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VOL.173「誤解の弊害」


2024年9月号

 今月のテーマは、乗馬における誤解の弊害である。

 乗馬界における誤解は、数多くあるが、一つ取り上げれば、脚によって馬を動かすということである。
 脚によって馬を動かすというのは、誤解であって、ライダーは、如何なる手段を以てしても、馬上にあって、物理的力を以て、馬を動かすことはできないのだから、脚によって馬を動かすというのは不可能で、乗馬界の最大の誤解なのである。

 しかし、馬を物理的力となって動かす要因が、ライダーに何一つないわけでない。それは、ライダー自信の体重であって、その体重の負荷が馬体にかかるとき、馬のバランス移動に、促進になったり抑制になったりという影響を与えるのである。
 このことは、乗馬をするライダー全員が知るべきことで、ライダーは、馬上にあるとき、馬を、物理的力を以て動かすことはできないが、ライダー自身の体重は、馬の動きに物理的影響を与えうる要因で、馬の動きを促進することも抑制することも、ライダーの姿勢を以て、つまり、その体重のかけ方で影響を与えるのである。

 乗馬界の誤解によって、ライダーは、脚によって馬を動かすと思い込み、馬を前に動かす場合、当然ライダーは、後ろから前に向かって脚で押し、馬を前に出そうと思うのである。
 従って、脚はより後方で使うことになり、脚を後ろに引けば、その逆にライダーの上体は前傾してしまうのである。そうでなくても、ドレッサージュでいうところのライダーの姿勢は、上体が直立して、下半身は、腰の中央線と足の踝が直線上に位置するようにシーティングするので、脚は後方へ引くように指導を受けるので、上手くできない人は、上体が前傾してしまうこととなるのである。

 以上のことからライダーは、騎乗姿勢として前傾しがちになるのであり、前傾すれば、走行時に馬の後肢がグランド引き込んだとき(後肢がステップしているときとは逆の状態)、つまりライジングのときライダーの腰が持ち上がるので、ライダーの上体は益々前傾することになるのである。
 このタイミングは、外方後肢がキックバックしたときに(ライジング)、ライダーが前傾するタイミングなのである。このタイミングでライダーが前傾すると後肢の踏み込みを妨げることとなり、推進力の減退を引き起こすのである。この逆に、ライジングからサンセットの向かうときに、ライダーが後傾すれば、ライダーの体重が馬の重心移動を促進することとなるので、馬はより推進されるのである。

 このためには、ライダーは、脚の位置が上体より少し前になっても良いので、上体は直立よりやや後傾するようにして姿勢を保つことが良いのである。こうすることで、ライダーは半自動的に、馬がライジングするときより後傾し、サンセットに向かうときに前傾するようになり、馬の推進を補助することになり、馬はより推進するようになるのである。

 本来ドレッサージュにおける姿勢は、馬の推進を助けるために、考えられたもので、脚に充分なライダーの体重の負荷を掛けるように、乗馬の教本の多くに書いているように、脚の位置が騎座よりも前になることを嫌うのは、馬の推進の妨げになるのを恐れるからなのである。しかし、現実的には、その逆の効果が出てしまっているのである。
 従って、ドレッサージュにおいては、脚を後方へ引いても、絶対に上体を前傾してはならないのが鉄則なのである。

 ドレッサージュ以外のライダーは、その姿勢から一旦解き放たれて、脚で馬を押して馬を推進するという誤解から脱する必要があり、脚は物理的力を持たず刺激でしかないので、脚の位置が問題ではなく、タイミングやとライダーの姿勢との連携において、脚という刺激を与えるかが重要なのである。

 例えば、ポスティングトロット(軽速歩)のときの脚は、ライダーが立ち上がるとき、つまりライジングのとき、脚で馬体をスクィーズして立ち上がるタイミングが正しいのである。このタイミングは、外方後肢がグランドを引っ張るタイミングと合致するので、外方後肢のステップにより刺激を与えることとなり、馬が推進されるのである。

 駈歩走行の場合でも、外方後肢がグランドを引っ張るタイミングで、脚で馬体をスクィーズするようにして、馬の推進を扶助するようにし、このタイミングは、ライジングするときに脚を使うタイミングなのである。

 脚が馬を推進しているのではなく、ライダーの体重が馬を推進していると理解しなくてはならないのである。

 馬の動きは、メカニカルムーヴメントとテクニカルムーヴメントがあり、馬体を左側面から俯瞰すると、メカニカルムーヴメントは左回転モーメント、テクニカルムーヴメントは右回転モーメントなのである。

 メカニカルムーヴメントの代表的なものは競走馬で、馬の本来の走法だともいえるもので、テクニカルムーヴメントは、馬術的走法で、方向の転換を多用するためのものなのである。

 従って、ライダーは、ムーヴメントによって、随伴という馬の前進気勢に合わせてライダーが体勢を取るというものがあるが、メカニカルムーヴメントのときは、左回転モーメントなので、ライダーもまた馬がサンライズからサンセットに向かうときに、これに合わせて前傾姿勢を取れば、馬の推進の扶助になるのである。これは、ライダーもまた左回転モーメントになるのである。
 一方テクニカルムーヴメントのときは、右回転モーメントなので、ライダーは、サンライズからサンセットに向かって、これに合わせて後傾姿勢を取れば、腰が前方に突き出されるので、馬の推進を扶助することとなのである。

 誤解なきようにいっておくが、脚のタイミングよりライダーの姿勢が重要で、ライダー自身の体重が、馬の動きに物理的力を与えているので、どんな姿勢を取り、その姿勢のもとに脚の刺激を与えるかによって、馬は推進されたり抑制されたりする反応をするのである。

2024年1月25日
著者 土岐田 勘次郎

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