VOL.18 「運動の移行と重心」 |
2011年10月号 今月は、運動の移行と重心というテーマでお送りします。 馬をコントロールしてレイニングのマヌーバーをパフォーマンスするには、スムースに運動の移行ができるかどうかに掛かっていると言っても過言ではありません。 そして運動とは重心の移動のことをいい、運動の移行や変換は、重心移動の切り替えなのです。 このことを2つに分類すると、運動の方向変換(平面的移行)と運動そのものの移行(立体的移行)という2つのケースに分けることができ、運動そのものの移行とは、歩様の変換やスピードの変化で、運動方向の変換とは、直線運動から曲線運動へ・前進運動や後退運動から停止・また前進運動から後退運動へなどのことを意味します。 これらの2つのケースをそれぞれ単独に行っているケースと、この2つを同時に行っているケースとがあって、例えば、ロープのままその運動方向を変換させる「直進からサークルへ」や「サークルから直進へ」や「停止からバックアップ」などで、もう一つは、「ロープ(前進)からストップ(スライディングストップ)」や「停止から発進(ディパーチャー)」「ウォークからのロープオフ」「スピードコントロール」などが運動そのものを移行させるケースです。そしてもう一つは、立体的と平面的移行を同時に行っている「ロールバック」「リードチェンジ」が3つめのケースです。 以上の運動の移行は、重心移動を平面的な方向変換をしたり、立体的に歩様の変換によって切り替えたりすることや、これら平面的と立体的移行を同時に行っていることなのです。 つまり、歩様を変換せずに運動方向だけ変えるケースと、歩様を変換するケースと、歩様と運動方向を同時に変換するケースの3つとがあって、何れにしてもこの運動の移行がスムースにできるようにすることで、レイニングのパフォーマンスを可能にしているのです。 何れにしても運動の移行は、重心の移動の切り替えであって、重心の移動は、重心が安定から不安定、不安定から安定と繰り返していることなので、ライダーは、重心の移動を意識して運動をすることが重要なのです。 しかし、重心そのものを体感して、その移動を認識して運動している人が少ないのが現状です。 何故なら、自律神経や反射神経や運動神経でバランスを崩したり取ったりしてしまうので、意識的に行っている人はいないのです。 これを意識的に行わなければならないという意味ではなくて、馬を運動させる場合に、馬の頭の位置をビットでコントロールしたり、フレイムを作ったり、ライダーが前傾したり後傾したりしているのは、重心の移行をしようとしていることを意味し、この重心に何らかの影響を与えて、運動をコントロールしているという認識を持つ必要があるという意味です。 この時に重心を体感して、重心の移動を意識下に置いて運動することは、運動を合理的にしたり、馬の運動をスムースにしたりする上で重要なことなのです。 その運動の移行ができるように馬のステップをコントロールしたり、また馬の頭や後駆の位置関係をコントロールして馬のフレイムを作ったりすることは、重心を一定の方向性を保って移動をさせるために行っていることなのです。 例えば、ロールバックをショーイングで失敗してバックアップされてしまいオフパターンになってスコアペナルティ0になってしまった場合、外方レインを馬のネックにタッチしてロールバックの指示を出すところを、外方のハミを引っ張ってしまって馬がターンできずにバックアップしてしまったと判断して、次は失敗しないように注意して、レイン裁きをしなければならないと考えるわけです。 この考えはある程度正しいといえますが、この考えだとまた失敗する可能性が消えないのです。 つまり、この考えだとロールバックの失敗をしないようにする場合、外方レインを馬のネックにタッチして、馬がロールバックのステップを始めないときに、インサイドレインを引っ張って強制的にターンをさせて矯正する。これを繰り返すことによって、外方レインのネックタッチによって馬はロールバックだと理解してターンするという寸法です。 |
しかし、その前にこの馬は、そもそもバックアップとターンの切り替えを、スムースにできるようになっているのかどうかが問題だということなのです。 つまりバックアップをしている最中に、ライダーが少しだけ左右のバランス変えたり(扶助)外方のレインをネックタッチしたり(合図)したときに、馬は重心を後方へと移動しているのを、その合図や扶助により切り替えてターンすることができるようになっているかどうかが問題なのです。 このように後退から回転、更に直進へとスムースに切り替えるように、重心の移行を馬ができるという前提において、メンタルワークとして外方レインをネックタッチするとロールバックという反応をするようができるということなのです。 つまり、学習や訓練は、単にそれができるということが主目的ではなくて、その先に状況の変化がライダーの命令によって指示されたときに、否応なく従順に反応して、コントロールされるという結果を生み出すということなのです。 この為にフィジカル運動が、どのようにして人馬が行っているのかというメカニズムを理解することが重要で、つまりそれは重心移動をどのように行っているかを知ることなのです。 スピンは極めて複雑な重心の移行を行っている運動で、馬の肢は往復運動をしているに過ぎないが、馬体は回転運動をしているのです。この為に、馬の重心が何処にあるのか、また重心を何処に置くことがスムースで速い回転運動を可能にするのかというメカニズムを知らずして、ただ馬のステップをトレイニングしても中々上手くいかないし、馬の反抗を作ってしまいかねないのです。
また、乗馬における収縮(コレクション)は、重心の真下に馬の4肢を位置させることであり、重心の移行が容易にできるようにするためのもので、リードチェンジを容易にするためには、コレクションが極めて有効な体勢なのです。
そしてライダーやトレイナーは、馬をコントロールする際に必ず重心の移行を認識した上で、ステップや頭の位置やフレイムをコントロールしたり作ったりしなければならないのです。 できるだけ、騎乗中に上体を前後させたり姿勢を変化させたりして、重心を捜して絶えず重心を体感することが重要なのです。
そして、そのスィートスポットを後肢へまたは後方へと位置するように、後肢を踏み込ませたり自分の姿勢を変化させたりして、パフォーマンスをするように心がけることが重要で、これができるようになれば、格段に馬の運動がスムースになったり軽快になったりスピーディになったりするものなのです。 2011年9月26日 著者 土岐田 勘次郎 |
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