティヴが大きくない場合でも、フレームワークが充分であれば、これもまた推進力を発揮できる。
 フレームワークが充分でなく、イニシアティヴも充分に取れていなければ、当然推進力を発揮することできないのである。

 多くの場合は、強制力を発揮してフレームワークを充分にできるライダーは、馬に対してイニシアティヴが充分に取れるのである。しかし、イニシアティヴを取れても、フレームワークを充分にできると限らないのである。何故なら、フレームワークをするには、それなりのスキルが必要だからなのである。

 ライダーによる馬の推進力の要因は、馬のフレームワークを充分に施せるに足るスキルを持って、そのフレームワークの過程において、同時に馬に対してイニシアティヴが取れるようにすることが重要なのである。

2022年9月19日
著者 土岐田 勘次郎

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