Horseman's Column title

VOL.174「手押し相撲」


2024年10月号

 今月のテーマは、「手押し相撲」という遊びがあるが、このシステムが、乗馬におけるレインの引き方であるという話である。

 「手押し相撲」は、二人で向かい合って立ち、掌で押し合うというもので、相手が押そうとするときに、支え棒を外すように、相手の力をいなすようにすると、押そうとする人は、支え棒を失うのでよろけてしまい負けるというものだ。

 大分以前に、「タッチアンドリリース」というプロジェクトしたことがある。これは、レインを引きビットが馬の口に当たったところで維持するようにして、ビットがあたったまま馬の反応を待つというもので、この状態でじっと待つと、不思議なことに、馬が、ビットが当たった方へ顔を向けるのである。
 これを繰り返すと、馬はビットを当てただけで、その方へ顔を向ける反応をするのである。
 当時は、ビットを当てただけで、馬が顔を向けるように反応する理由が分からなかったのだが、理由が分からずとも、馬と引き合ったり馬が抵抗したりすることなく、馬の反応が作れるので興味深く試したのである。

 今日、この理由が解明できて、更に、進化形に到達することができたのである。

 馬の反応を作るとは、「プレッシャーアンドリリース」という原理原則をもって実践されている。
 つまり、レインを引いて馬にプレッシャーを掛け、馬がレインを引いた方へ顔を向けたとき、かけていたレインのプレッシャーをリリースするというもので、馬が顔を向けないときは、レインを引き更にプレッシャーをかけて、馬が顔を向けたときに、レインのプレッシャーをリリースするのである。
 このようにして、プレッシャーアンドリリースによって馬の反応を作るのである。
 しかし、この原理原則では、馬の性質によって、抵抗を馬のメンタルに固定化させてしまう畏れがあり、落ち溢れを生むリスクがあると考えられるのである。ところが、「タッチアンドリリース」なら、レイン引くのは、馬の口にビットがタッチするところまでなので、馬のメンタルに抵抗を固定化させてしまうリスクは可成り軽減できるのである。しかし、このシステムは、馬の反応が何時生まれるのかライダーに予測がつきにくいので、ライダーの性格や技量によってその成果に格差が出てしまうのである。
 つまり、ライダーの性格や技量によって、馬の反応を作れるという効果が大きく違ってしまうというリスクがあるのである。

 そこで、今回の「手押し相撲」というシステムが誕生したのである。

 ホルターブレーキングにおいて、子馬を初めてリードロープでリーディングするとき、子馬の正面に立ってリードロープを引くと、馬はこれに抗い前進するのを拒むのである。この馬が踏ん張ったとき、リードロープを引く手を離すのである、馬はリードロープで引かれている力に踏ん張って抵抗しているのに、突然その力がなくなるので、後方へよろけてしまうのである。これを繰り返すと、踏ん張ろうとすると肩すかしを食うものだから、馬は踏ん張ろうとしなくなり、1歩前に足を出すようになり、これを褒めるようにすると、馬は徐々にリードロープの引く方向へステップする誘導に従うようになるのである。
 新しい方式では、リードロープを引っ張るのではなく、ピンとロープが張るところまでで引くのを止め、その直後にリリースするのである。すると馬は抵抗を覚えずに、抗わず一歩前に出るようになり、そこで褒めるようにすると、馬は抵抗を覚えることなく、リードロープの誘導に従うようにすることができるのである。
 このことは、前進だけでなく、前後左右への誘導も同様に、リードロープがぴんと張ったところで直ぐにリリースするようにすれば、馬は抵抗をメンタルに固定化させることなく、ハンドラーの要求に応えるようになるのである。

 メンタルに抵抗を固定化するとは、馬が抵抗を覚えてしまい、要求に些かの抵抗が生まれてしまうのである。従って、要求を馬に何らかの動きを求めれば、馬はそれに抗いを見せるので、馬のメンタルに抵抗を固定化させてしまうのである。
 逆に、抵抗を馬のメンタルに固定化させなければ、要求に微塵の抵抗をすることなく応じるようになるのである。馬のメンタルに抵抗を固定化させないということは、要求するとき馬の動きを求めず、リードロープがぴんと張ったところやビットが口角にタッチしたところまででプレッシャーを止めれて、その直後にリリースすると、馬はこれに抗うことなく、タッチした方へ一歩動きを見せるようになり、これを褒めれば、馬のメンタルに抵抗を固定化させずに、馬は、要求に応えるようになるのである。

 以上の方式で、レインで馬を誘導しようとするとき、レインを引きビットに当たったとき、その当てたビットコンタクトを緩めるように、レインを緩めてリリースするのである。
 「タッチアンドリリース」では、馬が反応するまで、ビットに当てたまま待つのであったが、今回は、当てたら直ぐにリリースしてしまうのである。
 じっと馬の反応を待つ必要はないので、ライダーによって格差が出るということがなく、そしてライダーと馬とが引き合うこともないので、馬のメンタルに抵抗を固定化することもないのである。
 そして、馬は、ビットタッチしたとき、直ぐにその当たりがリリースされるので、これに抗うことがなく、ビットタッチした方へ顔を向けるのである。
 これを繰り返すことで、ライダーがビットタッチすれば、馬は、その方へ顔や頭や首を曲げて反応するようになるのである。

 このシステムを「手押し相撲」と名付けるものである。

 このシステムを成すことで、馬の性質などによる落ち溢れを作ることもなければ、ライダーの性格や技量による効果の格差も可成り小さくなり、馬が柔軟にライダーの要求に抵抗を示すことなく反応するようになる画期的方法なのである。

 このシステムで、重要なことは、ライダーの意識として、レインコンタクトのゴールをイメージしておくことなのである。
 例えば、左レインでコンタクトしたとき、馬は左側を向くようになるが、馬の顔が左の肩や脾腹に接触するまで、というようにコンタクトのゴールを最初からイメージして、何回も繰り返すことが重要なのである。
 ゴールとするところまで求めて、馬が抵抗なくコンタクトに応じるように、反応することが重要なのである。
 そして、このゴールを達成する過程において、馬の抵抗を作ることなく達成することがなにより肝要なのであり、これを成功せしめるのが「手押し相撲」のシステムなのである。

2024年2月5日
著者 土岐田 勘次郎

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