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VOL.181「乗馬における作用点と支点」


2025年5月号

 乗馬における作用点と支点との関係性について、考えてみたいと思う。

 力には、重力と動力の二つがあって、重力は、ものの重さのことで質量ともいうのである。もう一つは、動力で、動力は、作用点と支点との二つの力で成り立つもので、何処かで支え、この支持力を基盤にして力が発揮されるもので、作用点と支点は、どちらか一方で力を発揮することはなく、必ず作用点と支点とが一対となって力が発揮されものである。

 動力における力は、作用点と支点の二つの力が作用することで成立するもので、作用点の力の方向が支点に向かえば、支点の力の方向は、必然的に作用点の力と逆向きになり作用点へ向かい、作用点の力が支点以外のところへ向かえば、支点の力は必然的に作用点の力と逆向きになり、作用点の力と平行線を辿るのである。
 そして、作用点と支点の力は、全く同量となるのである。決して異なる力の大きさになることはないのである。

 地上で我々が動力を発揮するには、作用点を意識しても動力を発揮すれば、支点を意識しなくても、必然的に支点の役割を発揮させて、作用点を機能させることができるのである。つまり、動力を発揮するとき、作用点での目的を達成させるために、何ら意識せずに支点を合理的に位置させるのである。
 支点の合理的位置とは、作用点の物の重心の近くという意味なのである。

 例えば、水の入ったバケツを持ち上げるとき、取手を握って持ち上げますが、思ったより重ければ、立ち位置をバケツに近づけて、持ち上げます。このとき人は、立ち位置を意識することなくバケツの重心へ近づけて、目的を遂げるのである。

 馬上でも、地上でも作用点と支点との関係性が異なることは一切無いのであるが、地上にあるときは、作用点で目的が遂げられないとき、無意識に支点を最も合理的なところへ位置させて目的を遂げるのに、馬上では、これらのことが無意識に起きないのである。
 全く不思議な話なのである。
 つまり、作用点で不都合が起きても、無意識に支点を合理的なところにおいて、目的を達成しようという行動に繋がらないのである。

 昔、我々人間は、力仕事をするとき、「腰でやれ」といわれていた。
 このことは、身体の重心で力仕事をしろという意味で、更には、重心で仕事を合理的にするには、重心の最も近いところに支点を置くことなのである。
 作用点で合理的に力を発揮するためには、重心の最も近いところに支点を置くことが必要で、このことが「腰でやれ」という意味なのである。

 現在では、これを体幹というのであるが、私は、この言葉が最も嫌いである。

 何故なら、体幹体幹とやたらいって、体幹が鍛えられているとか、体幹が強いとかいうのである。体幹を鍛えることはできないし、体幹が強いということは絶対にないのである。

 本来は、バランス感覚が鍛えられているとか、バランスが崩れないとかいうべきなのである。
 綱渡りするとき、人は長い棒を持ったり両手を広げたりするのは、棒や両手の先端の重さを利用して、バランスを取っているのである。決して体幹でバランスを取っているわけではないのである。

 馬上にあるとき、合理的に支点を重心の近くに置くということにならないのは、何故なのであろうか。
 それは、馬という同一物体上に作用点と支点が位置していて、作用点と支点の力を発揮するライダーもまた、同じ馬という物体上に位置しているのである。

 つまり、地上と馬上の違いは、動かないものの上にあるのか、動くものの上にあるのかということで、ライダーは、動くものの上にありながら、作用点と支点の力を発揮しなければならないということなのである。

 動くものの上という意味は、馬を動かすことと馬体を曲げることは異次元で、全く異なることなのである。

 馬上の場合、作用点と支点を機能させなくてはならないということは、フレームワークで、簡単に表現すれば馬体を曲げるということなのであり、その上で、馬を動かすことを同時に行っているのが乗馬なのである。

   上級のライダーとそれ以外のライダーとでは、馬に対する主導権を握っている度合いが違うのである。つまり、上級者は、馬に対する主導権が大きく、初級者は、比較的主導権が小さいのである。
 この違いは、馬を推進する影響力に差があるということなのである。
 このことは、ライダーが、馬を動かすことに意識を奪われる度合いが、上級者は少なく、初級者は大きいともいえるのである。

 従って、初級者は、馬を動かすことに大きく神経を使わざるを得ない状況にあり、上級者は、初級者に比べ馬を動かすことに神経を奪われる割合が小さいのである。

 このことは、馬は上級者が乗ったときは、馬を動かすことに神経を使う割合が小さく、ライダーの要求するスピードで馬を半自動的に動かし、初級者が乗った場合は、一々馬を動かすために神経を使い、プレッシャーをかけ続けなくてはならないともいえるのである。

 以上に理由により、ライダーが馬上で作用点と支点を機能させるためには、上級者は、馬を動かすことにそれほど神経を使うことが少ないので、作用点と支点を機能させるために、無意識に支点を合理的位置に置くということができて、初級者は、馬を動かすことに神経を割合大きく使わざるを得ないので、作用点と支点を機能させるに当たって、支点を合理的位置に置くことができにくいということなのである。

 以上のことを要約すれば、上級者は、馬を動かすことに余裕があるので、馬のフレームワークをするために作用点と支点を機能させるにおいて、合理的位置に支点を無意識に位置させて目的を達成させるが、初級者は、馬を動かすことに精一杯なので、フレームワークのための作用点と支点を機能させるために、支点を合理的位置にする無意識行動ができないのである。

2024年12月19日
著者 土岐田 勘次郎

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