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VOL.169「乗馬における馬のコントロール」その2


2024年5月号「乗馬における馬のコントロール」その2

 馬のムーヴメントには二つあって、それはメカニカルムーヴメントとテクニカルムーヴェメントである。

   メカニカルムーヴメントとは、馬は首を振り人間は腕を振って、重心移動をして、重心移動に伴ってステップしている運動のことである。
 このメカニカルムーヴェメントは、筋肉運動を軽減している運動で、体力の消耗が少なくて済む運動なのである。
 馬は自然体で立っているとき、前肢へ60%、後肢へ40%前後の体重を掛けており、首の伸縮に運動によって、重心移動をし易く進化している動物であるといわれているのである。
 放牧場で馬がリラックスして歩いているとき、最初の数歩は筋力を行使しているが、その後は肢の筋力を全く使うことなく歩いているそうである。

 そして、メカニカルムーヴェメントは、首の伸縮運動によって重心移動が起してからステップしているのである。これは、下り坂を下るような運動のように、惰性が働くので運動を継続しやすく体力の消耗が比較的少ない運動であるが、コントロール精度が高いとはいえない運動だともいえるのである。

 テクニカルムーヴメントは、筋肉運動で重心移動しているムーヴェメントで、筋力で自らの体重を持ち上げて重心移動をしているのである。これは、上り坂を登る運動のように、筋力の行使を止めれば直ちに運動を停止できるものであることから、運動のコントロール精度が高い運動なのであるが、筋力を行使するので体力の消耗が比較的大きく、運動の継続がしづらい運動なのである。

 メカニカルムーヴメントとテクニカルムーヴメントは、どちらか一方のムーヴェメントが行われるというものではなく、同時に行われるもので、走行時に後肢の着地位置が重心に近くなりより前になれば、テクニカルムーヴェメントの割合が大きくなり、遠くなりより後ろになればメカニカルムーヴェメントの割合が大きくなるのである。

 馬の進化の過程において、筋力を行使せずに運動できる能力を身につけたもので、筋力の行使は、スタミナの消耗やコンディションに左右されることが多いので、筋力を行使する割合を小さくするこの運動は、今流行りの省エネなる運動なのである。

 更に、人間が移動の手段として馬に乗ったことも、この馬の運動メカニズムによるところが大きく、馬が首の伸縮運動によって重心移動して運動しているので、この首の伸縮運動をコントロールすることで、馬の動きを間接的にコントロールできるので、人は馬の乗ったといえるのである。

 本来奇蹄目の馬は、地形の形状には対応力が低く、偶蹄目の牛の方がはるかに対応力を持っているにも関わらず、馬の運動特性によって人は、馬を乗用として用いるようになったのである。

 馬が運動しているとき、馬体を左側面から俯瞰すると、左回転モーメントと右回転モーメントの二つの回転モーメントのどちらかで運動しているのである。
 左右の回転モーメントは、走行時の後肢の着地位置によって決まるのである。
 後肢の着地位置が重心より後方であれば、後肢の運歩によって後駆が持ち上がり、これに伴って前駆が押し下がるので、左回転モーメントになるのである。
 一方、後肢の着地位置が重心より前であれば、後肢の運歩によって前駆が持ち上がり、これに伴って後駆は押し下がるので、右回転モーメントになるのである。
 そして、左回転モーメントで走行するときは、比較的メカニカルムーヴェメントの割合が多くなり、右回転モーメントで走行するときは、比較的テクニカルムーヴェメントの割合が多くなるのである。

 ライダーが、回転モーメントをコントロールする場合、左回転モーメントは馬の首をフリーにして首の伸縮運動を阻害せずに、脚やシートプレッシャーによって前進を促すことでできるのである。
 右回転モーメントの場合、レインを真上にピックアップして、このときの支点であるシートや脚を真下に押すことによって、後肢の着地位置を重心の真下または重心より前に位置させることによってできるのである。

 馬が前進するか後退するかは、重心の動きによって決まるのであり、回転モーメントの方向で運動方向が決まるわけではないし、ムーヴェメントによって決まるわけでもないのである。つまり、回転モーメントが右でも左でも前進も後進もあるということであるし、メカニカルムーヴェメントでもメカニカルムーヴメントでも前進も後進もできるということである。

 前進と後退のモードが決定するのは、支点と作用点の位置関係によって決まり、馬体上に支点と作用点が位置するとき、支点に対して作用点が前に位置するときは後退し、後ろのあるときは前進するのである。このとき、右回転モーメントか左回転モーメントやメカニカルかテクニカルムーヴメントかは前後進に関係ないのである。

 右回転モーメントのときは、真上にレインをピックアップする方を作用点(動点)、シートや脚支点(定点)にすれば、馬は後退するのである。一方、ビットを支点(定点)にして、シートや脚を作用点(動点)にすれば、馬は前進するのである。
 つまり、右回転モーメントのとき、シートや脚を支えにしてレインを真上に引き上げれば、馬は後退するのである。一方、レインを真上に挙げるもののこれを一定に保ち、シートや脚でプレッシャーを掛けるようにすれば、馬は前進するのである。

 重ねていうが、ライダーは、物理的力で馬を動かすことができないので、馬のメンタルにおいて、ライダーが主導権を握ることで実現することなのだということを十分に理解しておく必要がある。

 その前提に基づいて、左回転モーメントにおいて馬を前進させる場合は、ライダーは、馬の首の動きをフリーにして、脚やシートのプレッシャーを掛ければ、馬は前進するのである。
 そして、左回転モーメントにおいて馬を後退させる場合、ライダーは、シートや脚を支点にして、レインハンドを低めにしてレインを引き、馬の頭を後方へ移動するようにすれば、馬は後退するのである。

 右回転モーメントにおいて馬を前進させる場合、ライダーは、レインを真上にピックアップするがこれを支点にして、シートや脚を作用点にするようにプレッシャーを掛けることで、馬は前進するのである。
 そして、右回転モーメントで馬を後退させる場合、脚やシート支点にして馬の頭を作用点にして、レインを真上にピックアップすれば、馬は後退するのである。

 また、メカニカルムーヴメントでは、馬の首の動きを阻害しないようにして、脚やシートでプレッシャーを掛け、脚やシートを作用点にすることで、前進するのであり、レインを低めに引くプレッシャーを作用点にすることで、馬は後退するのである。
 テクニカルムーヴメントでは、レインを真上にピックアップして一定に保ち、脚やシートでプレッシャーを変えることで、ビットを支点にしてシートと脚を作用点にすることで、馬は前進するのである。また、脚とシートのプレッシャーを一定に保ちこれを支点にして、レインを真上にピックアップするプレッシャーを作用点にすることで、馬は後退するのである。

2024年3月24日
著者 土岐田 勘次郎

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