Horseman's Column title

VOL.172「支点と作用点」


2024年8月号

 乗馬において、馬がライダーの強制力によって動くことはないのは自明の理であるが、上級ライダーは、如何にも自らのプレッシャーを馬に加えて、そのプレッシャーによって、馬を動かしたり動いている馬の動きをコントロールしたりしているように見えるのは何故であろうか。
 また、ライダーが馬に与えるプレッシャーを、馬が一々その意味を馬自身の頭脳の働きで理解し反応しているとは、そのスピーディーさ故に考え難いのである。

 ライダーは、レインや脚を操作して馬にプレッシャーを与えているが、その作用点を成立させているのは、シートやスティラップ(鐙)を支点にしているからなのである。

 荷物を持ち上げる場合でも、人は、床を支点にして、作用点の荷物を持ち上げているのである。
 しかし、物理学的には、支点と作用点は、どちらも支点であり作用点なのである。

 例えば、AとBの二つの100kg鉄球をロープで繋ぎ、Aに立ちBを引いても、Bに立ってAを引いても、結果は同じで、互いを引き合い中間点でAとBは接触してしまうのである。
 つまり、この場合、支点が定点で、作用点が動点になるということはなく、AとBは、どちらも動点なのである。片方が定点になることはないのである。
 AかBか片方が、圧倒的に質量が大きければ、質量の大きい方が定点に、質量の小さい方が動点に視覚的に見えるということはあるが、この場合も飽くまでも見る目であって、どちらも動点であり、どちらも作用点でありどちらも支点なのである。

 何故なら、150kgと100kgの二つの鉄球が互いに引き合った場合、150kgの方へ100kgの鉄球が引き寄せられるのであるが、これは、150kgの方へ100kgを引いても、100kgの方へ150kgを引いたとしても、150kgの方へ100kgが引き寄せられてしまうのである。

 しかし、馬上では同じようになるのであろうか。

 例えば、シートを支点にしてレインで馬の頭を引いたとき、馬の頭が胸に引き寄せられたり、レインを支点にして脚でプレッシャーを掛けたとき、馬の後肢が踏み込んだりするということがあるのか、地上と同様に、馬の口を作用点としてシートや鐙を支点にと考えても、馬の口を支点にして、シートや脚を作用点としても、結果は同じで、互いに引き合って、支点が定点になることはなく、作用点も支点もどちらも動点となるのかという疑問が湧くのである。

 乗馬界で良く耳にすることは、手ばかり使うから、馬の後肢の踏み込みがなくなるので、手よりも脚を主体的に使わなくてはならないというというのがある。

 私は、ライダーは、強制的に馬を動かすことはできないが、馬のメンタルにおいてライダーの存在感を大きくし、ライダーが主導権を持つことで、馬の推進を可能にしているとすれば、このとき、馬のメンタル上に、支点が定点で、作用点が動点という概念が生まれるのではないだろうかと考えている。

 この概念において、乗馬が成立しているのではないだろうか。

 この概念が馬の中に生まれることで、ライダーが支点と作用点の2点間の力のコンビネーションによって、ライダーが馬に与えるプレッシャーによって、作用点で馬を動かしたり、その動きをコントロールしたりしているように見えるのではないだろうか。
 それは、取りも直さず、馬上の何処かを支点にして、相対する何処かを作用点にして、作用点で馬体の変化を作ることが可能になっているのはないだろうかと考えるものである。

 馬体上に支点と作用点が生まれることで、作用点において、馬体に何らかの作用を生み出すことができるのであり、もし支点と作用点という概念が馬体上に生まれなければ、手を使うから馬の肢が動かず、脚を使うから馬の頭が動かずことはなくなるはずなのである。
 手を使っても肢は動くし、脚を使っても馬の頭は動くのである。

 結論は、ライダーが、馬のメンタル上において、存在感を大きくし主導権を握ることで、乗馬が成立するとき、馬に支点(定点)と作用点(動点)という概念が生まれるのではないだろうか。このことによって、実際上は、物理的力で馬を動かすことはできないのに、如何にもライダーがそのプレッシャーによって馬を動かしているように見えるのは、この概念の誕生によるところではないだろうかと考えるものである。

2023年9月30日
著者 土岐田 勘次郎

HOME

ホームへ戻るボタン

Eldorado Ranchへのメール reining@eldorado-ranch.com
TEL 043-445-1007  FAX 043-445-2115

(c)1999-2024. Eldorado Ranch. copyright all rights reserved.
このサイトの
記事、読み物、写真等の無断使用は禁止とさせていただきます。