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VOL.182「ライダーの上達」


2025年6月号

 今月のテーマは、ライダーを如何に上達させるかである。

 乗馬におけるライダーの上達は、バランスとドライブとフィールの3要素が身につくことである。

 バランス感覚は、三半規管による平衡感覚で感じとる感覚情報が脳に感覚神経によって送信され、これを脳が受信し、小脳が運動神経を通して運動器官にその対応を指示し、運動器官がこれに対応することでできるのがバランスである。
 感覚情報を小脳が受信し、小脳が受信した情報に基づき、これに対応するように指示を小脳が運動神経を通して運動器官に伝達して、運動器官を動かすことを感覚統合というのである。
 従って、感覚統合には、大脳が関与していないのである。
 もし、大脳が感覚統合に関与するということは、大脳が直接的に運動器官をコントロールしようとすることをいうのである。この大脳による感覚器官のコントロールは、感覚統合による感覚情報と運動器官の連結が遮断されるので、運動器官の反応は上手く機能できなくなるのである。
 つまり、自転車に乗ったばかりの初心者が、ペダルを踏むという大脳の意図的行為が、感覚統合の遮断をすることになり、アンバランスになり転倒するというお決まりの事態が発生するのである。

 乗馬において、ライダーのバランス感覚の養成をするには、大脳の関与を最小限にすることが必要なのである。
 つまり、乗馬における大脳の関与は、馬のコントロールをすることによって起きることなので、馬のガイドをしない環境で馬に乗ることが必要なのである。
 例えば、ラウンドペンや調馬索などで、騎乗することが必要なのである。レイン操作をする馬のガイドは、ライダーの意図的行為なので、必ず大脳が関与してしまうので、感覚統合の遮断が起きてしまうので、極力ライダーが馬をコントロール必要性を最小限にして、バランス感覚を養成することが必要なのである。

 バランス感覚がある程度と養成されると、大脳が馬のガイドなどで関与しても、感覚統合の遮断が起きなくなるのである。つまり。バランスが保たれるということである。

 もう一つ、バランス感覚を養成することにおいて重要なことは、ライダーがリラックスしていることで、不安や恐怖感で緊張していると、大脳の関与をライダーが意図的に止めることができないので、アンバランスに陥ってしまうのである。

 そこで、重要なことは、安心して乗れる従順な馬を使用することが必要不可欠なのであり、それは、「軽い扶助で簡単に駈歩をして、決して暴走しない馬」が最適なのである。
 大人しいからといって、脚を使ってもなかなか駈歩をしなくなってしまった鈍感な馬は、不的確であるし、敏感でちょっと脚でプレッシャーを掛けると駈歩になるが暴走してしまう馬はもっと不的確である。

 そしてまた、バランス感覚を養成するためには、速歩は反憧が大きいので、駈歩走行することが望ましいのである。
 何故なら、速歩は、2拍子で往復運動なので、往く力と復える力が折り返しの地点で同時にかかるので、倍の力がかかり反憧が大きくなるのである。これに比べて、駈歩走行は、3拍子で楕円運動になるので、折り返しが円運動なので反憧が小さくなり、バランスの養成には適しているのである。
そしてまた、ライダーが駈歩ができたことによって、自信が生まれ、自信が生まれることにより優位性を持つので、モチベーションが旺盛になり、リラックスして乗馬を積極的に楽しめるライダーの精神状態を作れるのである。

 次に、ライダーによる馬の推進(ドライブ)である。
 ライダーが物理的力を以て馬を動かすことは不可能なのであるから、ライダーが馬のメンタルに対して主導権を握ることで、達成し得ることなのである。

 ライダーの脚やシートによるプレッシャーは、何処かに支点があって、プレッシャーの力をその支点で支えることで発揮される力なのである。ところが乗馬では、その作用点と支点が、馬体に位置しているのである。つまり、馬体という同一物体上に作用点と支点が位置しているので、その二つの力は相殺されるので、馬が動くことに何ら影響を与えることがないということなのである。
 従って、ライダーは、馬を推進するにおいて、馬のメンタルを活用してする以外に方法はなく、ライダーと馬とのコミュニケーションにおいて、ライダーが馬の対して主導権を握った上で、ライダーのプレッシャーで馬を推進するのである。
 従って、日本の乗馬クラブの多くで、指導されている脚の奨励は間違いで、主導権の握る方法を指導すべきなのである。つまり、馬とのコミュニケーションの仕方を指導しなくてはならないのである。

 さて、ライダーが馬に対して主導権を握る方法であるが、馬は頭の上下動で重心移動を促して動いている動物なのである。つまり、馬の頭が動くことで動き、止まることで停止する動物なのである。しかし、筋肉運動でも馬は動くことができるので、頭の上下動を止めても、馬自身が動きたければ動いてしまうのである。
 そこで、馬がリラックスした状態で、ライダーが左右のレインをタイトにして馬の頭の上下動を拘束します。すると馬は停止したり動きを鈍化したりします。その状態で、脚でドンと馬体を刺激します。馬は、このとき数歩前進します。ここで、左右のレインをタイトにしていたのをリリースします。
 馬は、左右のレインをタイトにされることで、馬は動き難くなり、その上で脚のプレッシャーがかかるので、数歩動いてしまうという矛盾をライダーの強いられるわけです。  この矛盾を、ライダーに数回繰り返されれば、馬のメンタルには、ライダーの存在が大きくなり、ライダーは、馬に対して主導権を握ることになるのである。
 そして、この矛盾を行うことで、ライダーが馬に主導権を握ることになるので、その後は、軽い脚のプレッシャーで馬を推進さすることができるようになるのである。
 極論すれば、レインを使うことが、馬の動きを抑制し鈍化させるもので、脚でプレッシャーを掛けることは、馬の動きを促進し推進するものなのである。
 しかし、これらの抑制と推進は、飽くまでもライダーが馬に対して主導権を握っているという前提で成し得ることで、馬のメンタルの作用を活用してできていることなのである。

 さて、最後にライダーのフィールの養成である。

 上記に示す通り、ライダーが馬をコントロールするには、馬とのコミュニケーションが必要不可欠なのである。
 コミュニケーションは、緊張と緩和で、ライダーが馬にプレッシャーを掛けることで、馬は緊張して、ライダーの要求に応えて反応したとき、掛けていたプレッシャーをリリースし、馬は緊張を緩和するのである。
 つまり、ライダーは、馬にプレッシャーとそのリリースによって、緊張と緩和を与えて馬とのコミュニケーションをしているのである。

 そこで、ライダーが馬に対して、レインや脚でプレッシャーを掛けたときに、プレッシャーの馬体との接触点で、馬の反応が生まれるのである。その反応を感じとるのがレインハンドや脚のフィール(感覚)なのである。
 フィールが、ライダーの要求通りの反応を馬がしたのか、そうでなかったのかを感じとるのである。そして、プレッシャーの馬体との接触感が、馬のメンタルの状態を現しているので、馬のメンタルの状態と反応が要求通りであったかそうでなかったかを把握するのが、ライダーのフィールなのである。

 ライダーのフィールは、意識をコントロールすることでできることなのである。
 ライダーは、意識を向けたところの感覚情報を認知するので、意識を向けていないところの情報は認知しないので、意識をコントロールすることで、フィールを養成することができるのである。
 感覚細胞で感知した感覚情報は、感覚神経(求心性神経)を通して脳へ送信されるのである。この感覚情報を小脳が受信して、この情報に基づいて、指示を運動神経(遠心性神経)を通して運動器官に送信し、運動器官がその指示に従って動くのである。
 このとき、意識に向いているところからの感覚情報だけを大脳は認知し、、意識に向いていないところからの感覚情報は認知しないので、大脳にとってはなかったことになってしまうのである。
 従って、無意識に身体が動いてしまうのは、小脳の感覚統合が機能しているが、意識をそこに向いていないために、大脳が認知していないので、体の動きも認知しないのである。
 大脳が意識を向けているところの感覚情報を認知することは、小脳とその感覚情報を共有していることになるので、感覚統合による体の動きも大脳は認知するのである。

 ライダーのフィールを養成することは、馬とのコミュニケーションにおける主要要素なので重要なことなのであり、そのためには、フィールのレーダー機能である意識をコントロールしなければならないのである。

 意識を体の全ての先端に向けることができれば、身体の全ての先端からの情報を認知できるので、ライダーの意図する手足の動きに意識を向けるようにすれば、そこの感覚情報を認知できる能力が身につくのである。

 乗馬におけるライダーのバランス感覚と推進力とフィールは、以上のような方法で養成できるので、日常の運動の中で、大脳の関与を制限して感覚統合の機能を養成し、矛盾によるコミュニケーションによって、馬に対して主導権を握り、そのコミュニケーションを意識をコントロールしてフィールを養成しましょう。

2025年3月28日
著者 土岐田 勘次郎

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