Horseman's Column title

VOL.165「乗馬における推進力」


 新年明けまして、おめでとうございます。
 旧年中は、多大なるご厚情を賜りありがとうございます。
 本年も相変わらず、ご支援の程お願い申し上げます。
 そして、本年が皆様方に取りまして、幸多かりし年となり、更に愛馬のときが充実したものとなりますよう願い上げます。

2024年1月号 「乗馬における推進力」

 乗馬におけるライダーの馬に対する推進力は、多くの馬術家や乗馬愛好家にとって、根幹に関わる課題であり、その正体はこれまで謎であった。
 この乗馬における推進力を、論理的に解説した人はいないのではないだろうか。少なくても私は、聞いたことがないのである。

 乗馬においてライダーの馬に対する推進力は、ライダーが馬に対して主導権を握ることで成立するのではないだろうかと考えている。その主導権は、抑制力を超えた推進によって生まれるのである。

 馬が動く上での抑制力は、馬自身の体重であり、馬の重心と4肢の着地位置に関わる支持力であり、フィジカルの可動性やメンタルの理解力や従順性や反応性などが考えられる。勿論これらの要素は、作用によっては馬の推進になり得るものでもある。

 つまり、馬が動く上で、その動きを妨げる要因が抑制力であり、馬が動く妨げにもなり、それは動く要因にもなるのである。また、馬のフィジカルであるヘッドやショルダーや前肢や後駆や後肢が前後左右に動く可動性も、動く妨げになり、動く促進的役割を果たすのである。
 更にまた、馬のメンタルは、ライダーの指示命令を理解したり受け入れたりする能力のことであり、この指示命令を聞き入れて従う従順性のことである。
 馬のメンタルがライダーの指示命令を理解できなければ、馬が動くための妨げになるのである。また、ライダーの指示命令を理解できても、抵抗や反抗すれば、やはり馬が動く上での妨げになるのである。

 馬が動くための妨げになる要因は、ここに挙げただけではなく他にも様々な要因が考えられるだろう。

 ライダーが馬を物理的力の作用によって、馬を動かすことができないことは、これまで様々なところで解説してきているので説明を省力するが、ライダーが馬に対して主導権を握っている前提で、脚などでプレッシャーを与えると馬は動くのである。
 しかし、主導権にも程度があって、上級者になればなるほど馬に対して、主導権の程度が大きくなるので、脚のプレッシャーをさほど強く使っていないのに、馬が推進される。それに比べて、初心者は可成り激しく脚を使っても、馬が駈歩をしてくれなかったりするのは、主導権が握れていないためなのである。決して脚の強さの問題ではないのである。
 脚の物理的力の大きさではなく、ライダーが馬に対して握っている主導権の大きさによって、ライダーの脚のプレッシャーを、指導権の大きさが大きければ馬は強く感じ、小さければ弱く感じるのである。

 さて、ライダーの推進力は、馬が動くのを妨げる要因を突破して馬を動かす力なのであるが、乗馬を練習する内に、何となくこれらの抑止力を突破して、徐々に馬を動かし、馬に対する影響力を増して行き、推進力を身につけるものなのである。
 それは、ライダーの上達の過程で、何となく身につけるものが推進力なのである。

 馬の頭の上下動は、人間が走るときに腕を振る作用と同じで、重心移動を促進する役割を果たしていて、頭の上下動を止めると馬は動くのを止めるのである。しかし、人間が腕を振らなくても走れるように、馬もまた頭を動かさなくても筋肉運動によって動くことはできるので、馬がライダーに抵抗したり興奮したりしているときは、頭の動きを止めたとしても動きが止まらない場合もあるのである。
 特に馬は進化の過程で、首の上下動(厳密には8の字運動)を運動の促進的要素として、筋肉運動を軽減して運動できるようになった動物なのである。つまり、頭を上下動させることが運動の大きなファクターであり、人間が馬に乗って、馬の動きをコントロールする乗馬を、成立させている主な要因だといえるのである。

 ライダーが何となく馬を推進できるようになるのではなく、意図的に推進することができるようになるためには、レインで馬の頭の動きを抑制して、その上で脚などのプレッシャーをかけて、この抑止力を突破して馬を動かすことで、ライダーは、意図的に馬を推進することができるようになるのである。
 そして、このことは馬自身のメンタルの中で、ライダーの存在が大きくなって、ライダーの大きな影響力によって馬はプレッシャーを受け入れて、動くことになるのである。

 ライダーが人為的にレインで馬の頭の動きを抑止して、その上で脚などのプレッシャーを行使して、この抑止力を突破して馬を動かすことで、馬はライダーのプレッシャーを推進力として受け入れるようになり、ライダーのプレッシャーが推進力となるのが、乗馬におけるライダーの推進力の正体なのである。

 ライダーが、常歩や速歩や駈歩において、レインコンタクトによって頭の上下動を抑制して、常歩であれば静止する寸前、速歩であれば常歩になる寸前、駈歩でれば速歩になる寸前まで、その前進気勢を阻害したうえで、脚でプレッシャーを掛け、阻害した前進気勢をもとの気勢を取り戻すことで、馬の推進力が保たれ、そのときにレインコンタクトをリリースするようにすることを繰り返すことで、馬のメンタルにライダーの存在を大きくし、ライダーが主導権を握ることができるのである。
 そして、ライダーの推進力が形成されるのである。

 馬の頭の動きを止めることや左右にネックをベンドさせることなどは、馬の動きを抑制する要因になるので、これらの作用を人為的に作り、その上でライダーは馬にプレッシャーをかけて、馬を動かし、動いたところでプレッシャーをリリースすれば、ライダーの馬に対する主導権が大きくなり、その影響力によって、益々ライダーは推進力を行使できるようになるのである。

2023年7月25日
著者 土岐田 勘次郎

HOME

ホームへ戻るボタン

Eldorado Ranchへのメール reining@eldorado-ranch.com
TEL 043-445-1007  FAX 043-445-2115

(c)1999-2024. Eldorado Ranch. copyright all rights reserved.
このサイトの
記事、読み物、写真等の無断使用は禁止とさせていただきます。