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VOL.170「乗馬における馬のコントロール」その3


2024年6月号「乗馬における馬のコントロール」その3

 ものは、重心の移動によって動くが、重心が移動しても、必ずしもものが動くわけではないのである。重心と支持点の位置関係によって、支持力が増減して、そのものの重力より支持力が下回ったときにものが動くのである。また、ものに対して外部から力を加えたときは、支持力より重力(重量+圧力)が上回ったときにものが動くのである。

 我々ライダーは、馬上にあって外部圧力を加えることは不可能で、例えば、脚で圧力を加えたとして、他の何処かでこの脚の力を支えるために力を発揮しているので、これらの二つの力は、同量で方向が真逆なので相殺されて、物理的な力とはなり得ないのである。従って、ライダーは、馬体を曲げるというフレームワークを行って、重心と4肢の位置を変えることで、支持力の増減を図っているのである。
 4肢と重心が遠ざかれば、支持力が増幅し馬は安定して動き難くなり、近づけば支持力が減少して不安定となり、馬は動きやすくなるのである。
 支持力が減退して馬が動きやすくなったとき、ライダー自身の重心のかけ方で、微力なら馬の動きに対して物理的影響を与えることができるのである。

 因みに、ライダーは、馬体上に左右の回転モーメントを作ることができる。後肢の着地位置が、重心より前にあれば右回転モーメントになり、後ろにあれば左回転モーメントとなるのである。しかし、ムーヴメントは、メカニカルとテクニカルが混在するもので、首の伸縮運動と後肢の着地位置によって、その割合が変わるのである。首の伸縮運動が活発になればメカニカルムーヴメントの割合が大きくなり、後肢の着地位置が重心に近づいたり重心より前に位置したりすれば、テクニカルムーヴメントの割合が大きくなるのである。

 ライダーは、ビットとシートまたは脚の2点を支点と作用点にして、支点と作用点の位置関係において、支点に対して作用点が前にあれば後退し、後ろにあれば前進するのである。

 レイニングホースの場合、左右どちらかの回転モーメントを行使するかは、そのパフォーマンスによって選択するのである。それは、メカニカルムーヴメントかテクニカルムーヴメントの割合をコントロールすることなのである。

 例えば。サークルのスピードサークルは、左回転モーメントを作用させメカニカルムーヴメントで前進気勢を旺盛にすることによって行い、これをスローダウンするときは、右回転モーメントでテクニカルムーヴメントに切り替え、前進気勢を減退させてスローダウンしているのである。
 また、スピンの回転運動は、後肢の踏み込みを深くして前肢の負担を軽減し高速回転を可能にしているのであり、右回転モーメントによって馬体の収縮を形成することがこのことを可能にしているのである。更にまた、スライディングストップは、高速走行の直後に後肢でのグランドコンタクトしながら停止するパフォーマンスで、スライディングのアプローチでのランダウンの高速走行は、右回転モーメントの作用によるテクニカルムーヴメントで走行し、重心の前まで後肢が踏み込んだ状態で停止することが必須なのである。
 これらの多くの場合は、右回転モーメントによるテクニカルムーヴメントの運動で、前肢の負担を軽減し、軽快に運動方向の変更を可能にしてパフォーマンスしているのである。

 さて、ここまでの論理展開を踏まえて、支点と作用点について考察してみたいのである。

 100kgの物AとBの二つが左右に位置しているとき、AがBを引いてもBがAをひいても、AとBは互いに引き寄せられ中間点において接触するのである。
 AがBを引いているときはAが支点になり、Bが作用点になる。BがAを引いているときはBが支点になりAが作用点になるのであるが、どちらが支点になろうが作用点になろうがAとBは引き合って、中間点で接触することになるのである。
 また、Aが150kgでBが50kgの場合、AがBを引いても、BがAを引いても、BがAのところまで引き寄せられ、Aの位置するところまでBが引き寄せられるのである。
 AとBのどちらが支点であろうが作用点であろうが、重量が同じであれば中間点で接触し、片方の重量が大きければ、重量の小さい方が重量の大きい方へ引き寄せられて接触するのである。
 地上においては、以上の物理的メカニズムが働くのである。

 以上のことを、馬上で考察してみたいのである。

 Aを馬の口で、Bをシートまたは脚とした場合、AとBのどちらかを支点または作用点にしたとしても、地上であればAとBのどちらかが重量の大きい方へ引き寄せられることとなるので、レインを引いても脚を使っても、その現象は同じになるしかないのである。
 つまり、Bの方の重量が大きいとすれば、Aを引っ張ろうが、Bで脚を入れようが、AがBに引き寄せられることとなるのであり、一方Aの方の重量が大きいとすれば、BがAに引き寄せられるのである。
 しかし、馬上では地上とは違って、レインをシートや脚よりプレッシャーを、強いインパクトを馬に与えるようにすると馬は後退し、この逆に、レインを持つプレッシャーより脚やシートのプレッシャーが、強いインパクトを与えるようにすると馬は前進するのである。
 この現象を見ると、AとBの質量に関係なく、馬上の2点においてプレッシャーが、馬に与えるインパクトの大きい方が作用点となり動点となるのである。そして、インパクトの弱い方が支点となり定点となるのである。

 以上の現象により、馬のメンタルには、AとBの作用点と支点の2点において、相対的に強いインパクトを作用点(動点)、弱い方を支点(定点)と受け止める概念があって、この概念によって、ライダーから与えられたプレッシャーを、馬が如何にも物理的作用のように反応する理由なのである。

 更に、乗馬において、ライダーによる馬の推進が大きなテーマであることはいうまでもないことで、推進は、馬に対して、ライダーが主導権を握るという前提で成し得ることであり、その主導権は、何故ライダーが握ることができるのであろうか。
 それは、矛盾によって成しうることなのである。

 ライダーがシートや脚によってプレッシャーをかけて、馬を動かすのであるが、その動きの妨げなる要因は、馬体重なのであり馬のメンタルなのである。

 馬が自然体にあるとき、ライダーがプレッシャーをかけて動かしたとき、馬が動きたいと思っているというタイミングで馬が動いたときは、ライダーの存在感はそれほど大きくなく、動きたくないと思っているタイミングで動かせば、ライダーの存在は大きいのだろうが、これは、馬のメンタルの状況に大きく左右され、ライダーが主導権を握る上で、深くて担ってしまうのである。しかし、馬の首に動きを阻害するように、レインをホールドして、馬が動き難くした上で、シートや脚でプレッシャーをかけて、馬を動かせば、馬のメンタル上にライダーの存在感が大きくなるのである。
 ライダーの存在感が、ライダーが主導権を握ることとなるのである。

 つまり、ライダーが恣意的に馬を動きづらくして、その上でシートや脚のプレッシャーをかけて、馬を動かせば、馬のメンタル上において、ライダーの存在感が大きくなり、その存在感によって馬をライダーが推進できることになるのである。
 従って、ライダーの主導権は、恣意的に馬を動き難くした状態の中で、プレッシャーを掛けて馬を動かし、馬が動いたときにそのプレッシャーを解放することの矛盾によって、形成されるものなのである。

2024年3月24日
著者 土岐田 勘次郎

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